第8話 兜芋虫、戦闘す。
『おはようございます、むっくん。今日も元気で葉っぱが美味しいですね』
ぱりぱり。
なんかもう慣れてきた、この青臭さ。
でもレタスとか今目の前に出されたら、美味すぎて失神する自信がある。
『知性のある種族の生活圏に入れば、野菜も流通していますよ』
だよね、そりゃあ立憲君主制とかの国もあるんだしさ。
農耕はもう既に通過した地点だよね。
あー、行きたいなあ。
転生してからほぼ死体しか見てないし。
異世界種族とか見たいなあ。
ケモミミモフモフ種族とかいるんだよね、見たいなあ。
エルフは国があるし、ドワーフみたいなのもいるんだろうなあ。
『ええ、ドワーフはいますよ。鍛冶に優れた種族で、各国で重宝されています』
いるんだー、見たいなあ。
ね、ね、トモさん。
いつか行ってみようね。
『そうですね。現状のむっくんは見つかった瞬間に討伐されますが』
そうなん???
こんな……こんな人畜無害の鎧芋虫(6本脚)つかまえてひどいや!
……討伐、するな。
人間の頃のボクが見たら、その瞬間に凍らせるスプレーを噴射する自信がある。
なんだこのキモい虫の化け物!?ってなる、絶対なる。
記憶はないけど、何故か断定できる。
たぶんゴキブリとか絶対嫌いだったんだろうな。
好きな人探す方が難しいけど。
『まあ、見た目の問題もありますが。それとは別です』
見た目悪いって言った!!
ボクもそう思うけどひどいや!!
『この世界には多種多様な人種・種族が暮らしています。一目見ただけでは魔物と区別がつかない種族も多いのです』
ほむほむ、ほむり。
『では、彼らと魔物を区別する条件とはなんでしょうか?』
……キモさ?
『お外では言わないようにしましょうね。とある宗教の教会ならそれだけで異端審問ですよ』
誹謗中傷に厳しい異世界だ。
『区別する条件……それは、『明確な意思疎通ができるかどうか』です』
え、そんなもん?
『そんなもんです。種族が多すぎて、見た目で判別していたら大変なことになります』
っていうか魔物って意思疎通できないんだ。
あれ、魔王とかいるんじゃないの?
そいつらも?
『『魔王』とは称号に過ぎませんよ。確かに配下に魔物を従えてはいますが、それは牛や馬のような扱いです。彼ら自体は意思疎通のできる種族です』
ほえー。
飼いならせる魔物もいるんだね。
ボクも多脚のお馬さんとかに乗ってみたいなあ。
『そして……むっくんはこうして私と意思疎通ができますが、それを外部に出力する手段がありませんね?』
……身振り手振り、とか?
『平和な環境ならそれでもいいですが、この森の中で出会ったとしたら?』
急に出て来て手足をギチギチ動かすへんな芋虫のバケモン……うん、即討伐だ。
『そういうわけです。ですので……この森から外に出て行きたければ、最低限の意思疎通器官を獲得する必要があります』
声、とか?
『そうですね、それが一番手っ取り早いでしょう』
でも異世界言語、ボク喋れないよ?
『読み書きは私が補助します。そして言語についてはむっくんのような存在には初めから『インストール』されています』
インストール。
ボクはやっぱりパソコンかもしれない。
『『共通語』という……地球の英語のようなモノですが。とりあえず以前に説明した五つの国家群ではこれで問題ありません』
わーお。
それはいいニュース!
『ですがむっくんには現在発声器官そのものがありませんので……』
嘘。
ボク声帯とかないんだ?
「ギチギチ、ギギギ……」
なんか声出るんだけど。
『それは歯を鳴らしている音ですね』
うーん、モンスターすぎる。
異世界ピープルとの交流はひとまず諦めよ。
イイ感じの形態に進化しないと駄目だ。
『後は、『念話』といういわゆるテレパシーのスキルがありますが。高度なモノなので持って生まれるか……まあ、獲得できるのは進化後ですし、習得できるかどうかも未知数です』
……発声器官ができるかどうかも未知数なのでは?
『そこは安心してください、知性を持った種族は発声器官か『念話』のどちらかは確実に獲得できます』
あ、それはよかった!
安心した~……
『では、安心したところで今日も移動しましょうか』
は~い。
手ごろで不味くない死体が転がってるといいなあ。
いざ出発!
・・☆・・
『むっくん、前方に魔物です。生きています』
むむむ!
たしかになんか……生き物の匂いがする!気がする!!
進化して感覚が鋭敏になったのかな。
腕を使うようになってから、移動がキビキビできてストレスフリーだ。
しかも移動速度もむっさ速くなったし!
『もう一つ先の木へ移ったら一旦停止ですね』
だね。
見つからないようにしなきゃ。
防御力皆無だし。
ササっと!
腕が生えたおかげで移動がスムーズ!
ところで結局腕なのかな、脚なのかな。
スキルは『脚』だったし……
『こら、むっくん。無駄な思考は死を招きますよ』
あっはい!
すみませんです!!
『いましたね』
枝に飛び移り、葉っぱの影から恐る恐る覗く。
気付かれませんように……なんじゃあれ。
緑色の……紐?
『アレは角蛇という魔物ですね。額の角が特徴です』
おー……確かに。
蛇さんだ。
なんかドリルみたいな角が生えてる。
あれ、いける魔物です?
『以前の黒蛇と同程度の脅威ですね。こちらに気付いてはいないようです……殺りましょう』
アイアイサー!
ではボクの唯一の魔法で……!
むんむんむん……!
『魔力充填完了』
――発射ぁ!!
角から発射された衝撃波が、真っ直ぐ飛んでいく。
これ曲げたりできな――あ。
『……説明しておくべきでしたね。魔法は思念の影響を大まかに受けます』
発射された衝撃波が、プロ野球でも通用しそうなほどのカーブを描いて角蛇から逸れた。
そして、地面に当たって結構な穴を空ける。
『むっくん自体は気付かれませんでしたが、警戒しています』
そりゃ当然か!
角蛇が周囲を見回している。
むんむんむん―――発射ァ!!
ぼしゅ、という音。
今度こそ真っ直ぐ飛んだ衝撃波が、角蛇の胴体に着弾。
そのまま吹き飛ばした。
『まだ生きていますよ』
むんむんむん――追撃!
むんむんむん――追撃!!
続けざまに放った二弾が飛ぶ。
地面に横たわったままの角蛇が、着弾の衝撃によって地面にめり込む。
よし!効いてるぞ!!
むんむんむん――今度は頭ァ!!
『命中しました、が……もう衝撃波はやめておきましょう。安全マージンです、この後に何かに襲われることもありますので』
はーい!
でも角蛇生きてるけど?
『むっくんには立派な棘があるでしょう?』
そうでした!
木の幹に棘を突き立て、急いで地上へ降りる。
ダッシュダッシュダッシュ!
そのまま、一気に肉薄!!
そして……ジャンプ!!
地面に横たわった角蛇が、よろよろと持ち上げた首。
そこに狙いを定める!
うおおおおっ!
インセクト・パイルバンカーッ!!
まず腕がヒット。
しかる後、ジャキンと伸びた棘が――角蛇の首を貫いた。
血が飛び散る。
『首を落としなさい。蛇は生命力が強いですよ』
追加パイルッ!!
左手を伸ばし、再び棘が伸びる。
さっきの一撃で半分以上千切れていた首は、景気よく刎ねられた。
残った体は、まだうねうねと動いている。
『素晴らしい戦果です、むっくん』
やった……やってしまった……
この手で初めて、魔物を殺してしまった……
……特に感想はないです!
なんでかなあ、記憶がないから良心の呵責とかもないのかなあ。
なんとも思わないぞ、ボク。
これが人型の生き物とかだと、また違うのかな?
『反省は後です、血が勿体ないですよ。魔力の多くは血液に含まれますので』
おっといかん。
それでは角蛇くん、成仏してくれたまえよ……ボクだって(たぶん)殺生はしたくないけれど、食わねば生きていけないのだよ。
視界の端に転がる首にそう弁明しつつ、ボクは首の断面にかぶりついた。
ごくごく。
ううう……生あったかい鉄の溶液の味がする……おいしくないよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます