第18話 随分と……鍛え直したな、マジで。
『アカ、アカ大丈夫?』
『すやぁ、すひゃあ』
あっ寝てるだけか。
よかったあ……
ガクガクしだしたアカを背負い、ウロに帰ってきた。
まさか急に進化するとは思わないじゃん?
レア個体だっていうから、もっともっと経験値がいるもんだとばっかり……
『さすがにアレほどの魔力を一度に摂取すればこうなるでしょう。アカちゃんは一度も進化をしていないようですし』
たしかにそうか。
アカはどんな魔物になるんだろうなあ。
トモさんも知らないんだよね?
『はい、ニセムシに関しては前にも言ったように謎が多いので』
ふうむ。
で、どれくらいこのままなの?
『さて、なにぶん情報が乏しいもので。ですがまあ、半日程度でしょうか』
そっかあ、ボクもそんくらいだったなあ。
じゃあ、アカについていてやろうかな。
『むっくん、適当な葉っぱを集めておきましょう。進化したては空腹になっておりますので』
あっはーい。
このちょっと上に茂ってたな。
青々しいのを選んで摘んでこよっと。
目覚めに合わせて最高の葉っぱをあげるぞ、アカ。
外へ出ると、遠くから断続的な轟音が聞こえた。
なんじゃとて!?
……あ、あっちはおひいさまたちが向かった方か。
戦闘にでもなったのかな。
っていうか到着すんの早いねあの人たち。
ワープでもしたのかしら。
『凄まじい威力の魔法が飛び交っています。おそらく、竜種の死体に群がった魔物群との戦闘でしょう』
うわ!いま空に向かってごんぶとレーザーが見えた!!
すっげ……アレもエルフさんたちの魔法?
『はい、遠すぎて確定ではありませんが……雷撃系……いえ、神聖系の高位魔法でしょうか。今更言うことでもありませんが、むっくんは掠った瞬間に蒸発します』
うん知ってた。
この世界、ボクに厳しすぎない?
というか弱きものに厳しすぎない?。
『エルフは魔法を使わせたらトップクラスの種族です。運動能力は獣人に劣りますが、近付かれなければ無敵ですね』
はえー……怒らせないようにしとこ。
あと、間違っても攻撃しないように。
おっと、葉っぱ集めなきゃ。
アカのためにぶちぶち、ぶちり。
ちょっと味見……うん!青臭くて不味い!!
こんなんばっかか!ここは!!
そういえば今までに果物的なもの見たことない!!
『むっくんがもう少し強くなれば、果物探しに行きましょうね』
はぁい。
ううう……弱さは、罪だ。
・・☆・・
『魔力の反応が落ち着いてきました、進化が終わりますね』
眩しい!!
眩しいんですけど!!
葉っぱ取って戻ってきてからしばらくして、アカがめっさビカビカしてて何も見えないんですけど!!
近くについていたいと思ったケド物理的に無理ですぞ!!
『むっくんは虹色に光って綺麗でしたよ』
ゲーミング芋虫だったんボク!?
アカはただ眩しいだけなのでまだいい方じゃん!!
そんな面白いことになってたの!?
しかし……トモさんが隠れろって言うわけだよ。
目立ってしょうがないや、コレだと。
ちなみに今はウロの入口を葉っぱで塞いでおります。
もうそろそろ暗くなってくるからね、仕方ないね。
『私はむっくん付きのサポート役ですので、細かい所は把握できませんが……見なさい、発光が収まってきましたよ』
あ、確かに。
輪郭すら見えなかったのに、うっすら確認できる程度の感じになってきた。
楽しみだなあ、どんな形に進化するんかな。
ねえねえトモさん、魔物ってみんなこんな感じで進化するの?
『そうですね……むしろ発光するモノが少数派です。竜種などのように長い年月を経て成長する方が多数派ですね』
へえ、ゲームみたいにはいかないんだ。
『言いにくいことですが、生命サイクルの早い……つまりは死にやすい魔物が一気に進化するのです』
あー……うん、なるほろ。
虫とか小動物とかね。
まさにボクたち!!
『むっくんは知性がありますので調子がいいですが、普通の本能で生きるような魔物は特に早死にします。それが生命のサイクル……いわば食物連鎖です』
あー!理科とかで教わる例のピラミッドね!
勿論ボクは最底辺なわけだ。
『さて……進化が終了しましたよ』
お!
発光が収まって、ウロの中に暗さが戻ってきた。
さてさて、アカの雄姿を拝むとする……か……?
……なにこれ。
『おやびん、おはよ。からだ、かたい!なんで!?』
薄ピンク色の、塊がある。
それが、アカの焦った思念を伝えてきた。
ええっと、コレ、まさか。
『なるほど……蛹ですね、これは』
だよねー?
どこからどう見ても蛹。
なんか、蝶とかじゃなくて……アレ!カブトムシの蛹をやっぱりマスコットみたいな形にした感じ!
だってカワイイ目はそのままだし、触角も付いてるもん!
普通の蛹とは違うね、どう見ても。
『アカ、大丈夫?葉っぱ食べれる?』
お腹が空いてるハズなので葉っぱを置いてみたが……どうなんだろ?
口が見当たらないんだよな。
芋虫状態の時は〇スラを可愛くした感じのがついてたんだけど。
『うう?う~ん……だいじょぶ!』
うわぁ!?
以前口っぽいものがあった所から、ジャキンとストローみたいなのが伸びた。
『口吻ですね』
あー、蝶々がお花に突き刺して蜜とか吸うアレね。
でも、それなら花を探してこないといけな……なにィ!?
『おいし!おいし!』
アカが口吻?を突き刺した葉っぱが、吸い込まれていく!
ちょっ、何あれ。
どういう理屈でああなってんの?
あの葉っぱはそんな……湯葉みたいに柔らかいモンじゃなかったぞ!?
『なるほど、口吻を突き刺して微弱な魔力を流し、葉全体を柔らかくして吸い込んでいるのですね……おそらく、無意識でしょう』
すっごいなアカ!?
そんな、考えただけで面倒臭いことを無意識で!?
はえー……ハイスペックな子分だぁ。
『アカちゃんのスキルを確認しておきましょうか』
当の本人は葉っぱを吸い込むのに夢中なので、確かにいいタイミングだな。
・個体名『アカ』
・保有スキル『念話』『念動力』『雷撃魔法』『衝撃吸収装甲』『魔力吸収効率化』『撃発口吻』
ほほー!
なんかちょいちょい変わってる!
『衝撃吸収』が『装甲』になってるし、『魔力吸収』に『効率化』が!……ボクには効率化ないのに!!
口吻が葉っぱをグニャらせたのもそういうことかあ。
そして『撃発口吻』……これアレでしょ、ボクの『撃発刺突棘』と同じような感じでしょ。
いいなー!なんか防御面ではボクより充実してない?アカ。
おやびんの地盤がぐらぐらでござーる。
『アカ、すごいなあ。ボクも頑張るよ』
『おやびん、アカより、しゅごい!かっこい!かっこい!!』
なんだろう、全肯定やめてもらっていいですか?
無限に調子に乗りそうだよ。
あ、それといつもの声と念話が被る現象がなくなってる。
口がないから当然だけど……ちょっと寂しいね。
あれ、でもアカって蛹はカブトムシだけど口吻は蝶々だよね。
……羽化?する時にはどんな感じになるんじゃろか。
『全くの謎、ですね。そもそもニセムシに知性があることすら、この世界では知られていませんし』
そうなの!?
『そうですよ。たまたま念話の受け手がむっくんだったからこそわかったことです』
はあん、なるほどねえ。
まあ、この世界って魔物まみれだもんねえ。
言っちゃ悪いけど、吹けば飛ぶような虫の研究なんかしている場合じゃないもんな。
異世界ファーブル先生の誕生を待つしかないのかも。
『生存に必要な情報以外は後手に回る。これは地球でも同じことです、この世界には魔物がいますので余計に』
だよねー。
いやあ、乱世乱世ってやーつ。
そういえば今更だけどトモさんって地球のことよく知ってんね。
『むっくんの知識をロードしたものと、それに自分で観測した結果ですね。なにせ私は暇でしたので』
ワンオペ女神様だったね、そういえば。
じゃあ、ボクみたいなのとこんなに長い事組んだのもはじめて?
『はい。厳密に言えばむっくんで2人目ですが、前の方は私を悪魔認定して転生を断りましたので』
あの状態で断る人っているんだ……
『某宗教の敬虔な信者でした。あちらは一神教ですので……』
うん、このお話はやめておきましょうね!
なんか色々ヤバい気がするので!!
『おなか、いっぱい!』
お、アカの食事も終わった。
あれだけあった葉っぱが全部ない。
健啖家だね、アカ。
『今日はもう夕方だから、このまま寝ちゃおっか?』
『おやしみ!おやしみ!』
うげぇ!?
アカが背中に飛び乗ってきたんだけど……この子、二倍以上重くなってる!!
動けなくなるくらいじゃないけど……急に来るからビックリしたんだよ!
まあ、かわいいもんだね。
ちっちゃい子がじゃれついてくるようなもんだ、うん。
『お客様ですよ』
は?
知り合いなんてうおお!?
「ニセムシが進化している……」
ええっと、エルフ隊のレクテスさん?だ!
あの時と同じように、ウロの正面でガン見している。
急に来るのやめてもらっていいですかね!
『えるふ!えるふ!!』
アカは奥の方にぴゃっと引っ込んだ。
たぶんいい人?だから大丈夫だよ~。
「ホラ、おすそわけだ」
レクテスさんはウロに何かの肉の塊をねじ込んできた。
急!全てが急!!
「しばし近所住まいになるのでな。それではお休み、虫ども」
スッと彼女の顔が引っ込む。
……いい人だ、たぶん。
『アカ、エルフの人たちはいい人みたいだ。ご飯にしよっか』
『ごはん!えるふ!ごはん!』
それだとエルフを食べるみたいだなあ。
猟奇的ィ!!
ちなみに、お腹いっぱいと言っていたアカだけどお肉は別腹らしい。
半分きっちり食べました!
元気で大変よろしい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます