第3話 とりあえず、目標があるっていうのはいいことだね。
『今日も元気で葉っぱが美味しいですか?むっくん』
固くて苦くて酸っぱくてエグいです。
安定して美味しくないです。
『それはいいことです。味覚が正常なのは精神の健康さを表していますからね』
物は言いようですなあ。
まあいいけど。
現状僕の芋虫マウスではこれくらいしか食べられないし。
もぐもぐ、うーん不味い。
けれども生きて行かないといけないので、もう一枚。
『良い心がけです』
転生から一夜明けたけど、ボクは元気です。
兜芋虫のむっくんです。
残りの寿命は三カ月と二日です。
どうせ葉っぱを貪るしかやることはないので、食べる。
あれ、そういえば昨日から食べてるけど出るものが出ないな、ボク。
便秘で死ぬなんて笑いものにしかならないんだけど、大丈夫? トモさん。
『むっくんは食物を体内で魔力に変換できますので、排泄の必要はありませんよ』
へえ、地味に便利。
トイレの心配はしなくてもいいのか。
『その代わり魔力欠乏が死に直結しますが』
う~ん!一長一短!!
そんなにうまい話は異世界にだって存在しないんだねえ。
はー……前途に多難しかない。
ねえねえトモさん。
『なんですか、むっくん』
ボクが生き延びるためにはさ、魔物を食べればいいんだよね。
葉っぱじゃなくてさ。
『そうですね、魔力を摂取することが進化への近道です。進化をすれば寿命が延び、それによって生命力と魔力が増大すれば生存しやすくもなるでしょう』
ふむふむ、つまりはHPとMPと伸ばせると。
そして進化すれば攻撃力とか防御力とかも上がるのね。
あ、STRとかVITって言うのかなこの場合。
『すいません、今それはやっていないのですよ』
例によって数値化はできない、と。
まあ、当たり前か。
そんなに便利なモノなんか、フィクションの中にしかないや。
今の状況がフィクションそのものなのがアレだけども。
『焦らずじっくりいきましょう、むっくん。寿命が尽きない程度にですが』
塩梅が難しい!とても難しい!!
ううう……これがゲームならいいんだけどな。
ゲームやった記憶ないけど!概念しか知らないけど!!
はー……でも現状やれることないから葉っぱ食べよ。
にっが……まっず……
……そういえばトモさん。
ボクは死にたくないからそこそこ頑張るけどさ。
前からちょいちょい言ってたけど、ボクが生きてるとトモさんになんかいいことあるの?
『はい、ランクが上がります』
ランクとな。
『前に言いましたが現状の私は下っ端も下っ端に位置しています』
うん、なんかワンオペが~とか言ってたもんね。
『そうです。むっくんがこの世界で生きれば生きるほど、そのサポート役の私の評価も上がるわけです』
ふむふむ。
『それによって主上……そうですね、分かり易く言えば社長ですね。社長からの評価が上がっていくわけです』
なるほど。
会社内での出世と考えれば分かり易いね。
『把握が早くて助かります。そういうことです』
なんか、神様の世界も世知辛いなあ。
現実世界みたい。
『通常の会社組織と違って、ポストの数に限りがないことは救いですね』
全員係長とかそういうのもあるのかー。
それはよかった、『蹴落としてやるぞフハハハ!』みたいな人?柱?がいなさそう。
じゃあ、他の神様が着いてるボクみたいなのも多いんだね。
いつか会えたらいいなあ。
『転生した生物によっては会った瞬間に殺し合いですが』
会いたくないなあ。
ボクを食べない種類の相手には会いたいなあ。
『加えて、私達はある程度まで位階……地位が向上しないとお互いを認識できませんので、お気をつけくださいね』
つまり今の状況が一番危ないってことじゃありませんか!
肝に銘じておこう、この体に肝あるかわかんないけど。
色々考えないといけないなあ。
ボクに何ができるかできないかとか、そこら辺が重要ですね。
『ああ、保有スキルの確認ならできますよ』
マ ジ で ! ?
ステータスオープン!できるじゃん!!
言ってくださいよ~、トモさ~ん!
『聞かれませんでしたので。それでは、確認しますか?』
するする超する~!
なんかテンション上がってきたなあ!
『はい、これです』
プン、みたいな音がして。
目の前に半透明な画面が表示された。
うひょ~これこれ!これですよ!
非日常感がでてきたなあ!
ええと、なになに~……
・個体名『むっくん』
・保有スキル『視覚補助』『魔力吸収』『衝撃波(極小)』
……少ない!!
でもまあ、仕方ないか!
まだ転生二日目だし!
でもスキルの内訳がよくわかんないな。
視覚補助ってなに?魔力吸収はわかるけど。
あと衝撃波?なんか強そう!
(極小)がすごく気になるけど……
『視覚補助は、人間と同じように視界を表示するスキルです。衝撃波は昨日むっくんが使用しましたよ』
あのささやかすぎるそよ風ェ!?
てっきり不発かと思ってたよ!
あの『そよっ……』っていうので魔力枯渇で死にかけたのボク!?
『むっくんは生まれたての芋虫ですので』
そうでした!
……まあ、視界がクリアなのはいいことだよね。
憧れの魔法は……現状大道芸にしかならないから封印しておこう。
新春かくし芸で死亡とか、笑い話にもならないや。
『スキルは進化、もしくは使用を繰り返すことによって強化されますよ。まあ、今のむっくんでは使用の連続は精神に悪影響を及ぼしますが』
……それってどうなるの?
『最悪の場合、発狂ですね』
封印しとこ!!今は!!
なにもできない!今はなにもできない!!!!
リスキーすぎるよ、魔法……
『一部の魔物と人間型の生物ならば、生命力と魔法力は分かれていますのでその危険性は薄いのですが……』
……転生ガチャ大失敗のボクには全く縁のない話ですね。
はー、とかくこの世は住みにくい。
がんばろ。
『その意気ですよ、むっくん』
トモさんもいるしね。
正直、いきなり異世界にほうり出されて芋虫スタートだったら発狂してたかも。
話し相手がいるってありがたいや。
『嬉しいですね、気分が高揚します』
いえいえ、こちらこそ。
トモさんも神様なのに芋虫に付き合ってくれてありがとうね。
『お気になさらず、ワンオペでその上暇ですので』
うーん、世知辛い。
どこもかしこも世知辛いや。
さて、葉っぱも貪ったし……移動しよっか。
葉っぱだけ食べてればいいんなら動かないけどな~、そういわけにもいかないからな~。
『魔力を多く含有した植物なら、摂食で進化できる可能性はありますが……』
それマジ!?
いいこと聞いた!
食べてレベルアップできるなんて最高じゃん!!
『そういう植物は通常、魔力の濃い環境下で発生します。そして、魔力の濃い場所は往々にして強力な魔物が――』
はいキャンセル~。
食っちゃ寝レベルアップ路線はキャンセルです~!
このゆるふわ芋虫ボディなんか一瞬で潰れちゃうよ!
異世界でも、人生に楽な道はないのだなあ……
トモさんレーダーに助けてもらいながら、魔物の死体探すか……
ボクの芋虫マウスでも食べれそうなモノを……
『スカベンジですね、いい着眼点です』
っていうか現状それしかできないもん。
さーて、行きますか。
よじよじ、よじよじ。
『気を付けてくださいね。今のむっくんの耐久力では、落下すると大ダメージを受けますよ』
ゆるふわ芋虫ボディだもんなあ、ボク。
せめて衝撃吸収に特化していてくださいよ。
昨日地竜くんの残骸を摂取したお陰で、微妙に足が速くなったのがありがたいなあ。
今の段階で、ボクの知ってる地球の芋虫よりも2倍以上速い。
有難いけど、傍から見ると無茶苦茶キモいと思う。
うまいこと枝から枝に移動しながら歩く。
ここの木がどれもクソデカでよかった。
『……魔力の残滓を確認。むっくん、左方向に何らかの死体がありますよ』
トモさんレーダー助かるぅ!
む、むむむ。
アレかあ。
見えてきたぞ。
っていうか、臭い。
超臭い。
間違っても新鮮な死体じゃないと思う。
『アレは黒蛇という魔物ですね。生きていれば虫を積極的に食べますよ』
目に焼き付けておこう!その死体を!
生きてる個体に会ったら速攻で逃げるために!
『周囲に他の魔物はいません。今がチャンスです』
了解でーす。
ボクはキャタピラーレッグを駆使して、サッと地面に下りるのだった。
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