第12話 再進化キタコレ!
「キュッ!」『おやびん!』
『追い込んだよ!ぶちかましてアカ!!』
視界が明るくなり、一条の細い稲妻が飛んだ。
「ギャンッ!?」
戦闘力の高そうな汚い犬……って感じの魔物が、喉を貫かれて吹き飛ぶ。
よっしゃトドメェ!!
必殺必中!インセクトパイルじゃー!!
「――ェウ!?ガ、ガガ、ギャ……ァ」
犬の土手っ腹に、諸手突きっぽい形で棘が勢いよく突き刺さる。
この感じ……心臓をやったぞ!たぶん!
わかんないけどきっとそう!
だって死んだし!犬!
「ピッ!」『やた!やた!』
『お見事ですむっくん……森狼の幼体、討伐完了です』
え!?これ幼体!?
嘘でしょ、中型犬くらいはあるのに……成体に出会いたくないよう。
そんな風に考えながら、棘を引っこ抜いた。
よっこい……ぶばあ!?返り血ィ!!
・・☆・・
アカがボクの子分になって、なんやかんやで1週間経った。
それによって、ボクらの狩りもしくは死体収集の効率はかなりよくなった。
魔力消費がデッカイだけあって、アカの攻撃力はピカ一。
弱そうな魔物はまずボクが叩き、ちょっと強そうな魔物は誘導して雷撃魔法をピシャーッ!!って感じで処理。
これで、毎日獲物にありつくことができている。
その成果もあって、あんなにかわいそうだったボクの寿命は……現在半年になりました!!
え?あんまり増えてないって?
……強そうな魔物の誘導中に何回か腕を持っていかれたのでその、寿命をですね……
絶対に許さんからな、あの緑色のウサギと緑色のイタチみたいなの!
緑色ばっかりだよ!ここの魔物!!
『さあ、食べてください』
はーい……テンション下がるなあ。
だって目の前の狼くん、凄い臭いんだもん。
まさに洗っていない犬の匂いがするんだもん。
狼だけど。
『いただきまーす』
『いたらき、ます!』
あ、アカはこの1週間で念話がちょっと上手になった。
戦闘中とかは声も一緒に出るけど、落ち着いていると念話だけ聞こえてくる。
あのキュイキュイ声が可愛いから、ちょっと残念ではある。
でもまあ、スキルが上達するのはいいことだからね、致し方なし。
がぶり、がぶがぶ。
いつの間にか毛皮が嚙み切れるようになったのはいいね。
顎が強くなったのかしら。
『かたぁい!んぎぎ!』
おっと、アカにはまだ硬すぎたようだ。
半泣きの思念的なアレが伝わってくる。
おやびんに任せんしゃい!
棘をジャキンと出し、狼くんの腹を掻っ捌いていく。
お腹の皮は柔らかいので比較的さっくり切れるのだ。
ちょっとしたナイフみたいな使い方もできるし、ボクの棘便利!
でろーんと、中身が出てきた。
うわグロ。
正直もう慣れたけどね。
『さあアカ、お食べ~』
「キューッ!」『おやびん、ありあと!かっこい!すき!』
どういたしまして!
アカの邪魔にならないように背中から食べていこうかな。
『おいし!おいし!』
おいし……くない!おいしくない!
ありていに言えば不味い!!
洗ってない雨ざらしの犬小屋の味がする!!
人間時代に食べたことないけどっ!!
ううう……返す返すも美味しいものが食べたいよう……
『好き嫌いすると大きくなれませんよ、むっくん』
前にも言ったけど、これは好き嫌いとかそういう次元じゃないのよ……
大きくなりたいから食べるけどさぁ……
がぶり、もぐもぐ。
ごきり、がぎがぎ。
あ、骨に当たった……さすがにまだ歯が立たない。
肉の方食べよう。
犬小屋臭は皮だけだったのが救いでしたな。
まあ血抜きしていない肉食獣の生肉だから、普通に臭くて硬くて筋張ってて不味いけど。
柔らかい牛や豚的なものを食べたいなあ。
『知的生命体の文化圏まで我慢ですよ、我慢』
ですよねえ。
はあ~……肉食べよ。
『おいし!おいし!』
キミはいつでも幸せそうでかわいいねえ。
ボクも見習わなきゃなあ……
その後は周囲の警戒をしつつ食事を続行。
アカは喜んで、ボクはお通夜のように狼くんを完食した。
……ムム?
なんか……体がムズムズする。
これは前にも経験したムズムズだ。
うわ、酔っぱらう感覚もキタ!
これは間違いない――
『おめでとうございます、むっくん。進化の予兆です』
ヤッター!!
待ってましたよ進化さん!!
『さあ移動です。現在の身体能力ならば、木の上まで避難できますね』
そうだね!早く移動しなきゃ!
『アカ!ボクはちょっと……なんだろう、そう!強くなるからちょっと眠るね!こっちおいで!』
アカに言い、返事を待たずに木に突撃。
シャカシャカと幹を登って……ワオ!イイ感じのウロがあるじゃん!
中には何もないし、ここに避難しよっと!
『おやびん!どした?だいじょぶ?』
遅れてアカも飛んでくる。
この子、飛ぶ速度が地味に上がってるな……ひょっとして進化するんだろうか、近いうちに。
『大丈夫大丈夫……うお、ぐらッとキタ!おやすみ~……』
ずん、と体が重くなった。
酩酊感マックスだわ~……
『魔素変換開始――』
ああ、トモさんのそのナレーションやっぱ格好いいなあ――
・・☆・・
夢を、見ている。
『〇〇、〇〇――』
うわ、なんかむっちゃ別嬪さんおる。
日本人かな?
そして、どちら様ですか?
随分と綺麗な方ですが、申し訳ないけどボク記憶がないモノで。
『〇〇、貴方を……殺してやりたいわ……』
なんでェ!?
なんでそんなこと言うのォ!?
うひ!ちょっと顔がコワイ!
美人さんが怒ると迫力がすっごい!!
『必ず見つけ出すから、覚悟していなさい……貴方が死なないと、私は――!!』
さよなら!さよなら!さよなら!
できれば二度とお会いしたくありませんぞ!!
・・☆・・
起きた。
むっちゃ起きた。
『おはようございます、むっくん』
おはようトモさん。
今なんか無茶苦茶怖い夢見たよ。
美人さんに殺害予告されちゃった、最近物騒だよね。
『夢、ですか。たしかに、妙な魔力振動波がありましたが――』
『おきた!おやびん!おきた!』
おっと、アカだ。
なんか、木のウロの中を縦横無尽に飛び跳ねている。
テンション高いねぇ、はたして寝起きのボクはついていけるだろうか。
『かっこい!おやびん!ピカピカ!かっこい!』
……ピカピカ、とな?
あ!そういえば進化したんだった!
謎の美女のインパクトがデカすぎて忘れてた!!
『おめでとうございます、進化完了です』
おー!
どんな感じになっ――
ピカピカしてる!!
ボクの視界の端に見えていたゆるふわ芋虫ボディ……だった場所が!!
黒光りした光沢のある装甲板?皮膚?に覆われてる!!
うわー!かっこいい!カブトムシみたい!!
見たい!全身見たい!!
トモさん、なんとかなりませんか!?
『スキル表の反射率をいじってみましょう……どうです?』
ブンっと。
ボクの目の前にテカテカの板が出現した。
おお!凄い、鏡みたいだ!!
そこに映ったボクは……芋虫じゃなかった!
手足は前と同じ6本。
だけど、関節の部分が鎧の金具みたいに大型になっている。
そして手の部分にはなんと……指が!!2本!!
指みたいな部分が2本にょっきり!!
そして、棘も大きく鋭くなってる!!
そして顔。
これは以前と変わらない……と思いきや、兜が一回り大きくなってる!
前はつるんっとした兜だったけど、スリットみたいな部分が追加されて……その奥には青く光る眼!
大きいのが2つ、そしてそれぞれの横に小さいのが2つずつある!
うひょー!なんかこう……特撮ヒーローに近付いた気がする!!
イケメンフェイスだ!イケメン!!
……ヒエッ!?テンション上がったら口が開いた!?
なんか、前よりも鋭利になってない!?上下左右の牙が!?
口が見えてないとイケメン兜なのに、開くと一気にエイリアンみが!!
ま、まあいいや……総合的に格好いいし。
さあ、お待ちかねの胴体。
お腹の部分は、裏返ったカブトムシそっくり!
ここだけ見るとちょっとキモいけど、前の芋虫ボディと違ってお腹側にもこう……薄い装甲がある!
なんかこう、ラバー素材みたいなの!
よっこいしょ……そんで、背中側だ。
カブトムシそっくりだから、パカっと開いて羽でも出てくるのかと思ったケド違う。
縦に割れそうな部分はない。
その代わりに、武者甲冑の肩部分みたいに蛇腹?っぽい形の装甲板が並んでいる!
アルマジロの背中みたいな感じ!
うわー……明らかに防御力上がったよ!
今気付いたけど、ちょっと視点が高い。
ってことは大きくなったってことだよね!
テンション上がるなあ!
『どうだアカ!おやびんカッコいいでしょ?でしょ?』
「キュ!キュ!」『かっこい!おやびんかっこい!きれー!ちゅき!つよそ!』
フーッ!褒めて褒めてもっと褒めて!!
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