第14話 激突!異世界大怪獣バトル!!――よそでやってくれーッ!!

『おやびん!もり、ない!』


『おはよーアカ、なくなったねえ、こわいねえ』


 あ、起きたのねアカ。

むっちゃ驚愕してる気配。


 現在ボクは、岩山の頂上に登っております。

めっちゃ見晴らしいい……あ!もちろん上空からの魔物を警戒して、頂上にある岩と岩の隙間に潜り込んでいます!

細い昆虫ボディが地味に便利!

装甲?甲殻?も生えたから、岩肌でガリってなる危険性もないしね!


 んで、視線の先には水晶竜。

相変わらずキラキラした背中を向けております。


 そして……その前の森がごっそり抉れてなくなってる。

後ろ側よりも、余裕で破壊力がえぐい。

ボクらの方向の森は、前方に吐いたブレス?の余波で消し飛んだようだ。

ひええ~……なんちゅう威力ですか。

喰らいたくない以前に、絶対アイツの周囲にいたくない。

あんなもん掠るどころか衝撃波でバラバラになっちゃうわよ。


 しかし、なにしてるんだろうねえアイツ。


『まだ何かを探しているようです。こちらの方向に注意を向けていませんので、それは幸いですが』


 そうやね。

あんなブレス、岩山だってバターみたいに溶けるわい。

だって水晶竜の前方、明らかに100メートル単位で消し飛んでるもん。


 ごごご、と大地が揺れた。

なんじゃ!?今度は地震か!?


『なるほど、アレですか――』


 トモさんがそう呟いたのと同じくらいに、水晶竜が――吹き飛ばされた。

はぇえ!?


「――ギシャアアアアアッ!?」


 遠くから聞こえる水晶竜の悲鳴。

しばしの滞空の後、地面に叩き付けられた。

うおお、揺れる揺れる!!


 なんか、水晶竜の前の地面が盛り上がってる!?

モコモコーって!

そっから、なんか岩みたいなものが出てきた!!


『アレは大地竜、その成体ですね』


 大地竜ってあの、地竜くんをパックリいったアレ!?

え、アレよりでっかいよ!?


『むっくんが見たあの個体は幼体と成体の中間くらいでしょうか。大地竜は通常、何十年もかけて成体へ成長します』


 長生きだなあ。

ボクは目下一年未満の寿命しかないから、ジェラシーがメラメラしちゃう。


『ほら、出てきますよ』


 ギャオン!みたいな声を出して……岩の塊が完全に外へ出てきた。

うわー……でっか。

今ボクが隠れてる岩山くらいある。

水晶竜も同じくらいデカいと思ったケド、流石に一回りくらい小さいや。


「キュ……」『おっき、こわい』


『ねー、怖いね~。ボクらさっきまでアイツが寝てる上にいたんだねえ……』


 森の下にあんなもんがあったなんて。

アレ?でもさすがに大地竜よりも周辺の木の方が古そうだったけど。


『大地竜は砂地から地中深くへ潜り、潜伏する性質があります。おそらく周辺のどこかに『巣』の入口があるのでしょう』


 はえー、そういうことか。

竜って名前なのにモグラみたいだね。

あ、そういやモグラも土竜って書くか。


 とまあ、そんなことを考えていると……復活した水晶竜がなんか光った。

うお、まぶしっ!


『溜めが短い。小規模なブレスですね』


 水晶竜が吐いた青色の光線が、岩……じゃない大地竜に着弾。

表面から飛び散る火花?がこっちまで見えた。


 おお!大地竜がそれを気にも留めずに低空危険タックル!!

喰らった水晶竜が、ブレスを吐いたまま仰け反って悲鳴を上げた。

ひいい!?ブレスで特にかわいそうじゃない森が吹き飛んだ!!

なんてはた迷惑!!


『大地竜の装甲はかなりの硬度を誇ります。特に年を経た個体は、ドワーフの鍛え上げたミスリル銀の武器でも防ぐとか』

 

ミスリル銀!

ファンタジーっぽいのきた!

つまり無茶苦茶硬いってことだね!!

ねえねえトモさん!ヒヒイロカネとかもあるの?


『詳しいですね、むっくん。それはミスリル銀と同程度の硬度を持つ希少な魔法金属ですよ』


 おー!こっちにもあるんだ!

地球ではフィクションの中にしかなかったけど!


 いつかどっかの国に行けるようになったら、そんなのも見てみたい!

伝説の武器とか防具とかもありそう!

どんどん目標が増えて行くなあ。


『遠い目標を持つのは人生を楽しくするコツですよ、素晴らしいです』


 うへへ、褒められた。


『ボクが二本足で立って喋れるようになったら、いろんなとこ行きたいね~』


『いっしょ!アカ、いっしょ!』


『もちろんもちろん!ボクはおやびんだからねえ、美味しいモノもいっぱい食べようねえ』


「キューッ!」『うれし!うれし!おやびん、しゅき!』


 フーッ!!

ウチの子分いい子すぎでやんしょ!


「ギャバアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 ひぎい!?

あ!目を離した隙に大地竜が水晶竜のお腹に噛みついてる!!

超痛そう!!


『魔力凝縮確認。ブレスですか』


 大地竜はそのままブレスを吐いたようだ。

密着状態から、赤黒い光線が漏れ出たかと思うと……水晶竜が吹き飛んだ。

よかった、こっちと逆方向だ。


 しかし、とんでもない威力だね……2匹ともなんでマトモに喰らって生きてるのか。

ひょっとして見た目ほど派手な威力じゃないのかしら?


『今のむっくんは直撃せずとも余波で消滅しますよ』


 派手な威力だ~……

いや、ボクの防御力がクソ雑魚ナメクジなだけかもしんないけど。

ナメクジじゃなくて甲虫だけど。


 あ、水晶竜が飛び上がった!

ちょっと見えたお腹はズタボロだけど、まだ元気そう。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 そしてそのまま急降下しつつ……なんか急成長した水晶でキラキラになった翼で打撃。

うわあ!大地竜の皮膚がズバッと斬れた!

わー……血の色は真っ赤なんだ、大地竜。


「ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 おー!大地竜も岩まみれの腕で迎撃のパンチ!!

うげーっ!水晶竜のお腹に突き刺さった!!


 すっごい!異世界大怪獣バトルだ!!

こうして離れて見る分には楽しめるカモ!!


 ――隣の岩が、轟音と一緒に吹き飛んだ。


『剥がれた大地竜の甲殻片ですね。割れたことで鋭い形状になっていますので、重さ以外でも脅威です』


 前言撤回!被害がデカすぎる!!

撤退!てったあああああああああああああああああい!!!!


 岩からシュバッと抜け出し、岩山の裏に回って根元の方へ撤退することにした。

観戦するのも命懸けだ!周辺被害がデカすぎる!!


『この岩山ならブレスが直撃しても耐えられます。一番分厚い岩の後ろが最も安全でしょう……今ここを離れる方がリスクがありますし』


 はーい!死にたくないので言うこと聞きます!!

ひゃあ!?またなんか飛んできた音がしたァ!!



・・☆・・



『音が止みました、終わったようですね』


 岩山に空いた洞窟的なアレに逃げ込み、聞こえてくる振動や叫び声、ブレスの放出音に震えて待機。

待つのに疲れたアカが眠りこけてもまだ音は聞こえ続け……ふっと止んだ。


 ……本当に終わったのォ?


『大きな魔力反応が一つ消えました。どちらかが死んだようです』


 トモさんが言うんなら問題ないな。

あれ?でも察知できるのって今更だけど10メーターくらいじゃ?


『アレほど大きな魔物なら問題ありません。それと、むっくんが進化したことで通常の索敵範囲も20メートルに広がりましたよ』


 おー!進化の恩恵がここにも!

そういうことならちょっと見に行こうかな、どっちが勝ったのか気にな……待てよ!?


 ねえねえトモさん!

死んだ竜のおこぼれとか食べれたら、凄く強くなれるんじゃない!?

地竜くんの足首の時みたく、血を飲むだけでも!!


『いいえ、ここを離れましょう』


 なんでぇ!?

期せずしてレベルアップのチャンスですよォ!?


『いいですか、むっくん。大型竜種の死体は魔力の塊です、頭から尻尾の先まで、貴重な素材の宝庫なのです』


 でっしゃろ!?

こりゃあもうバイキングしに行くしかないのでは!?


『なので……『竜種に敵わないまでも強力な魔物たち』が、死体を漁りに来ます。この森の周辺、四方八方から』


 ……はぁい!逃げましょう!!

考えてみればそうですよね!!


『いい判断ですね。さあ、竜種の方向から遠ざかりますよ』


 了解でーす!


『アカ、起きてる?』


「……ピ」『……あさぁ?』


『ちょっと違うんだなあ、今から移動するからそのまま背中に乗ってて。落ちないようにしっかりね~』


『あい……』


 アカが起きたので、移動を開始しよう。

さーて、木の上をさっさか移動するぞ~


『目安として最低5キロ前後は離れておきたいですね。隠れるのに適した地形を探しましょう』


 アイアイサー。

ボクもアカも食べたものは完全に魔力へ変換できるから、他の普通の生き物みたいに水場が必須ってワケじゃないのが助かるよね~。

まあ、砂漠とかなら餓死するけど。

さすがに砂や石は食べられないし。


 シャカシャカと足を動かして、木から木へと移動を開始。

背中のアカは大人しく張り付いている。

ボクの装甲はなめらかっぽいので、痛くはないようだ。

さーて、頑張って逃げるぞ~。

激ヤバハイエナも来るかもしれないし、油断しないようにね。


『いい心がけです、私も注意しますが絶対ではありません。むっくんもくれぐれも気を付けてください』


 はーい!



『ここがよさそうですね。今日の寝床にしましょう』


 シャカシャカ走り続け、ボクたちは大きな木の根元にいた。

いや、大きなってレベルじゃない……地球の屋久杉みたいだ。

幹の直径が10メートルを超えている、てっぺんは50メートル以上かもしれない。

地球なら驚愕だけど、恐ろしいことにちょいちょい見かけるんだよね、この森だと。

何から何までスケールが大きいや、異世界。


 よっこいせ。

そのまま幹を上ること10メートルくらい。

イイ感じのウロを発見したので、こそっと覗く。

よし、何もいない。


『ふう、つかれた』


『おちかれ、おやびん!』


 ねぎらうように周囲を旋回するアカ。

それを微笑ましく見ながら、ボクはやっと緊張を解いたのだ。

いやはや、今日は大変だったな~……。

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