第15話 遭遇!生エルフ!!

『むっくん、むっくん、起きてください』


 んにゃ……?

あ、ああトモさん、おはよう。

いつもなら一瞬で起きれるのに、昨日は大怪獣バトル観戦で精神的に疲れてたのかな……?


『んみゅぬ……』


 アカは浮かびながら寝ている。

器用だなあ。


『興味深いものが見れますよ、外を見て下さい』


 ほーん、この生活始まって以来のアドバイス。

危ないモノなら山ほど見たけど、面白いモノを危険なく見れるのは始めてだ。


 アカを起こさないように気を付け、ウロの出口へ。

まだ薄暗い……早朝って感じかな。


『真正面です』


 真正面……ふわ!?

わーっ!人がいる!!


 なんかこう、ファンタジーっぽい鎧を着込んだ一団がいる!!

この木から50メートル先くらいに!!


 人数はひいふう……10人だ。

鎧を着て兜をかぶった人たちが6人。

その他に、動きやすそうな皮鎧?を着込んだ人が4人。

その人たちが、森の開けた場所に車座になって座っている。


 おー……転生初遭遇だよ、人型生命体。

旅人かな?それとも噂の冒険者かな?


『エルフの一団ですね』


 エ ル フ !


 エルフだって!?

マジで!?……ほんとだ!!

軽装の人、耳が長い!!

それに全体的にスレンダーだ!

すっごい!ファンタジーでお馴染みのエルフさんだ!!


 じゃあ鎧の方もエルフさんなのかな。

耳どころか性別もわかんないけど。


『冒険者でもなければ、エルフが他種族と行動を共にすることはありません。それにあの鎧は恐らくミスリル銀製……一介の冒険者に用意できるものではありませんし、規格も同一です』


 ほえー!ミスリル銀!

昨日聞いたやーつだ!!

やっぱり珍しいだけあってお高いんだなあ……


『彼らはエルフの国から派遣された調査兵でしょう、昨日の竜種の戦いに気付いたのですね。これで我々の現在地がある程度特定できますね』


 エルフの国!それも覚えてるよ!

たしかこの四国くらいデカい森の中心にあるって聞いた!!

へえ、アレがそこの人たちなんだ。


『エルフの国『ラ・テスラ』……白の都という意味ですね。ここは……その周辺地域でしょうね』


 ふむふむ、エルフの国がご近所さんかあ。

なんかいいね、そういうの。


『これは、少し困ったことになりましたね……』


 なして?

アレなん?エルフさんたちって虫が死ぬほど嫌いで、見かけると殺すまで追ってくるとか?


『いいえ、彼らの国は専守防衛の考え方が一般的です。こちらから襲い掛からなければ危害を加えられることはありませんよ』


 なーんだ、いい人達じゃん。

ボク、別にエルフさんたちをもぐもぐしないといけないほど追い詰められてないし。


『そもそも、今のむっくんでは即座に返り討ちですよ。彼らは魔法と魔法剣を高レベルで使いこなせる戦士たちの一面もありますから』


 魔 法 剣 ! !

今日は素敵ワードがどんどん飛び出すね!トモさん!!

ボクもいつか使ってみたいなあ、魔法剣!

今の手じゃ剣も握れないけどね!HAHAHA!!


 アレ?

じゃあ困ったことってなんですか?


『この周辺の魔物に、弱いものが多かったのです。てっきり森の外延部のどこかかと思っていたのですが……エルフの国の近辺でしたか』


 それがどう困るの?


『いいですか、むっくん』


 はい。


『この森は、外延部から奥へ向かえば向かう程森が深くなります。それに従って、強力な魔物が増えるのです』


 ふむふむ、よくわかる。

RPGでも森の奥って強い敵ばっかりだもんね……たぶん。

エピソード記憶だけないのってマジで不便だね、ボク。

概念だけは知ってる。


『そしてエルフの国です。彼らもこの森で暮らしているので、周辺に強力な魔物がいると困りますよね? ですから彼らは国の周辺を魔物避けの結界で覆っています。加えて間引きも』


 ほうほう。


『ソレは主に強力な魔物を外へ追いやる形になります。ここまで言えば、お分かりですね?』


 ……!

つまり、この森はドーナツみたいにクソ強い魔物ゾーンがあるってこと!?


『はい、よくできました。偉いですね』


 えへへ、褒められた。


『なので困ったことになっています』


 あー……ここにいる分にはイイ感じに弱い魔物しかいないけど……

アレだ、お外に出ようとするとクソ強魔物ゾーンにぶち当たるってことですな?


『そうです。困りました……』


 本当に困ってる感じだね。


 でもさ、ここである程度進化して意思疎通できるようになったらいいんでないの?

それで、エルフの国に行くなりすればいいのでは?

話を聞く限り、専守防衛なお国なんでしょう?


『……その専守防衛の対象には魔物が含まれますよ?』


 【悲報】ボク、魔物だった。

いやいやいや、でも意思疎通できれば人間的なアレだと認めてくれるんじゃなかったの!?


『それは、北とエルフの国以外でのことです。説明が足りませんでしたね』


 今明かされる驚愕の真実。

するっていうとアレですか?

ここで強くなってもエルフさんたちには知的生命体として認めてもらえない、と?


 ……ひょっとして詰んでる?この状況。


『そこまで絶望的ではありませんが、エルフの国と付き合うのは不可能ですね』


 ああん、なんてこったい。

エルフさんたちとの触れ合いはキャンセルなんか……

なんていうか、エルフって排他的なイメージがあるのは確かだけども。


『周辺各国に点在しているエルフにおいてはその限りではありませんが、エルフの国に関しては……エルフ以外の入国は基本的に認められないのです。私の知る知識でも、他種族が入国を認められたケースはほぼありません』


 トモさんの知識って、この世界の人が知ってる常識ベースだったよね。

それじゃあほぼ不可能ってことか……


『私のプランでは、外延部で進化を繰り返してゆくゆくは西の国を目指す……と言う形でした。これは、大幅なプラン変更を余儀なくされてしまいますね』


 ありゃあ……

確かに、外側だったら他の国にも行きやすいよね。


 エルフさんの国、鎖国してるのかあ。

残念、見てみたかったけどなあ。


『かなり遠くから見るくらいはできますよ。むっくんがもう少し強くなったら見物に行ってみましょうか』


 わあい、それは楽しみ!


 それはそれとして、この先のことを考えないとね。

ボクとしては死ぬまで森から出ないってのは嫌だなあ……うまく進化できたとして。

ということは……ゆくゆくはクソ強魔物ゾーンを突っ切る必要があるってことだね。


『そうですね。外延部ルートよりもかなり強力な形態に進化する必要があります、全ての戦闘を回避できるとも限りませんし、なにより直接的な攻撃でなくとも余波で死んでしまう可能性があります』


 昨日のドラゴンブレスとかね!

アレがノーダメ……とはいかなくても、即死しない程度には強くなっておく必要があるねえ。

急な大怪我に対応できるように、寿命も溜めておかないといけないなあ。


『素晴らしい現状把握ですね、むっくん』


 うへへ、また褒められた。

そんなに褒められたら無限に調子に乗っちゃうなあ、ふへへ。


 まあ、でもやることはこれからも変わらないよね。

地道なレベル上げ、これしかないもん。

今までの経験からも、一足飛びに強くなれるなんて甘い状況は想定できないもんな~。

ミミズくんから核が出る、くらいのラッキーしかないもんね。

その前は体半分潰れたし。


『そうですね、そうするしかありません』


 ボクが強くなればトモさんのマッピング性能?も上がるしね。

強くなって困ることはないもんね~。

アカもいるし、不測の事態に対応できるようにもならんとね~。


『おやびん!いない!どこ!?』


 おや、噂をすれば影ぐええ。


 ウロの奥からアカが飛びついてきた。

勢いが凄いね……びっくりしちゃった。


『おはよーアカ。見て見て、あっちにエルフさんがいるよ~』


『えるふ?えるふ~?』


『耳長のご近所さんだよ~』


 ボクの頭に乗って、アカもエルフの一団を見ている。


『そこ危なくない?ボクの角にグサー!ってならないでよ?』


『あい!』


 いいお返事ですこと。


 エルフさんたちは……なんか変な石?みたいなものを周囲に配置している。

半透明な膜?みたいなものが半円状に展開された。


『結界ですね。今のむっくんでは触れただけで消し飛びますよ』


 未来永劫近付かないようにしよ。

じんわり弾かれるとかそういうのじゃないんだ……


『ここを拠点にするようですね』


 あー、ここをキャンプ地とする!って感じね。

昨日の場所とは結構離れているから、腰を据えて調査するってわけですね~。


『まだ朝も早いですし、妙なことになってもいけません……彼らが出発するまで我々も待機しましょう』


 ですね。

襲い掛からなきゃ大丈夫だと思うけど、ひょっとしたら何かの拍子で敵対行動と勘違いされるかもしんないし。

もしくは、あのエルフさんたちの中に病的な虫嫌いがいるかもしんないし。

ギャー!ゴキブリー!!的な感じで冷凍魔法でも使われたらたまらんのよ。


『ゆっくり、すゆ?』


『するする~、今日はのんびりゴロゴロしてよっか』


『すゆ!!』


 ほほほん、カワイイヤツめ。

器用にボクの上でジャンプしよって。

……ボクの首の強度大丈夫かしら?

振動がすごい。


『いい仲間は精神の安定にもつながります。アカちゃんがいてよかったですね、むっくん』


 もちろんトモさんもね!

ボクにチートスキル的なアレはないけれど、人員的にはチート級に恵まれているなあ!


『照れますね』


 ふふん、照れるがいいさ!


 さてさて、そうと決まれば……寝るかあ。

昨日の疲れを完全に取っておかねばね。

ウロの奥まで移動し、ごろんと転がる。

この体、立ったままでも寝れるけどやっぱり……リラックスして寝たいよね!


 アカはまだエルフさんたちを見たいようだ。

見ているだけなら危険はないので、先に寝よう。


『おやすみ、アカ』


『おやしみ!おやびん!』


 スヤァ……



『むっくん、起きてください』


 ふぁい……よく寝たァ。

心身ともにスッ……キリ……?



『――見ての通りの状況です』



 木のウロの出口。

そこに、綺麗なお目目が見える。


 エルフさんが、ボクとボクの背中で眠っているアカを……ガン見していた。

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