第6話 とかくこの異世界は住みにくい。

『むっくん、生き――起きていますか』


 今起きました。

今生きてるって言いかけなかった?トモさん。


『よかった。現状の確認をしてください』


 現状ぅ?

えっと、なんか逃げろって言われて、木に飛びついたらばきばき聞こえて……

それから、それから……どうしたんだっけか。


 視界は横倒し。

ってことは倒れてるのかぁ。

木ごと横倒しって感じね。


 あと、なんかこう……じんじんする。

なんか……熱い風呂に入ったみたいなサムシングを感じる。

芋虫ボディで言うと、体の下半分?くらいが。


『痛覚遮断が間に合いましたか、僥倖です』


 ……トモさん。


 なんか、ボクの下半分がシートみたいになってるんですけど!

カートゥーン映画でロードローラーに轢かれた猫みたいになってるんですけど!!

うわわわ、ぺらっぺら!

ぺらっぺらになってるゥ!!

あと中身!なんか体液的なアレが出てるんですけど!!


『倒れた枝に圧し潰されました。幹なら即死だったでしょう……命拾いしましたね』


 命拾いしてるゥ?

ボクの知ってる情報だと、半分潰れた芋虫が生還することってなくない?

そんなに芋虫に詳しくないけど!


 えええ~……ええええ~……


 ボクの異世界生活、ここでオシマイ?

やだ……泣きそう……

涙腺ないけど……


 あと、悔やむほどの過去がごっそりないからなんか、変な感じ。

死にたくないけどさあ、超死にたくないけどさあ!!

でもこれどうにもならなくない?

いっそのこと頭がグシャアってなればよかったァ……死にたくないけど……


『安心してくださいむっくん。アナタの行いが、アナタを救います』


 それってどういうことォ?

この状態から入れる保険なんて――


『幸いにしてこの破壊をもたらした魔物は既に周囲にいません。ここでやってしまいましょう』


 なにを?葬儀?

記憶ないけど仏教徒だった気がする。


『生命魔素、変換開始』


 ……お、おおお!?


 な、なんか……なんか体からパワー的な何かが抜け落ちていくような感じ!!

うわ、むっちゃだるい。

酷い風邪ひいた時みたいな感じ……へ?


 ボクのペラペラ下半身が、真ん中から修復されてく!

すごい!魔法みたいだ!

あっでも現在進行形で無茶苦茶しんどい……広島弁で言うとしわい……


『変換終了、体組織再構成完了』


 クソ重倦怠感の中で、ボクのわがまま芋虫ボディは元通りになった。

やったやった!死なずに済んだ!

なにがなんだかわからないけど、トモさんありがとう!愛してる!!


『お礼はとても嬉しいですが、まずは何でもいいので口入れてください。餓死しますよ』


 あー懐かしいこの感覚ってそういうことか!!

異世界初日以来の餓死ピンチ!

いやだ死にたくない!

死にかけてる時はある意味達観してたけど、生きれそうとわかったらすごく死にたくない!!


 うおお!木の幹に絶対存在する……皮ァ!!

そしてよくわかんない苔的なアレェ!!

いただきます!死にたくないので!!


 ガブーッ!!硬いし美味しくない!!

お婆ちゃんの家の箪笥の味がする!!

お婆ちゃんの記憶ないけど!!


 がりがり、がりり。

飢饉のときの農民さんってすごいよね。

これが腹の足しになるんだからさ……


 皮を貪りながら移動……あ、葉っぱゾーン!

まるで清涼剤だぁ……!

ここ最近ロクなモノ食べてないから、こんなものでも美味しい気がする!

いや美味しくない!!

錯覚だ!!


『魔力充填50%。最低限戻りましたね、移動した方がいいのでは?』


 だね!

とりあえず見晴らしのいい所まで逃げよう!

うおおお!キャタピラーレッグダーッシュ!!



・・☆・・



 先程の事故現場からダッシュで逃げ、木の上に退避。

ふう、死ぬかと思った。


『ギリギリのラインでした。食事中でも周囲に気を配らないといけませんよ?』


 たしかに、ちょっとトモさんに頼り過ぎてた気がする。

反省しなければなあ。


 あ、そういえば。

さっきの回復魔法?すごかったねトモさん!

ボクにあんな秘めたパワーがあるなんてさ!

これならもうちょっと恐れずに探索できるね!


『アレは生命魔素の変換です。回復魔法とは違いますね……それに、アレは私が行った緊急避難的な処置ですよ』


 なん……だと……?

トモさんのアレだったのか……

まあ、それはそれとしても回復できたからよかった!


『推奨はしません』


 そうなの?

もうご飯食べたから元気なんだけど。

これくらいなら大丈夫なんじゃないの?


『生命魔素とは……むっくんの寿命です』


 ……なんて?

え?今まで食べた死体の積み重ねの魔力じゃないの?


『いいえ、体組織の再構成ともなると通常の魔力では対応しきれません。なので、連続使用は推奨しません』


 ……ねえ、トモさん。


『なんでしょう?』


 じゃあボクの寿命、どんくらいになったの?


『緊急でしたので……そうですね、残りは約一カ月と10日程度、でしょうか?』


 ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?!?

ボクの寿命、少なすぎ!?!?!?


 え、じゃあ死にかけるまではどれくらい溜まってたの、寿命!?


『あの時点では……残り四か月少々でしょうか』


 じゃああの回復?で寿命三か月吹き飛んだの!?

推奨しないって……できないじゃん!!

次に大怪我したらお陀仏じゃん!!


『ご安心ください。今までの食事で溜めた進化ポイント的なアレはそのままですよ』


 え~っと……それはよかった!

もう一回クソ雑魚芋虫からスタートするのは嫌だもん!

あー、そういえばここまで逃げる時に走ったけど速かったもんね!


『ですので、これからは一層注意が必要になります。具体的に言えば……突発的な攻撃や事故で大ダメージを受けない程度の強靭な体構造を獲得するまで、ですね』


 強くなるしかないってことだよね、トモさん。


『そうです。生き残るためにも』


 だよねえ。

頑張るしかないかァ……

さすがに、今日みたいな死に方は嫌だなあ。

それに異世界転生って言ったって、森の中の風景しか見てないもん。

魔物(死体)は見たけどさ。


 せっかく異世界に来たんだから、いろんなものを見たいし……いろんなものも食べたい!

現状、不味いモノしか食べてないから!


 トモさん!ボク頑張るよ!!


『ええ、私も微力ながらお手伝いしますよ、むっくん』


 微力なんて謙遜をおっしゃる!

トモさんがいなかったらボクなんて何回も死んでるよ!

これからも一緒に頑張ろうね!

2人でこの世界を楽しむくらい、生き延びよう!!


『素晴らしい上昇志向です。感動します』


 しちゃってしちゃって!

よーし、頑張るぞ!!


『むっくん、左後方に死体がありますよ』


 ……頑張るぞォ……



『アレは節鳴虫という魔物です。体の節を鳴らす音で獲物をおびき寄せる、肉食型の魔物ですよ』


 トモさんナビに従って行ったそこには、緑色の……ところどころが硬そうなミミズのオバケがいた。


 ……共食いかァ。


『むっくんは虫型の外見ですが、厳密に言えば虫型の魔物というわけではありませんので大丈夫です。ヒトとチンパンジーくらいは違いますよ』


 うーん、うーん……

なんともコメントに困るなあ、そのアドバイス。

だって人間はチンパンジー食べないもん。


 まあ、兜芋虫はミミズを食べますけどね!!

寿命があと40日前後しかないのだよ!!

背に腹は代えられないのだよ!!


 ガブーッ!!

……うぐう、火の通ってない生のソーセージみたいな食感。

噛み締めれば噛み締めるほど、生臭いよくわからん体液めいた代物が口に溢れる……

つまるところ、とっても不味い。

食中毒とかになりそう……


『前にも言いましたが、むっくんは食物を魔力に変換しますので』


 胃袋だけはチート級ですねえ、ボク。

お腹壊す心配はないからいいんだけどさあ。


 もぐもぐ、うわっなんか出た。

なんか石みたいな……赤い宝石?

なにこれ?

変なモノ食べてたんだな、ミミズさん。


『むっくん、それは森スライムの核ですよ。とてもレアです』


 えっ、さっきの腐った中華餡の?

ほーん、このミミズさんにやられたのかな。


『食べてくださいむっくん、なんとしても食べてください』


 めっちゃ推すじゃんトモさん。

えー、でもこれデカいビー玉くらいあるんだよ?

なんとか口には入るか入らないか……


『飲み込まずとも口に入れるだけで結構です。消滅していない核は魔力の塊、素晴らしい摂食対象ですよ』


 マジか!

頑張るよボク!!


 がりり。

……超硬い。

見た目も硬さもビー玉だよう。

しゃあない、なんとかこう……うおおお!頑張れあるかどうかわかんないボクの顎関節!!

あ、なんかコキっていった。

んごごご……!

なんとか、喉に、流し込む!

んぎぎぎ……!!


 ごくん。


 あっ、なにこれすっご――

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