第17話 話の分かるおひいさま。
「お主は『やれ』という言葉に反応して魔力を溜め、『やめよ』と言ったら魔力を霧散させた。これは、言葉を理解しておらねばできぬことよ……のう?」
おひいさまの顔が近い。
むっちゃ近い。
半透明ドームにめり込んでるんだけど!
これに触ったら死ぬんじゃないの!?
『身体表面を薄い魔力障壁で覆っています。簡単に言えば個人用バリアです』
わかりやすい説明をありがとう、トモさん!
強キャラムーブするじゃん、おひいさま……
『――ちなみに、むっくんの残った寿命を全て注ぎ込んでもこのバリアは破れません』
強キャラだ!!!!
もうなにもできない!!!!
短い人生、いや虫生になるかもしれんね、ボク。
「理解しておったら、そうじゃの……何か合図をしてみよ」
面白そうな顔しちゃってまあ……
でも言う通りにした方がよさそうだよね。
右腕を上げて、ジャキンと棘を伸ばした。
もちろん、当たらないように細心の注意を払ってね。
こんなんで殺されたら末代までの恥だからね!その場合ボクが末代になるんだけどね!!
「おお!やはりこやつ賢いぞ!わらわに当たらぬように角度を付けておる!」
バレてる!?
「『思考種』の魔物ですね。虫型とは珍しい……」
レクテスさんだっけ?
彼女も興味深そうにボクを見ている。
思考種?
『知性ある魔物、その総称です』
ほほん、なるほど。
「悪いようにはせぬ、少しじっとしておれよ……ぬんっ」
ワーッ!?いきなりなんなんですか!?
なんで僕にビーム撃つのおひいさま!?
痛くも痒くもないけど!!ビックリするでしょ!?
『聞こえるか?』
聞こえるうゥ!?
なんかトモさんと同じ感じで声が頭に響くゥ!?
なにこれ念話!?
『の、亜種です。私の声は向こうに聞こえませんのでご安心を』
な、なるほど……
『聞こえますけど、あの、もうちょっと説明ちゃんとしてくれません?ビックリして死ぬかと思いましたよ!』
アカに念話する感じでやってみる。
あ、この人王族もしくは貴族だった……不敬罪で処刑されたらどうしよ。
おひいさまは目を丸くした。
『……お主、面白いのう』
にやあ、と笑っている。
正直怖い。
なんか謎の迫力がある。
「こやつめ、もっとちゃんと説明してくれと言いよった!ははは!!」
むっちゃ笑っとるじゃん。
爆笑じゃん。
周囲のエルフさんたちが無表情なの、ホントに怖いんだけど。
『――お主は、なんじゃ?』
おおう、いきなり確信を突く質問!
トモさんトモさん!コレどうしよう!!
『むっくんの小粋なトークで何とかしてください。……冗談です、転生うんぬんはどうせ理解されないでしょうし、疑われます……そこを言わずに、端的に説明を』
無理難題をおっしゃる……まあ、しかたあるまいて!
見せてやろう!小粋なトークを!!
『何と言われましても……ただの虫ですよ、ただの。生まれた時からこうだったので、こうとしか説明できませんけども』
『ほう、なるほどのう……確かに、生まれ持った知性の説明はできんなあ』
おひいさまの笑みがより深くなる。
コワイ。
『わらわ達はのう、ここへ調査に来たのよ。お主、ここらに住んでおるなら何か知らぬか?』
……別に言ってもいいよね?
ボク、何も悪い事してないし。
『ええっと、昨日でっかいのとでっかいのが喧嘩してました。あっちの方です』
水晶竜とかの名前は言わない方がいいよね。
なんで知ってんのお前?とか言われると思うし。
『でっかいの、とな?』
『はい、空を飛ぶ青いでっかいのと、地面から出てきた岩みたいなでっかいのです』
これでいいよね?
「空を飛ぶ青は水晶竜、地面から出てきた岩は大地竜じゃな……なるほど、魔素の乱れ具合からして竜種の諍いと思ったが、どうやら正しいらしいぞ」
おひいさまが周囲に言った。
後ろのエルフさんが手帳を出して即座にメモを取っている。
研究者かなにか?
『ふむ、お主の腹に張り付いておるニセムシはなんじゃ?』
『ボクの子分です。あの、おひいさま』
これだけは言っておかねば。
『ぬ?』
『ボクはどうなってもいいので、この子だけは逃がしてあげてください。なんにもしません、とってもいい子なので』
たぶん大丈夫だと思うけどね。
この人たちは強いし、賢い。
ボクらみたいな名実ともに虫けらを、どうこうしないだろうけど。
『ほう……ふむ、よい親分じゃな、お主』
おひいさまが笑う。
でもさっきまでとは違う、柔らかい笑顔だった。
その顔のまま、周囲を見渡している。
「ふふふ、たまげた勇士よ。『自分はどうなってもよいからニセムシを見逃せ』などと言いよったわ」
レクテスさんが、『へえ』みたいな顔をしてこちらを見た。
あの、そろそろナイフしまってくれません?むっさ怖いんですけど。
そっちが攻撃してこないと何もしませんので。
『心配せずともそのようなことはせぬよ。わらわは誇り高きエルフ、向かってこぬ者を撃つ魔法は持たぬ』
『うわそれかっこいい。……あ、ありがとうございます?』
やっべ、本音が漏れた。
「ふふふははは!肝が太いのう、この虫は!恐れておっても、心が折れておらぬわ!はははは!!」
おひいさまが立ち上がって爆笑した。
急にそれすんのやめてくんない?ビックリするので。
「ははは!はあ……怖がらせてすまんかったのう、虫ども。ほれ、これは駄賃じゃ」
ぽと、と目の前に何か落ちてきた。
なんじゃろ、この綺麗な宝石みたいなの……二個あるけど。
『魔力の結晶体、魔石です。かなり高純度のモノですね……』
マジで!?
そんなにいいものなの、コレ!?
「さて!あちらじゃったな……おい虫、わらわたちは調査に向かう。向こうでは戦闘もあろう……流れ弾に当たりたくないならば、近付かぬことよ。皆のもの、移動するぞ」
「「「ハッ!!」」」
うわびっくりした!?
おひいさまが声をかけるなり、残りの9人が一斉に動き出した。
うおお、歴戦の戦士って感じ!すごいキビキビしとる!!
『ふふふ、またのう、虫ども』
最後にもう一度念話を飛ばし、あっという間におひいさま達は立ち去った。
……まるで嵐のようだった、正直死ぬほど疲れたよォ。
『彼らは……やはりここに腰を据えるようですね。キャンプ地に野営用の装備が残っています』
言われてみれば、大きい荷物がいっぱい残ってる。
いやあ、それにしても刺激的な経験だった。
『アカ、もう動いてもいいよ』
そう声をかけると、お腹に張り付いていたアカがぺしゃりと地面に落ちた。
『こわかた!こわかた!』
かと思うと、喚きながら周囲を旋回している。
あーそうだね、怖かったね~。
なんたって強者も強者だ、あのおひいさまが気のいい人だったからよかったけど……ヤベー癇癪もちとかなら即コロコロされていた可能性もあったしね。
『でもおやびん、かっこよ!りっぱ!えらい!しゅき!!』
『はっはっは、言ったろう?おやびんは無敵だってぐええ』
せっかく格好いいこと言ったのに体当たりするのやめて!
ぐええとか言っちゃったじゃん!もう!!
で、トモさん。
この石ころなんだけど……
『食べてください』
やっぱそうだよねー。
高純度の魔力とか言ってたし、死体よりもよほどいいものだろう。
『2つともむっくんが……と、言いたい所ですが。アカちゃんと1つずつですね、むっくんなら』
よくわかっていらっしゃるよ。
子分を差し置いておやびんが独り占めするわけにはいかんでしょ!?
『アカ、アカ。この石ころ美味しいんだって? おやびんと半分こしようね』
石は同じサイズだし、どっち食べても一緒でしょ。
『いただきます』『いたらき、ましゅ!』
がりり。
……味がない。
しいて言えば石ころの味がする。
あと粉っぽい。
『かたい!かたくておいし!おいし!』
マジかよアカ。
これもイケるのか。
羨ましいよ、なんでも美味しく食べられて……う、お、おおお!?
すっご、これすっご!?
無茶苦茶力が増えてる!気がする!!
前にスライムの核を食べた時みたいに!!
『この増加量……この結晶は、少なくとも大地竜の幼体クラスですね』
あの10メーター級の!?
マジで!?おひいさまむっちゃいいものくれたじゃん!?
怖かったけど許す!全部許す!!
ありがとう!エルフだいすき!!ボク一生エルフに感謝する!!!!
『お、や、びん……へん、あつ、い』
アカぁああ!?
どうしたのお前!?なんか、なんかガクガクしてるゥ!?
病気か!?食あたりなのか!?
『――おや、進化の前兆ですね。むっくん、アカちゃんをさっきのウロまで運んであげてください』
ああ進化、進化ね!
びっくりしたァ……進化すんのォ!?
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