第10話 赤くてなんかかわいい……同族?

『おはようございます、むっくん。今日も頑張っていきましょうね』


 おはようトモさん。

うん、昨日は腕を落とされたから今日はもっとボクは頑張る――うわぁ!?


『どうされましたか』


 いやいやいや、目の前に魔物がいるんですけど!?

どうしたんですかトモさんレーダーは!?


『ああ……敵意がありませんでしたし、おとなしい魔物でしたので』


 そ、そんな平和な魔物がおるの?この殺意マシマシ森林に!?


 ボクの目の前には、赤い芋虫がいた。

真っ赤!って感じじゃなくて、薄い赤色って感じの。

ボクみたいな兜フェイスじゃなくって、まっとうな?芋虫。


 大きさはボクの半分くらい。

今のボクが進化を経て(たぶん)30センチいかないくらいだから、15センチ未満ってところかな。

……改めて考えてみると、体長30センチくらいの兜芋虫(足つき)って無茶苦茶キモいな、ボク。

地球に出たらパニックになるよね。

この森の魔物が全部デッカイせいで感覚がマヒしつつある。


 で、芋虫だ。

現在ボクの目の前で、呑気に葉っぱをむしゃむしゃしている芋虫だ。


 そいつは黒くて大きい目が2つ、そして額?に4つの小さな目がある。

その小さい目の上には、飾り羽?っぽい触角が一対。

ふむん……ボクに比べて随分とカワイイ感じじゃないの?

芋虫!って感じじゃなくて、芋虫を象ったマスコットって感じ。

このままゆるキャラにできそうだね。


『ニセムシ、と呼ばれる魔物ですね。虫は虫なのですが、庇護を得るために目上の虫に擬態する生態があります』

 

 へー、じゃあこの子は厳密に言うと芋虫じゃないんだ。

本来はどんな感じなの?


『さて、確認されていませんね。誰かに観測された時点で、この魔物は今までの記憶から最も強い虫の系統へ擬態しますので』


 最も強い虫って、つまりボク?


『そうです。むっくんは数々の戦いを経て虫型の魔物としてはそこそこ強くなりました』


 あんなに死にかけて、寿命もじり貧なのに『そこそこ』ですか?


『虫型の上位種になりますと、例えば大具足百足という魔物がいます。体長は……むっくんにわかりやすく言いますと、大型タンクローリーと同じくらいでしょうか』


 そこそこだった!ボクそこそこだった!!

そんな神話の化け物みたいなのに比べたら、それこそゴミムシだよボクは!

正確には芋虫だけどォ!


 む。


 内面で混乱していたら、葉っぱを貪っていたニセムシがボクに気付いたようだ。


「ピキ!」


 こ、こいつ……ボクにもない声帯をお持ちだと!?

随分とカワイイ声を出すではないか!妬ましいぞ!!


「キュ!」


 ふぁ!?う、浮いた!?

コイツ浮いたよトモさん!?


『驚きました……ニセムシの『特異種』です。簡単に言えばレア個体……『念動力』のスキルを保持しているようですね』


 いいなあ!?

声帯もあって浮けるのいいなあ!?


「キュ!キュ!」


 ニセムシが浮いたままボクの前に来て……葉っぱを目の前に置いた。


「キュル!」


 なにこれ。

なんかヘドバンしとる。


『上位種への貢ぎ物……とでも言いましょうか。むっくんの庇護下に入りたいようです』


 つまり、子分になりたいってこと?


『そのようです』


 はー……いつの間にか親分になってるのか、ボク。

……どうしたらいい?


『お好きに。庇護するもよし、魔力に変換するもよし』


 さすがにここまで友好的なヘドバンしている同種?をもぐもぐするのはチョット……

ボクに守って!ってお願いするくらいなんだから、そんなに強い魔物でもないだろうし。


「ピキュ!」


 お願いしますぅ!!って感じでヘドバンしている。

虫の表情なんて何一つわからないけど、とにかく必死なことだけはわかる。

むーん……むむーん……


 まあ、いいかな?


 ニセムシの置いた葉っぱを齧る。

うん、今日も安定して青臭くて不味い。


「……キュアッ!」


 ニセムシはいたく喜んでいるようだ。

ヘドバンではなく、ぐるんぐるん上半身?を横回転させている。

なんか、かわいいじゃないか……芋虫の癖に!


『では庇護下に入れるということで……そうだ、『念動力』スキルが使えるというのなら……むっくん、少し寿命貰えますか?』


 ちょっと!?

そんな歯磨き粉借りるわねくらいの気軽さで何言っちゃってんのよ!?

ボクの寿命でござるよ!?


『大丈夫です、三日くらいですので』


 三日か……な、ならいいかな?

う、うわああ……なんか力が抜けた。

葉っぱ食べてチャージしなきゃ……青臭い。


 一瞬、ボクとニセムシの間に細い細い糸みたいなものが見えた。

なんぞこれ?


『魔力的なパスを構築しました。ニセムシとはいえ特異種、円滑な連携ができればと思いまして』


 パス?

パスポート的な?


『……おやびん』


 うわあっ!?

誰だ今の!?

なんかトモさんとは別の、舌っ足らずのカワイイ声が!?


『これがパスです。むっくんとニセムシの間で念話ネットワークを作りました……内線電話みたいなものですね』


 何故、内線電話というチョイスを。


『むっくん経由で私がニセムシのスキルなども閲覧できますし……そちらの様子ですと、使い捨ての肉壁要員などにはしないでしょう?』


 しないよ!?

トモさんはボクをどれだけの悪鬼羅刹だと思ってるのさ!!


『おやびん、おやびん!』


 じゃあこの声はニセムシ、お前か!

なおさら肉壁にできないじゃん!こんなにお前……全肯定の信頼感がズワアアアって伝わってくるんだけど!?

これが魔力パスの効果ってやつか!?

コイツ、ボクのこと信じすぎでしょ!?


『あ、私の声は伝わりませんし、むっくんも指向性を持って念じなければ会話ができませんからね?』


 ボク、念話スキル生えてないんですけど。


『ニセムシの方に生えていますので、問題ありません。あ、むっくんが念話できるのは現状ニセムシだけですから』


 ほーん……寿命三日分で電話線工事した感じかな?


 ええと……じゃあ、とりあえず。

こほん。


『こんにちわ、元気?』


 こんな感じ、かな?


「キューッ!」『おやびん!おやびん、こにちわ!』


 あ、コレ慣れてないなニセムシ。

同時に叫んでら。

ボクも慣れてないけど、声帯がないので。


『ええっと、よろしくね?ボクは……ボクはむっくんだよ』


 くそう!格好いい偽名が思いつかなかった!

話しかける前に考えておけばよかったァ!!


『いい名前ですよ?』


 うん……トモさんが名付け親だもんね、ごめんね。


「キュ!」『おやびん、むーく?むっく?むくん?』


 あー……完全に幼児が喋ってる感じ。

あんまり複雑な名前呼ばせるの、かわいそうだよねえ?


『おやびんでいいよ、それでいいよ』


「キュ!」『おやびん!おやびん!!』


 ニセムシは浮かびながらボクの周囲をグルグル回る。

うわー、むっちゃ喜んでるコレ。

なんか微笑ましいなあ。


 しかしアレだね。

晴れて?子分ができたし……ニセムシって呼ぶのはアレだよなあ。


『キミ、名前あるの?』


「キ!」『なぁい!つけて、つけておやびん!!』


 ほーん、名無しなのね。

ならばなおさらニセムシではかわいそうであるね。

むむむん……むむむん……あんまり複雑な名前を付けるのもアレだし。

よーし!


『むっくん、名付けは――』


『アカ!キミの名前はアカだ!』


『――やってしまいましたか』


 何が――あぁあぁあぁぁぁ……?

むっさ!むっさ体から魔力が抜けていく!

な、なんでぇえ!?


『名付けは原初の魔法、とも呼びます。しかもパスを繋いだ状態ですから……』


 そういうのは先に言――ボクが聞いてなかっただけですね!すいません……

す、凄まじい倦怠感だ……葉っぱもないし、とりあえず木の皮食べよ、ばりばりばり。


「キシャー!」『あか、あか!なまえ、あか!うれし、うれし!』


 フフフ……これだけ喜んでくれれば魔力をあげた甲斐があったってもんだぜ。

フフフ……木の皮食おう、ばりばりばり。


『名付けで寿命三十日が消えました』


 ――嘘でっしゃろ!?

ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って!?


『止めましたが?』


 あふん……この短時間で寿命が三十三日短くなってしもうた。

これからも頑張って魔物をもぐもぐしなければ、子分ができて早々に成仏する羽目になってしまう。

世知辛いなあ……


『……あらためてよろしく、アカ』


「キュル!」『よろしく!おやびん!よろしく!』


 ……まあ、いいか。


『アカちゃんのスキルを表示しますね』


 ぶん、といつもの半透明シート。

ふむん……ここは親分として子分のスキルをしっかり把握しとこうか。



・個体名『アカ』

・保有スキル『念話』『念動力』『雷撃魔法』『衝撃吸収体構造』『魔力吸収』



 ……なんかボクより強そうなスキルがあるんですけお!!

しかも2つも!!


 ちなみにボクの寿命、残り四十日です。

世知辛い……

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