第16話 エルフさん、ファーストコンタクト。

 見られている。


 ものっそい見られている。


 青くて透き通った目で、エルフさんがボクたちをガン見している。

どういうことなの……?


『恐ろしく魔力遮断に長けたエルフです。私も、この状態になるまで一切探知できませんでした』


 そんなに……

エルフさんってみんなそうなん?


『いえ、魔力だけではなく静音性もです。登る時に一切音が発生していませんでした……恐らく彼女は斥候の達人なのでしょう』


 おー!スカウトさん!

って、彼女?


 ……むむん、めっちゃ綺麗ってことしかわからん。

髪は金色のロングヘアで、青い目。

無表情なまま、こちらを見つめている。

なんか、謎の迫力があるなあ。


『額飾りをしているでしょう?エルフは女性しかそれを着けません。男性の場合は耳飾りです』


 あ、そういう風習があるのね。

なんか額にサークレット?っていうのかな?

そんな装身具を付けてる。

細工が細かくて、いかにも高級そう。


 で……このおねえさん、ずっと見てくるんだけどどうしようか、トモさん。


『急に動くと敵対行動と認定されるかもしれません、気を付けてください』


 だよねえ。

せめてフリーズ!とか言って欲しい。

何も言わずにガン見はさすがに困るよ。

このまま待機してみるか。



 ……ねえトモさん。


『なんでしょう』


 このおねえさん、ぜんっぜん動かないんだけど。


『動きませんね』


 動かざること山のごとしだよ。

かれこれ30分くらい経つけど、このヒト瞬きしかしないよ……怖いよもう。


 どうしよこれ。


『ふわ……おはよ、おやびん』


 えらいこっちゃ!背中のアカが起きた!!


『アカおはよう!そのまま動いたら駄目だぞ~!』


「ピ……キュ!?」『んぅ?……わぁ!?なに!だぁれ!?』


 ああん。

アカは子供だもんな、仕方ない。

ボクもトモさんにあらかじめ言われなかったら同じ反応をしたよ、仕方ない。


 そして、エルフさんにも反応があった。

ビクリ!と震えて……動いた。


 ――顔の前に、逆手に握ったナイフを持ってきた。


『アカ、おやびんはむちゃくちゃ強いから大丈夫。そのままじいっとしててね』


 ……アカン、これ詰んだかも。

い、いやいやまだ早い。

エルフさんは専守防衛、こちらからちょっかいをかけなければ襲われることは……


 ――ナイフが、ずるっとウロに入ってきた。


 ボクはアカを背中に庇い、立った。

うぐぐ、二足で立つのちょっと難しい。

おかしいなあ、たぶん人間だった時にはしょっちゅう二足歩行してたのになあ。


『むっくん、攻撃はしないように』


 うん、わかってる。

アカが壁に押し付けられる感覚がある。

これ以上は、下がれない。


 ボクは、残った4本の腕を大きく、大きく広げた。

こっち来んなよ!!という意識を込めて。


 ……トモさん、エルフさんに念話って通じる?

っていうかボクとアカが話してたの、聞こえてたと思う?


『その知識は、私にはありません。むっくんとアカちゃんはパスを介しての念話なので、外部には漏れません』


 ……そういえばボク、念話のスキルなかった。

詰んだじゃん、この状況。

アカに喋ってもらうか?いやでも、すごい怖がってる思念が伝わってくるし……


 そんなことを考えている間にも、ナイフの刃はじりじりと近付いてくる。

ヤバいこれ、このままだとグサーッ!!ってなる。


『こわい、おやびん、こわい!』


『はっはっは、おやびんに任せておきんしゃい!』


 ……とは言ったものの、どうしよ。

攻撃はできないし、本当にどうしたものか。



「レクテス!レクテース!先程から何をしておる!!」



 と、外から何か聞こえてきた。

ふわー……綺麗な声。

女の人かな?


 ……え!?日本語!?

日本語が聞こえるんだけど!?

エルフさんの中身って日本人なの!?


『前に言ったでしょう?言語はインストール済みですよ』


 そういえばそうだった!

すげー!ハイテク?だ!!


 エルフさんのナイフが引っ込み、後ろを振り向いた。

そして、大きな声で返答している。


「おひいさま!見慣れない虫の魔物がおりましたので、少し観察をしておりました!!」


おお、こっちのエルフさんは凛々しい感じ!

某歌劇団の男役っぽい!!


「ほう!それは……こちらへ持ってこれるか!?」


「ハッ!ただちに!!」


 ちょっと待ってよこっちの都合とか全無視ですか!?虫だけに!!

ハハハ、思わず小粋なジョークをかましてしまっ――なにぃ!?

急に体が動かないんですけどォ!?

えっなにこれ怖い!怖いんだけど!!


『バインドハンドという束縛系の魔法です。発動が早すぎる……これは、かなりの手練れですね』


 達観したみたいに言わないでいただけますか!?

うわわわ!!なんか引きずり出される!ウロから!!


『おやびん!おやびん!!』


 やっべ、アカがパニックだ。


『……ははは!おやびんに任せておきなさい子分よ!絶対に悪いようにはしないのでね!!』


 子分に情けない所は見せられない……そんな風にキメ顔フェイス(虫)をしながら、ボクはあえなく外まで出された。

ううう……どうしよ。



・・☆・・



「――ふむ、背中におる赤いのはニセムシじゃの。じゃがこやつは……初めて見るのう」


 はい、目下金縛り継続中のボクです。


 ボクたちは……エルフさんたちに囲まれております。

前後左右には、見るからに強そうな剣とか槍を構えた鎧さん。

そして前方には……


「曲面兜に似てはおるが……この頭部の形状は見たことがない」


 のじゃロリエルフがいる!

のじゃロリだ!のじゃロリは本当にいたんだ!!


 フワッとした高級そうな服を着た、金髪ちびっ子エルフだ。

見た感じは、無茶苦茶綺麗な小学校低学年って感じ。

大きくなったら物凄い美人さんになりそうなポテンシャルを感じる。


『おひいさま、と呼ばれていましたね。王族か、それに準じる身分でしょう』


 でしょうね!

そしてこの状況から助かる方法プリーズ!!


『……寿命の大半を込めれば、この状態を解くことは可能です。しかしそれを敵対行動ととられると……最後の手段ですね』


 【悲報】ボクの寿命、また消えるかも。

せっかく、せっかくコツコツもぐもぐ溜めたのに……!!


『おやびん……』


 ……とりあえず、この子だけは守らなきゃ。

おやびんだもの、ボク。


「ふむ、レクテス……縛を解いて結界を張れ」「ハッ!」


 お、体が楽になった!

これで……半透明ドームに囲まれてるじゃん!!

ちくしょう!とかくこの世はままならぬ!!!!


『アカ、お腹に張り付いて。ボクに任せてね』『あい……』


 アカにそれだけを言い、動かない。

あひゃひゃ、くすぐったい。

お腹に貼り付かれるの初めてだもんな。

だけど、これでアカが即死することは防げるもんね。


トモさん、なんかこう……殺されそうになったら寿命ブッパで!!

その後は死ぬ気で抵抗するぞ!全身で!


『了解しました。軽挙妄動はなさらぬように』


 はぁい!!


「ふむ、ニセムシを腹側に……こやつ、意思はあるようじゃの。ラザトゥル、お前はこの魔物を見たことがあるか?」


「いいえ、おひいさま。わたくしも初めて見ました」


 のじゃロリ……おひいさまの後ろにいる背の高いエルフさんが答えた。

この人は男の人か。

ぶっちゃけ耳飾りがないと全然性別わかんないや。

声も中性的だし。


「当たり前じゃが、警戒しておるな。しかし賢いの、こやつ」


 おひいさまは二カッ!って感じで笑った。


「彼我の戦力差をしっかりと認識しておる。わらわたちがどれほどのものか知っておるからこそ、逆らおうとせぬのじゃろう」


 おお、なんか好感触。

ボクに意思疎通の手段がないのが残念でならない。


「――ボロドゥール、やれ」「ハッ!」


 はぁ!?

急になんなの!?


 鎧エルフさんが、剣を構えてボクに――振り下ろした。


『おやびんっ!』


 こなくそ!!一寸…いや一尺の虫にも五分のソウルだ!!

ただでは死なんぞ!むんむんむん――!!

強くなった衝撃波を剣に叩き込んで、その瞬間に寿命ブッパだ!!


「――やめよ」「ハッ!」


 はぇ?

鎧エルフさんは剣をぴたりと止めた。


「やはり、のう」


 おひいさまが、しゃがんで顔を近づけてきた。



「――お主、わらわの言葉がわかっておるな?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る