第7話 おめでとう!芋虫は進化した!!

 あばばば。

なん、なんか……なんか変!

さっきのビー玉を飲み込んだと思ったら、変!!


 ベロベロに酔い過ぎた時みたい!!

泥酔した記憶はないけど!!

概念は知っている!!


『十分な魔力量を確認―――むっくん、おめでとうございます。進化が始まります』


 ま、じで!?

こんなに早く進化できちゃうの!?

予想外!なんかもっとレベルとか上げないといけないのかと思ってた!!


『まだ動けますか?ここは無防備過ぎです、木陰までなんとか移動してください』


 あっ感動に浸る暇すらない。

んぎぎ、頑張れボクの芋虫レッグ!!


 ……アカン、さすがにもう動かれへん。

なんとか木の根元にたどり着いて枯れ葉に潜ったところで、どさりと倒れ込んだ。


 うあ、なんか体がびくびく痙攣してる!

なにこれ、トランスフォーメーション的なアレ!?


『魔素変換開始、体組織の再構築と置換を実行――』


 トモさんのかっこいいナレーションを聞きながら、ボクは気を失った。

すやり。



・・☆・・



『起きましたか、むっくん』


 おはようトモさん。

……うわあ、薄暗い!

もう夕方!?


『はい、むっくんはあれから12時間眠り続けました。健康的ですね』


 むしろ寝すぎじゃない?

それ逆に体調が悪くなるやーつでは?


『ともあれ、進化完了です。おめでとうございます』


 わーい!ありがとうトモさん!

これでボクも晴れて特撮系ヒーローに……あれ。


 晴れて……晴れて……

視点の高さが全然変わってないんですけど?

芋虫時代と同じ視点なんですけど? 


 と、とりあえず木に登るか。

地面は危ないからね。


 さくり。

……さくり?


 木の幹に、黒光りする何かが刺さっている。

黒曜石のナイフみたいな……こ、これはまさか!


『立派な手が生えましたね、むっくん』


 手だ!!

人間の頃に慣れ親しんだ手が生えてる!!

記憶ないけど!!

それでも手だ!やったあ!!


 とにかく、木の上に登ろう!

そこで体を確認だ!上はまだ明るいし!!


 うおおお!手ってすごい!

無茶苦茶早く登れる!!

文明の利器、ヤッター!!

……いや違うか。


 大き目の枝の上に退避。

さーてさて、お楽しみの進化確認だ!

テンションが上がる上がる!!


 え~っと……今のボクは……芋虫です……


 ……なんでだよ!!なんでだよ畜生!!

進化したじゃん!!


 腕は生えたよ?しかも6本も生えたよ!?

この場合脚って言うのかな?まあいいや腕で!!


 その腕は、甲虫っぽい形状のつるっとした装甲に覆われたものだ。

ここは文句なしに格好いい、だってカブトムシとかクワガタみたいだし!

そして、手の部分なんだけど……ここも虫っぽい。

人間みたいな指はないね。


 ないんだけど……ここはすごい!

6本の腕のうち全てに、黒曜石っぽい角?棘?が生えてる!

しかもだよ?なんかこう……手に力を入れると……棘が伸びる!!

ジャキン!って伸びる!!

カッコいい~!すごいカッコいい~!!

男の子の浪漫じゃん、こんなの!

ボクが元々男の子かはさておいてね!


 うーん、このギミックすごくいいな……何度でもジャキンジャキンしちゃう。

それジャキン!ほいジャキン!


『あまりやり過ぎると魔力が減りますよ』


 これ魔法扱いなの!?

まあ、魔法的に格好よくはあるけどさ!!


 それで……ボクの格好いい所!終了!!

つまりは芋虫ボディのまま、6本の腕が等間隔に生えた形ですね。


 ……キショい!!!!


 なにこれ!?

芋虫でもカブトムシでもない新たな化け物が生まれただけじゃない!!

そこは空気読んで胴体もカブトムシにしてくださいよォ!!


『進化は甘くない、ということですね。それと他の変更点ですが……むっくんには見えないでしょうが、頭の下、人間で言えば首のあたりに装甲が追加されていますよ。明日明るくなったら確認してみてください』


 わー!微妙な変化!でも嬉しい!!

だってあれじゃん!ゆくゆくは装甲に包まれた素敵に格好いいフォルムになるってことでしょ!?

うーん!テンションが上がって走り回っちゃう!枝の上を!!


 シャカカカカカカ!


 ……むっさ足速くなっとる。

しかも足の棘のお陰でグ、グリップ力?が向上したので曲がりやすいし!

わがまま芋虫ボディは変わらないけど、これはこれで最高!!


 ……ちょっとゲジゲジみたいだなって思っちゃった。

兜芋虫改め、兜装甲ゲジゲジむっくんです。

……超語呂が悪い。

いいか、兜芋虫で。


『さて、それではスキルの確認といきましょうか』


 おー!イイねイイね!

お願いします、トモさん!!


『はい、ご覧ください』


 きたきた、きましたよ半透明ディスプレイが。

さてさて~……?



・個体名『むっくん』

・保有スキル『視覚補助』『魔力吸収』『衝撃波(小)』『多脚制御』『撃発刺突棘』



 おー!なんか2つも増えてる!!

しかも衝撃波くんが(極小)から(小)に!!


『多脚制御は、文字通り増えた脚を制御するスキルですね。人間だったむっくんでも問題なく扱えるようになっているでしょう?』


 たしかに!問題なく動く!

上の2本は腕の延長線上で、下の2本は足。

そんで、真ん中の2本は……連動したり腕にも足にもなる感じ!

なんか改めて考えると混乱するけど……普通に人間が歩いたり走ったりする感じで意識しなくてもスイスイ動く!

フシギ!!


『撃発刺突棘については説明するまでもありませんね。先程から使いこなしていますし』


 ですね!これはいいものだ……

そーれ!ガシャコン!ガシャコン!!


『魔力が減っていますよ』


 あああ、楽しくてつい……葉っぱを齧ろう、葉っぱを。


『衝撃波の威力も向上したようですね。使えば強くなるのがスキルですが、進化でも強力になります』


 ふむふむ。

明るくなったら威力を確認してみよう。

これで無双じゃフハハハハハ!!なんてイキらないけど。

最低限の自衛くらいはできるといいなあ。


 あ!トモさん!

スキル一覧にはないけどさ、ボクの角も強そうじゃない?

最後の切り札だー!って体当たりとかできそうじゃない?


『それは角ではなく触覚ですね。硬いことは硬いですが、折れると衝撃波が使えなくなりますし……勿論修復するのに生命魔素、もとい寿命を消費しますよ?』


 リスキーすぎる……

寿命と引き換えのラムアタックはちょっと分の悪い賭けすぎるよう……

魔法使えなくなるのも困るしさぁ。


 ふーむ。

まあこんな所かな?

望んでいた所まで進化は出来なかったけど、それでも進化は出来た。

ぶっちゃけキモい形態だけど、便利にはなったわけだしね。


『そうです、何よりも大事なのは生存ですよ、むっくん』


 ですよねえトモさん。


 よし、じゃあ1発衝撃波を試してみよう。

複数回撃てるみたいだし。


『周囲に敵はいませんが、あまり空に打ち込まないようにしましょうね。水平方向の葉っぱを狙ってみましょう』


 了解です。

試し撃ちでドラゴン誘引とか洒落にならんしね。


 むむむ!

ターゲットロック!

前方の葉っぱ!!

角に魔力を集中……う、うぅ!?

なんぞこれ!?

なんか、前より魔力がこう……ギュギュギュって溜まるぞ!?


『魔力充填速度が向上したのです。ほら、気を散らすと魔力も散りますよ』


 うおっと!?

それは勿体ない……複数回使えるとは言え、ちゃんと使わないと!


 よし!なんか行けそう!

――衝撃波、発射ァ!!!!


 かおん、みたいな音がした。


 かと思うと、視線の先の葉っぱが根元から千切れた。

そしてその葉っぱも、空中で破ける。


 お、おお~!

そよ風卒業!そよ風卒業だ!!

なんかアレだね、透明なピンポン玉を飛ばした感じ!

小学生の全力投球って速度で!!

衝撃波っていいなあ、結構使いやすい!

バカスカ使って死にかけるのはアレだけど、安全区域とか寝る前とかに使っておこう。


『威力も向上しましたね。素晴らしいですよ、むっくん』


 うへへへ、照れる。

ねえねえトモさん、今までボクが食べた魔物いるじゃん?

この衝撃波ってさあ、あいつらのどれなら効く?


『そうですね……地竜以外ならダメージが通るでしょう』


 おお!それはすごい!

っていうか地竜くんはやっぱり別格なのね……


『ですが』


 が?


『防御力が……皆無ですよ、むっくんは』


 おおん……そうだった。

首元にちょこっと鎧増えただけだった……


『ですがいいことです、これからは戦闘も念頭に入れて生活しましょうか』


 やるしかないもんね~。

嫌だけど、死ぬのはもっと嫌なのです!

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