第2話 この世界はボクに厳しすぎる。

『今更ですが、アナタに合わせて私の性能もダウンサイジングされています。察知範囲は半径10メートルが精々ですので、過度の期待をなさらぬように』


 はぁい!

目下草むらをよじよじ移動中でェす!!


 満腹だからか、ここに転生した当初よりは速いけど……それでも芋虫は芋虫なんだなあ。

トモさんナビよろしく!敵は追って来ますか!?


『追って、というか。追われていますね……正面の木の後方へ回り込みましょう』


 了解です!

うおおおおっ!頑張れボクのキャタピラーレッグ!!

なんか脚がいっぱいある気がしてキモい!脳がバグる!!


 おりゃあああっ!!

な、なんとか逃げ込んだぞ……


 それと同時くらいに、バキバキと大きな音がする。

恐る恐る木から顔を出すと……そこには恐竜がいた。

なんとかラプトルとかいう恐竜に似てる!

今のボクより1億倍は強そう!!


『アレはこちらで地竜と呼称される魔物です。さほど強力な魔物ではありませんね』


 その情報は芋虫には何の役にも立ちませんよォ!!

踏まれただけで成仏する確固たる自信があるッ!!


『素晴らしい自己認識ですね……おや、追手が来ました』


 と、さらに轟音。

地竜とかいう魔物の後ろの……ボクが隠れているのよりも2倍はある木がべっきり折れた。


「ガギャアア!?!?」


 地竜が、岩に噛みつかれた。

いや、正確には岩みたいな体をした……ずんぐりむっくりなドラゴン!!

超デカい!地竜が1メーターくらいだとすると、あのドラゴンは10メーターはありそう!!

だってホラ、一口で地竜くんが消えたもん!

今足首しか残ってないもん!!グロ!!


『アレは大地竜と呼称される魔物です。武装した一般的な人間の冒険者が、20名以上で討伐する対象ですね』


 冒険者!異世界あるあるワードきた!!

驚くほどワクワクしない!

ドキドキはしてる!恐怖で!!


 大地竜は地竜くんをもぐもぐした後……鼻息を残してUターン。

もと来た方向に帰っていった。

足音の振動が冗談みたいに大きいよう……


『今ですむっくん。おこぼれにあずかりましょう』


 ……なにが?

おこぼれ?


 えっ、ひょっとして……アレ?

今も自立し続けている……地竜くんの残った足首未満のこと?


『はい。すっかり言い忘れていましたが、格上の魔物を摂取することでアナタは強くなります』


 マジで!?

進化とかそういうのですか!?


『そういうのです』


 マージで!?

よかったあ!ボクは一生、このほんのちょっと格好いい芋虫のままかと思ってた!!

何に進化できるんですかトモちゃんッ!


『未定です』


 あっふーん……

まあいいや!だって『進化』だもんね!!

さすがにミジンコとかにはならんでしょ!!


 とにかくダッシュ!

芋虫ダッシュだっ!!

頑張れ僕の脚っぽい部位!!

ぬおおおおっ!!


 ……到着ッ!

地竜くんの足首未満前!!

すっごいグロい!

そして微塵も美味しそうじゃない!!


『血の臭いで他の魔物が寄ってくるかもしれません。急いで接種を』


 はぁい!

背に腹は代えられぬ!!

ガブーッ!!!!


 ……超硬い。

草なんか目じゃない。

歯が立たないとはこのことか。

がじがじ。


『現在の硬度では無理のようですね。それでは血を飲みましょう』


 はぁい……

クソ雑魚口内が憎いよう。


 ちびちび、ごくごく。

ううう、当たり前だけど全然美味しくない。

鋭敏な味覚が憎い。

鉄が溶かされたぬるま湯を飲んでる気分だよォ……


 お?


 おおお?

なんじゃこれ。


 なんか、体が……ポカポカする!!

心臓がどっくんどっくん鳴ってる感じがする!!

心臓あるかどうかわかんないけど!この体!!


『生命力の増大を検知。おめでとうございますむっくん、ほんの少しだけ強くなりましたよ』


 やったあ!全然実感湧かないけど!!

あ!パラメーターとか見れないのかな!?

転生ものだとよくあるけど!


 ステータスオープンッ!


 ……はて。

地竜くんのなれの果てしか見れない。


『すみません、今それやってないんですよ』


 ……定食屋再び!!

ちくしょう……ちくしょう……


 ま、まあいいや。

とりあえず強くはなってるんだし!

もっと血をごくごくいったれ!……もうないや。

そうだよね、足首だもんね。

もうほとんど流れ出たもんね。


 ならば肉よ!

強靭になった顎よ!頑張れーッ!!


 がぎり。


 ……噛み切れないよう。

なんてこったい。

強くなったんじゃないのォ?

全然実感湧かないんだけど。


『まだ無理なようですね、あせらずゆっくり行きましょう。我々の試みには時間制限はありませんので』


 あ、そうなの?

よかったぁ……時間経過でエリアが狭くなるバトロワ的なアレかと思ったんですが。

それならよかった。


『便宜上レースと呼称しましたが、誰かを蹴落としたり戦ったりするようなものではありませんよむっくん。要はアナタがこの世界を生き抜けばいいのです』


 ほーん、なるほどね。

つまり、この世界で死なないように生き残ればいいのね。

 

 もう一つよかったぁ。

魔王を倒せとか言われなくて。

無理筋過ぎて笑えちゃうもんねェ。


『そうですね、四魔王には現状では到底敵いませんし』


 あー……でも魔王はいるんだぁ……

異世界、こっわ。



・・☆・・



『見晴らしはどうですか、むっくん』


 森というか葉っぱしか見えないよ、トモさん。

この森鬱蒼としすぎ問題。


 しかし……湧いたね!強くなった実感!

だって木に登れたし!

正確に言うとボクのキャタピラーレッグが引っ付いて登れたし!!

地味に便利!

地面にいるよりも生存性が上がる気がするし!


『あまり枝葉のない場所に行かないように。空にも魔物はいますからね』


 そうでした……

よく考えたら、地球でも芋虫もぐもぐするのって大体鳥じゃん。

トモさんアドバイスありがたい……ボクのソロだったら何もわからんうちに死んでたと思う。

今はトモさんレーダーもあるし、まだ安全だ。


『有効範囲は10メートルですよ。過信は禁物です』


 はぁい……

そうだよな、鳥なんかあっという間に飛んでくるもんな。

慢心は敵、敵でござる。

もっと葉っぱの多いとこに行こう、ご飯にもなるし。


 ……あ!

ねえねえトモさん!葉っぱ食べまくっても強くなるんじゃない!?

永久機関が完成しちゃったかも!!


『そうですね、理論上は可能です。寿命が尽きなければ、ですが』


 あっふーん……そんなに美味い話はないってわけね。

仕方ないなあ。


 ……?


 あれ、なんか今聞き捨てならない台詞が聞こえてきたような。


 え?


 寿命?

寿命って何?

いや、概念は知ってるけど。


 ねえねえトモさん、ボクの寿命ってどんくらい?



『現在の生命魔素から概算しますと……むっくんがこのままの状態でいた場合、三カ月といった所でしょうか』



 ――この世界はボクに厳しすぎる!!

ハードモードのクソゲーだ!!

時間制限あるじゃん!トモさんの嘘つき!!


『ご安心ください、先程の生命力増加で寿命に変動がありましたよ』


 ああ朗報!!

神よありがとうございます!!


『三か月と三日ですね』


 ううううん!!これが本当の三日天下ってやつかァ!!

ありがとう地竜くんの足首ィ!!

僕の寿命が七二時間も伸びたぞ~!!


 ――ガッデム!!ファッキュー!!

神よこの野郎ォ!!

いくらトモさんの上司だって言っても許さねえぞォ!!


『むっくんの思念は賑やかで面白いですね』


 ありがとうございますゥ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る