第9話 遠距離攻撃って正義だ、改めてそう思う。

『むっくん、正面の木の向こうに死体がありますよ。そのまた向こうに敵が』


 絶対に死体作ったヤツじゃんか!

でもでも、了解でーす!

ぴょんぴょんとなっ!


 さてさて、次の敵はなんでしょね……


『アレは……牙ネズミですね。敏捷な動きと毒付きの牙が脅威です』


 おおう……素早いタイプの敵か。

ドブネズミみたいな大きさのネズミさんがいる。

で、その前の死体が……なんだろ、あっちもネズミに見えるんだけど?


『牙ネズミの幼体です。縄張り争いに負けた個体ですね』


 あらら、魔物の世界も世知辛いもんですわ。


『むっくん、気を付けてくださ。牙ネズミの毒は量によっては地竜を倒しうる劇毒ですよ』


 ひえっ!?

ジャイアントキリングするタイプのネズミだ!


『10匹以上で群がれば、ですけどね。でもむっくんの体では一発で致命的です、現在の生命魔素の大半を治療に回す必要がありますよ』


 ひぎい!もう寿命減るのやだよォ!

せっかくこの前の角蛇くんのおかげで2カ月になったのにさ!


 ということは……そうだね、遠距離攻撃だね!

先手必勝!むんむんむん―――発射ァッ!!


 どぎゅ、と衝撃波。


「チ、ギャッ!?」


 胴体に命中、牙ネズミは引き飛ぶ。

むんむんむん――追撃、追撃!!


 どきゅきゅ、と衝撃波。


 角蛇くんとの戦いの後で気付いたんだ。

連射にならんかな~って思ったら連射できるということに!

ただ、勿論威力は落ちる。

二分の一になるけどね!

そして、連射できるのは今の所2発まで。


「ギャ、ギャ!?」


 吹き飛んだ牙ネズミに衝撃波の一発が命中。

喉に当たったのか、血を吐いた。

これが無毒の魔物なら近付いて棘でグサー!なんだけど、毒がコワイからまだ撃つ!


 むんむんむんむんむん――発射ァ!!

わ、わわわっと!?


「ゲゥウ!?……ッカ、ゴ」


 衝撃波発射の反動でボクまで後ろに飛ばされた、危ない危ない。

この衝撃波、連射もできるけど溜めればいわゆる『溜め撃ち』ができるのだ。

威力は高くなるけど、詠唱……というか念じる時間が増えるのと、反動が大きくなるのが難点。


『死にましたよ』


 おっと。

牙ネズミが血を吐いて倒れている。

ミッションコンプリートだ。


『それでは食べましょう』


 はいはい。

ネズミは初めてだな。

美味しいといいなあ。



『美味しかったですか?』


 今までの魔物の中では一番おいしかった!


『よかったですね、むっくん』


 でも不味いものは不味いよ、トモさん。

血抜きしてない野生動物丸かじりなんだもん……


『血には魔力が――』


 はいはい、わかってますぅ……

血もゴクゴクしないといけないんですよね。

味覚が鋭敏なの本当に恨みますよ、トモさん。


『私が感知できない毒がある可能性がありますので、少しでも異変を感じたら食べないでくださいね』


 ええっ。

ボクの体って食べるタイプの毒効くの!?

魔力に変換してオールスルーじゃないの!?


『食中毒と寄生虫に関しては大丈夫です。毒を宿した魔物の中には、血液に毒素と魔力が溶けたものがいますので』


 嫌すぎる……不味い上に毒まであるとか嫌すぎる……

性格が悪すぎるよ……


『生きる知恵ですよ、魔物の』


 むぐぐ……魔物も大変なんだなあ。


『そこ、尻尾が残っていますよむっくん』


 ……なんか、牙ネズミさん尻尾があり得ないくらい不味いんだよ。

凝縮した肥料みたいな味がするんだよ。


『好き嫌いはいけませんよ、むっくん』


 これ好き嫌いかなあ……もぐもぐ。

このコリコリした食感だけは好き、軟骨食ってるみたいで。

だけどもそれ以外の全てが不味い。


『立派な体になったら、楽しみのための食事もできますよ、むっくん』


 優しいなあ、トモさん。

そうだね、頑張るしかないか。

とにかくこの兜芋虫ボディを強化しないとね。

不味いくらいなんだい!


『そこ、尻尾がもう一本残っていますよ』


 はぁい……なんで尻尾だけこんなに度を越えて不味いの……



・・☆・・



 ばぎん、と後ろから枝の折れる音がする。

ひいい!

トモさん、まだ追っかけて来てるゥ!?


『はい、こちらを確実に認識しています』


 ああん!もうやめてくださいよォ!

こんなよくわかんない芋虫食べたらお腹壊しますよォ!!


「ガアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 ひぎゃあ!もうやだぁ!!



 牙ネズミ2匹をお腹に収め、食後の昼寝でもと思って木に登った。

そしてスヤスヤしていたら、トモさんに叩き起こされたのだ。


『むっくん敵です!空から!!』


 そう言われた瞬間に飛び起き、枝から枝に逃走して……今に至るのだ!



 トモさんトモさん!後ろの敵ってなんの魔物ォ!?


『少し待ってくださいね。アレは……ムシクイドリという魔物です』


 名前が凄い嫌!!

名が体を表し過ぎている!!

ボクのことが大好物な魔物じゃん!!


『そうですね。ムシクイドリは特に芋虫を好んで捕食しますから……魔力反応!横へ跳んでください』


 どっせい!!

助走を付けて隣の木にジャンプした瞬間、ボクの横を何かが音を立てて通過した。

ひいい!さっきから何なの!?


『魔法です。氷礫という初球の水魔法ですね』


 それがボクに当たるとどうなるの!?


『むっくんの防御力ですと……貫通は防げますが大打撃ですね』


 今に至るまで何一ついい情報がない!


 しかし、敵は鳥の魔物……このままじゃいずれ追いつかれてしまう!

かといって地面に下りれば、それはそれで狙いたい放題だ!

戦闘機に追い回される歩兵の気分が味わえそうだよォ!


 ねえねえトモさん!

アイツの防御力はどうなの!?


『今のむっくんと同程度かと』


 つまりはクソ雑魚ってことね!


 こうなったら……戦うしかない!

逃げ続けてもずっと追ってくるんだもん!

芋虫好きすぎでしょ!アイツ!!


 よ、ほっ!

うわわわ、今氷が掠ったァ!!

すごく痛い!!


『生存魔素を使いますので、緊急時以外は痛覚遮断は行いません。我慢してください』


 寿命削る麻酔はボクもまだいいですう!!


 タイミングだ、タイミングを見計らわないと。

むん、むん……むんむんむん!


『氷礫が来ますよ……今ッ!』


 ジャンプ!!

足元を通過する氷を見ながら、宙返りの軌道で――後ろを、見る!

 

 アレがムシクイドリか!

芋虫好きそうな顔してるねキミ!!


「キイイィイ――ギャアアアッ――」


 大きく開いた口の中央で、空間から氷が生成されつつある。

魔法ってああやって出てくるのかー。


 ――なんて言ってる場合じゃない、今だァッ!!

溜め撃ち、発射ァ!!


「ゲ、ギャビ!?」


 反動で吹き飛ぶボク。

少々不格好だけど、撃ちだした衝撃波はムシクイドリの生成した氷の塊を砕いた。

そして、そのくちばしが上下に限界を超えて曲がる。

よし!ドンピシャだッ!!


「―――ッ!?」


 声も出せず、ムシクイドリは斜めの軌道で地面に落下。

よし!これでトドメぎゃふん!?


『木の幹に衝突しました』


 分かってますゥ!

ちくしょう格好悪い!!


 ぶつかった木の幹に棘を突き立てて無理やり停止。

そのまま、脚を溜めて――落下したムシクイドリの方向へ跳び出した!

かっ跳べ、芋虫!!


 全ての脚の棘を――最大展開!!

ジャキジャキと硬質な音が響き、頼もしい棘が鋭く伸びる。


『魔力反応、正面!』


 嘘でしょ!?


 ムシクイドリが地面に激突しながらも、ボクに顔を向けている。

血を流すそのくちばしの中心に――氷礫!!


 空中では身動きが取れない!

ボクにはまだアポジモーターとかのスキルは生えてないので!!

だから――頭以外を腕でカバーしながら、突っ込む!!


「キシャアアアアアアアアアアアアッ!!」


 あ痛い!?!?

左の手が2本吹き飛んだァ!?

ボクの防御力、ほんとクソ雑魚!!


 だけど――ッ!!

まだ腕は4本もあるんだっ!!

喰らえ!芋虫パイルアターック!!

 

「ギャッ――!?!?」


 氷礫で若干の軌道修正をされながらも。

弾丸と化したボクは、ムシクイドリの胴体に残った全ての棘を突き刺したのだった。



・・☆・・



 痛いよう……トモさん、寿命どうなった?


『今回の獲得魔素と同じくらいですね。残り二カ月と十日です』


 ああん……本当にままならないなあ。

くそう!せめて美味しい鶏肉であってくれ!ムシクイドリくん!!



 結局凄まじく臭いお肉だったので、ボクに涙腺があったら号泣していたことだろう。

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