第5話 働けど働けど、我が体芋虫なりけり。
『おはようございます、むっくん。よく眠れましたか?』
おはようトモさん。
眠れたっていうか……なんかパソコンの電源が落ちるみたいな感じなんだよね、この体。
『寝るぞい!』って思ったら『朝ぞい!』って感じ。
『緊急時には私が強制的に起こしますので、ご安心を』
やっぱりパソコンじゃないか。
……アレかな?ボクって本当は異世界転生じゃなくて……VR空間から出られなくなった系じゃない!?
『ないですね』
ないですよね~……
だってボクの記憶というか知ってる情報だと、地球にいた時にそんな高性能ゲーム機の話聞いたことないし。
百万歩ゆずってそうだったとしても、大森林芋虫独りぼっちの現状の何が変わるというのだ。
『そうですよむっくん。大事なのは未来です、未来』
いいこと言いますねトモさん。
流石は神様。
そうだよな、今日も一日頑張ろう。
というわけで木の枝に生えている葉っぱを齧る、もちゃもちゃ。
……ムムム!この葉っぱなんか美味しい気がする!
昨日死にそうになりながら食べた毒茸くんのお陰かな?
硬いしエグいけど、生臭くないだけで美味しい気がする!
青臭いけど!!
『食事がすんだら移動しましょう。今日も死体を探すのです』
言い方ぁ……そりゃあ行きますけどね?
葉っぱを食わねば死ぬし、死体を食わねば一生わがまま芋虫ボディなのだ。
世知辛い兜芋虫、むっくんです。
さてさて、今日も木の上を移動するのだ。
昨日半泣きで死体を貪ったおかげで、移動速度が目に見えて向上したのが救いだね!
森林を駆けろ!クソ速芋虫!!
ちくしょう!どう頑張っても格好よくならない!!
『移動性能が大幅に向上していますね。素晴らしいことです』
褒めて褒めてもっと褒めて!
でもアレだよトモさん!このまま死体をもぐもぐし続ければ、森林最速の芋虫になれるかもしれませんよ!?
フハハハ!勝ったな!!
攻撃力は一切ないけれど、速さとはすべてに勝るのだ!
逃げ足はいいことなり!!
『無理ですね。その体の性能ではいずれ頭打ちになりますよ』
知ってた。
そんなに美味しい話はないって知ってた。
くそう……音速芋虫の夢は思いついた瞬間に露と消えたのだ。
『その体の性能では、です。進化をすればその限りではありません』
そうだった!
ボクのこのゆるふわ芋虫ボディには夢と希望とレボリューションが詰まっていたのだ!!
進化!そういうのもありましたね、トモさん!!
『そうです。なので死体を探しましょう』
ううん!盛り下がるゥ!!
でも仕方ないよね、現状ボクができることは死体漁りしかなかった。
はあ……思っていた異世界転生と違うぅ。
『人族というか、ある程度社会的基盤がしっかりした場所への転生は稀です。具体的に言うとSSRでしょうか』
だよねえ。
なんか転生ものだとみんな人間とか亜人とかになってるし。
あとドラゴンとか。
『龍種はさらに稀です。彼らはこの世界でも上澄みの存在ですので』
へえ、なんか意外。
ドラゴンの方が上なんだ、地位。
『龍種とあなたの想像するものは違いますよ?この前見た地竜や大地竜は、竜と言う名前ですが実質はトカゲです。『龍種』と『竜種』は異なるカテゴリーなのです』
え、ドラゴンって爬虫類じゃないの?
龍って違うの?
『龍種は言ってみれば精霊や半神のようなモノです。存在からして違うのです』
はええ、神様方面。
そっかあ……恐竜とはジャンルが違うのか。
龍は神様、竜は恐竜ってわけねえ。
『あなたの記憶にある、不思議な玉ジャンキーの龍が近い存在でしょうね』
トモさん!!
世界中の子供たちに夢と希望を与えた一大オバケコンテンツに、なんてことを言うんですか!!
ボクも大好きなんだぞアレ!楽しんでた記憶ないけど!!
概念だけ知ってるけど!!
ボクも手からビーム出したい!!破ァー!って!!!!
『それは主人公の技ではありませんか?……むっくん、死体反応感知。右前方です』
すっかり死体レーダーと化したトモさん、頼もしいなあ。
ええと、右前方右前方……
なにあれ。
なにあの……腐ったクソデカ中華餡みたいな物体。
そしてくっっっっっさ!?!?
目に来る!この距離で目に来るよ!!
『むっくんに涙腺はありませんが』
イマジナリー涙腺に来るゥ!!
うううう……死体だから仕方ないけど、臭いのばっかりだよォ!
それでトモさん!アレ何ィ!?
ヘドロの化身?〇ドラも異世界転生してたのォ!?
『あれは森スライムです。ありふれた不定形の魔物ですね』
スライム!!
RPGでお馴染みのアレ!
雑魚モンスターの筆頭!!
『枝葉や地面に擬態し、獲物を包んで溶解して吸収します。今のむっくんの体構造なら3秒未満で溶けて死にます』
強ォい!
スライムの癖に?強ォい!!
このRPGやっぱりクソゲーだわ!!
『現実ですが?』
そうでしたァ!!
でもさ、トモさん。
アレ食べたらボクって口からドロリッチするんじゃないの?
嫌だよ?そんな死に方。
『そんな対象を食べろとは流石に言いませんよ。通常スライム種は中心に『核』が存在していて、それを砕かれるか取られると死にます』
ふむふむ。
『そして『核』を破壊されたスライムは溶解能力を消失した、ただの死体になります。駆け出し冒険者などは、残った体を回収して換金します』
へえ~……アレって売れるんだ。
え?冒険者?
今冒険者って言った!?
マジで!いるの!?
異世界の花形職業!?
テンション上がってきたァ!!
そういえば前にも言ってたけど!
あの時はそれどころじゃなかったんだ!!
『冒険者は最底辺の業種の一つですね。興奮している所申し訳ありませんが、先に食事を優先してください』
はぁい。
でも最底辺か……思ってたのと違うなあ。
夢も希望もなさそう。
『食事』
はぁ~い!
木の幹を伝ってするする降りる。
キャタピラーレッグの謎接着、めっちゃ便利。
死体もぐもぐのお陰でスピードも速いし。
……臭いぃ。
スライムくんすごい臭いぃ。
冒険者さんたち、こんな臭いの回収するんだなぁ。
『ささ、ぐぐっと』
そんな駆けつけ一杯みたいに言わないでよ。
ボクだって心の準備が必要なんですから……
がぶり。
じゅるじゅる。
ぞぞぞ。
――んぐぅう!?
臭いギトギトネトネト!?
なんか、こう……工作に使う液体のりみたいな食感!
液体のり食べた記憶ないけど!
ごくごく、ごくり。
んぎゅうぅ……でも昨日の毒茸くんよりはマシ、かなぁ?
どっちも不味いけど、不味さのランクが違うというか……
『いい食べっぷりですね。どんどん生命力と魔力が増大していますよ』
全然実感が湧かない。
体がほんのり暖かいくらい、かな?
不味さが脳の容量を圧迫しているからなあ。
この体に脳味噌あるのかどうかわかんないけど……
『ほらほら、まだ残っていますよ。端っこの方が美味しいんじゃないですかね』
ムムム!
確かに端っこの方が……ヘドロが凝縮されててすごく不味い!!
くそう!騙された!!
もう味覚いらない……けど、いつの日か美味しいものを食べられるようになった時に味覚ないとショックで死にそうだから……今は、我慢!
むっくんは我慢できる立派な子!!
悶絶しながら、なんとかスライムくんの成れの果てを完食した。
ぷふう……明らかにボクの体積の何十倍もあったんだけど。
質量保存の法則さんが息をしていないな、この世界。
『むっくんは口に入れたものを魔力に変換していますので、その気になれば無限に食べられますよ』
あ、そういえばありましたねそんな設定。
むーん……どうせなら美味しいものを無限にもぐもぐしたいものだ。
ふいい……げぷり。
満腹感はないけど飢餓感もない。
不思議な芋虫ボディですなあ。
『以前むっくんが体験した倦怠感と体の重さ、アレが餓死寸前の感覚ですよ』
0か1しかないのですかこのボディは。
あ、トモさんトモさん。
これで死体を3つ……地竜くんの血を含めれば4つ食べたワケですけど。
『そうですね』
あのクソ雑魚魔法、何回くらい使えるようになったのかな。
威力はともかくとして、現状唯一の攻撃手段だからそろそろ把握しておきたいな。
『少々お待ちを……ふむ、現在のむっくんが使用できる回数は……4回ですね。全部使い切ると魔力が枯渇しますので、安全に使用できるのは3回ですね』
おお!結構増えた……のか?
わかんないけど……でも単発仕様が解消されたのは嬉しい。
トモさんが前に、魔法は何回も使ったら強化されるって言ってたよね?
『そうですね。反復すれば体に馴染んで、スキルが変質したり進化したりすることがありますよ』
なんと!
あの衝撃波(笑)もゆくゆくは変化するということか!
早速スキルラーニングせねば!!
『――いけません。むっくん、すぐに撤退を』
――はぁい!
すぐさま近場の木に飛びついて登る。
ムムムム!行きよりも若干速度が上がった!
ありがとうスライムくんッ!
『間に合いませんでしたか』
えっそれってどういう――
ばきばきばき、と轟音がして。
ボクは、掴まっている木ごと吹き飛ばされたのだった。
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