第11話 かわいい子分が有能すぎる。ボクいる???

『よし、行くよアカ』


「ピー!」『わかた!おやびん!』


『初のチーム戦ですね、むっくん』


 ボクの寿命がごりっと減った後、狩りもしくは死体探しに出向くことにした。

ヤバいからね!さすがに二カ月未満はヤバいからね!


『後ろについて来なさいね』


「ピキュ!」『あい!』


 念話と発声が被っているカワイイ子分、アカ。

シャカシャカ走るボクの後ろを、若干浮きながら追って来る。


 ふむん、とりあえずボク基準で小走り程度くらいの速度は出てる。

いいなあ!念動力いいなあ!!

ボクもホバー移動芋虫になりたい!


『アカちゃんはかなりいい拾いものですよ、むっくん。『名付け』のおかげで魔力も増えていますし』


 ボクの寿命ってアカの強化に使用されたのー!?


『そうですね。むっくんの生命魔素でアカちゃんを強化した形になります』


 ほーん……ま、まあ?

カワイイ子分に使ったんならボクの寿命も浮かばれるかもね?


『前向きなのは美徳ですよ、むっくん』


 後ろ向きだと早晩死んでしまう気がするもん!

ところでトモさん、アカ『ちゃん』って言ってるけどアカって女の子なん?


『むっくんとの呼称被り対策です。それと、アカちゃんの種族……ニセムシなんですが、幼体の時は性別がありません』


 ほほーう。

アレね、カタツムリみたいなもんなのね。


『アレは雌雄同体です』


 あ、違うの?


『ニセムシは未知な部分が多い魔物なのです。幼体もそうですが、成体はデータ自体がないもので……最終的にどのような形態になるのか、全くわかっていません』


 謎まみれの子分じゃん。

っていうか、トモさんも神様なのにわからないこと多いんだねえ。


『私の性能はむっくんに合わせてダウンサイジングされていますし、なにより私は全知全能ではありませんよ』


 そうなんです?

あー、前に言ってた公平性がどうとかとかいうアレー?


『ソレです。私がむっくんに今まで語った知識は、全てこの世界の人間が調べたものが元になっています。そうですね……出典がはっきりと明記されていない〇ィキペディア程度だと思ってもらって結構です』


 急に正確性がガバガバになるじゃん。

論文に使ったら教授に無茶苦茶怒られるやーつだ!

大学の記憶ないけど!そんな概念は知ってる!!


『私が語る情報で正確なのは、『スキルの内容』と『進化についての説明』だけだと思ってください』


 ボクが長生きしたらカーナビみたいなのは使えるようになるんだよね?


『ええ、それについては問題ありません』


 よーし!それならいいや。

別にこの世界の真実!とか、隠された陰謀!とかが知りたいわけじゃないし!

生きていける情報だけあればいいや。

さすがに毒草とかは、この世界の知識でも対応できるだろうし!


 と、そんな話を脳内でしながらカサコソ森を疾走することしばし。


『むっくん、右前方に敵反応です。さほど大型の魔物ではありませんね』


 お、発見!

たしかになんか生き物っぽいスメルがする!


 よーし、今回はボクじゃなくてアカに先制攻撃してもらうぞ。

これからどの程度の付き合いになるかわかんないけど、仲間の攻撃手段は把握しておかないとね!

あ、これは別にアカを見捨てることがあるとかそういうことじゃなくって、ボクがデスるかもしんないって意味ね。

寿命提供までしたんだもん、ボクから見捨てることはないと思うよ。


 魔物魔物……うえ。

アイツかぁ……


『毒走り茸ですね。懐かしいですか、むっくん』


 不味さ的な意味で忘れられそうにないよう……


 激マズ茸くんは、前方の地面をポテポテ歩いている。

こうして見るとゆるキャラみたいだなー。

見るだけなら、ね。


『さて、アカ。あの茸くんに魔法をぶちかましてくれ!』


「キュ」『わかた!がんばゆ!!』


 アカのスキルにあった強そうなもの『雷撃魔法』

トモさんに聞くまでもなく、雷系の魔法なんだろうとわかる。


 ちなみに『衝撃吸収体構造』ってのは、打撃に対しての防御力を底上げするものだそうだ。

おやびんのボクにはない素敵スキルである。

羨ましい。


 子分に嫉妬していると、アカが力を溜めるように小刻みに震えている。

おー、魔力的なアレが頭に集中しとる。

正確にはカワイイ触角に。

ボクもそうだけど、虫系の魔物って触角から魔法出るんじゃないのかな。

敵に虫が出た時は気をつけよう。


 お、溜め時間は長いけどアカの魔法が発動しそう。

ボクの初魔法はそよ風だったからなあ、アカも……静電気みたいな感じだろうね。

どう見てもまだ小さい子だし。

効かなかった時に備えてボクも衝撃波を溜めて――


「――キュッ!」


 ――ばづん、みたいな音。

そして一気に明るくなる視界。

さらに耳までキーンとなった。


 ……うそん。


 さっきまで元気に歩いていた茸くんは、傘の部分を丸ごと吹き飛ばされて倒れていた。

地面が、ボクの衝撃波とは比べ物にならないくらい抉れている。

あと空気がなんか臭い、オゾン臭……っていうのかな?


 とにかく、威力がとんでもない上に……魔法が速すぎて見えない。

なんじゃこれ……ボクいる?

おやびんはボクじゃなくてアカじゃない?


「ピィ……」『ちかれた』


 へちょ、みたいな感じでアカが倒れた。

嘘でしょ、大丈夫かアカ!?


『今の一撃で、アカちゃんの魔力量が九割消失しましたね。威力は高いですが……経戦能力に問題がありますね』


 ほーん……アレかな、ボクにいいとこ見せようとして魔力込め過ぎたとかかな。

ボクも衝撃波の溜め撃ちとかするし。


『いえ、アレがノーマルでしょう。むっくんの『溜め撃ち』とは魔力の流れが違いますので』


 おー……成程ね。

つまりアレか、アカは『大砲』ってことね!

浪漫砲とかそういう感じなんだなぁ。


『アカ、移動できる?無理ならボクの上に乗って乗って』


「ピ」『あい……』


 ふわ、とい浮いたアカがボクの上に乗る。

かっる、アカ軽いなあ。

全然重さを感じないぞ。


 まあいい、それじゃお食事タイムといこうか。

周囲に魔物の気配は……たぶんない!臭いしないし!


『むっくんも気配察知が上手になりましたね。その通りです』


 トモさんのお墨付きも得られたので、木を降りる。

アカがいるからゆっくりね~……


 するりと木を降り、茸くんの所へ。

こ、焦げとる……むっちゃ香ばしい匂いがしとる……

雷撃魔法、恐るべし。


『よしアカ、食べていいよ』


「ピ?」『おやびんは?たべよ、いっしょ、たべよ』


 背中で飛び跳ねるのやめてくれない?

なんかくすぐったい。


『いや、これはアカが仕留めたんだから……』


 そんなに食べたいものではないし。

寿命ヤバいけど、ヤバいけど。


「キュ!」『たーべーよ!おやびん!』


『食べなさい、むっくん』


『イタダキマス……ありがとうね、アカ』


 優しさと命令が心にクるよう。


 し、仕方あるまい……なんか、ボクが齧るまでアカも食べないような雰囲気醸し出してるし。

むむむ……がぶり。


 ―――齧った瞬間だけ感じた香ばしさが!TUNAMIのような不味さで洗い流された!!

オゲーッ!!やっぱり今まで食べた物体の中で一番不味い!!

毒茸の名前を返上しろよお前もう!!

毒茸ってのは大体美味しいって相場が決まってるものでっしゃろ!?知らんけど!!


『しっかり食べてください、寿命増えませんよ?アカちゃんを見なさい』


 嘘……だろ……


 アカは比喩ではなく、飛び跳ねながら茸くんを齧っている。

だ、大丈夫!?


『アカ、ど、どう?おいしい……?』


「キュウ!」『おいし!おいし!すき!おいし!』


 嘘でしょ。

え?ひょっとして食べる部位で味が変わるとそういう……?

よし、ボクもアカを見習って脚を食べてみヴォエエエエエエエエエエエ!?!?

知ってた!!だって前に全部位食べたもん!!知ってたよ!!


『味覚の問題でしょうね。むっくんの味覚は人間ベースですので、生まれも育ちも虫系のアカちゃんはまた違うのでしょう』


 あああ!ボクも味覚が芋虫ナイズされていてほしかったァ!!


『さ、食べるのです。食べて』


 オヴォ……ヴぉエ……

辛い、辛いすぎる、辛い……


『――むっくん、敵の反応!前方の林!』


 ごっは!

なんやて!?


『アカ!ボクの後ろにいるんだよ!』


 魔力チャージ!むんむんむん……!!

さあ来い!この世で最もテンションの下がる食事を邪魔した罪は――そんなに重くない気がするけど許さんぞ!!


『来ました、毒走り茸ですね』


 ちっくしょォ!!

喰らえ溜め撃ちファイアッ!!!!


 ボクの怒りを上乗せした衝撃波は、林からひょっこり顔?を出した茸の顔面?らしき所にクリーンヒット。

いやだってコイツ顔のっぺらぼうだもん。

まあとにかく、茸はもんどりうって倒れた。


『トドメを刺してください。毒胞子を散布される前に』


 コイツそんな攻撃方法なのォ!?

だが了解!

助走して――芋虫ジャンプッ!!


 むんむんむん――!

狙いやすい空中で、連射、連射ァッ!!


 きゅきゅん、と衝撃波。

倒れたままの茸が跳ねる。

そして――そのまま慣性に従って滑空!


 うまいこと姿勢を工夫して――腕と足がそのまま乗っかるように!

うおお!喰らえクソマズ毒茸!インセクト・パイルバンカーッ!!


 茸に着地すると同時に全ての棘を射出。

ドシュシュシュっと棘が展開、茸の胴体に刺さった。

うーん、完全に包丁で茸を切った時の感触。

記憶ないけど。


 一回痙攣して、茸は死んだ。

……ふう、よし。


「キュウ!キューッ!」『すごい!おやびん!かっこい!かっこい!』


 アカがホバー移動でやってきた。

むっちゃ褒めるじゃん……ボクの自己肯定感がぐんぐん上昇していく。

子分って最高かもしれない。


『やりましたね、追加の食事ですよ』


 嫌だアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

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