第一部 クソデカ森林脱出編
目指せ、二足歩行!!
第1話 この状態から入れる保険は、たぶんない。
『こんにちは、お加減いかがですか?』
うわびっくりした!?
急に頭の中に声が……ああ、さっきぶりです。
『思ったよりも動揺していませんね。これは将来有望です』
芋虫なのにィ?
あと、落ち着いてるわけじゃないですよ、絶望しきってただけですよ。
『なるほど、まあ発狂されるよりはマシですが』
初手発狂は流石にね。
その瞬間死が確定するじゃないですか。
嫌ですよ、ボクの自意識発生してから自分計測で30分も経ってないのに。
『とりあえず移動してはいかがですか?その場所、周囲から丸見えですよ。私としては後方の草むらをお勧めします』
それについては同意です。
んしょ……体が重いというか、人間とは違う体だから脳がバグってる感じがする。
手足はないわけじゃなくて胴体と同化してるんだもんな。
それでも、えっちらおっちら動くことで草むらに帰還した。
ふう、一面のクソ緑ただいま。
『周囲に生き物の気配はありませんね、それでは……まずは食事しましょうか』
なんでェ?
っていうかこれからの説明してくださいよ、説明。
ボクはどうすりゃいいんですか。
流石に最低限の指針というか目標は欲しいんですよう。
『なるほど……まずはその草を食べましょうか』
ボクのお話聞こえてました?
そりゃあ食事は大事ですけど……
『餓死しますよ。今は瀕死の状態です、体が重いでしょう?ギリギリです、命が』
食べます食べますゥ!!
そういうことは早く言ってくださいよ!!
このクソ重い体って餓死の前兆だったんですか!!
重い体を動かして、草にかぶりつく。
あ、ボクの口人間っぽくない。
今わかった……なんていうか上下と左右にシャーって開く。
本当に虫になったんだよなあ……
『餓死しますよ』
そうでした!!
仕方がないので、かぶりついた口を動かす。
んぐんぐ……
『おいしいですか?』
固くて苦くて渋くて臭い……味覚まで虫になりたかった……
……あれぇ?
でもなんか……超不味いけど……なんかこう……飲み込めば飲み込むほど、元気になっていく気がする!
なんか!なんかわかんないけど!!
『魔力完全枯渇からの急速回復です。心身にダメージがありますので、これからはあまりしないようにしましょうね?』
ね?じゃないよ!
ちょっと綺麗でカワイイ声出したからってボクは騙されませんぞ!
今初めて聞いたよ!魔力ナントカ!!
……え?ちょっと待ってちょっと待って。
今魔力って言いました?
『言いましたが』
じゃあ、ボクに魔力があるってことですか?
『この世界では万物に魔力があります。一般的には魔力、もしくはマナと呼称されますが一部地域ではクラフト、もしくはプラーナと――』
あ、後半部分はちょっと今必要じゃないのでいいです。
もぐもぐ……あああ、美味しくないけど体が元気になる!
ごくん……ええっと、アレですよアレ。
じゃあボク、魔法とか使えます?
『はい、使えますよ』
ヤッタ!!
これで勝つる……かもしれない!
このゆるふわ芋虫ボディのみで戦い抜いていける気がしないもん!異世界!!
それで、どんな魔法が使えるんですか!?
炎ですか!?風ですか!?雷ですか!?
あ!玄人好みで土魔法とか!?
『論より証拠ですね。もう少し草を食べて満腹になったら、額に意識を集中してみてください……今の魔力量で使用しますと、そのまま餓死します』
食べまァす!草食べまァす!!
怖すぎでしょその反動!!
ちくしょう……ちくしょう!全然美味しくない!草ァ!!
果物とか食べたいよう!!
『現状、アナタは木にも登れませんし。摂取できるものはその草しかありません』
おかしいなあ、異世界転生ってこう……もっと希望とかある感じじゃないんですか?
こうさ、意識を保ったまま貴族の子供に生まれるとか!
ドラゴンの子供に生まれるとか!
将来有望なスライムに生まれるとか!!
『すみません、それ今ちょっとやってないんですよ』
中途半端な時期の定食屋かなァ!?
ううう……もういいよ、草食べよ、草。
ああ、筋張ってて青臭い。
『自分を取り戻すのが早いですね、いいことです』
わぁい褒められた、それなりに嬉しい。
まあね、生きていかなきゃいけないしね。
ここでデッドエンドは流石に嫌すぎるのよ。
これはアレですね?
記憶がない分、そんなに絶望もないとかそういうことですね?
比較対象の人生経験がないもんね!
『これは思ったよりも有望な相手と組んだかもしれませんね。少しウキウキです』
そうですか、そりゃあどうもです~。
……ムム!
なんか、満腹!!
『魔力充填完了。魔法使用可能です』
よっしゃ来た!
エネルギー充填100%ってやつだ!
なんかこう、気力が満ちている気がする!!
よーし……額の角に集中……集中……!
……今更だけど芋虫なのに普通に見えてるのもすごいよな、ボク。
絶対人間と違う目の構造してるし、芋虫。
それと、なんで兜被ってるの?
兜っていうか……芋虫ボディに鎧ヘッドが着いてる感じ?
ここだけはちょっとカッコいいと思う!
『雑念まみれです。それでは魔法が発動しませんが?』
はァい!
集中、集中……!
む、むむむ、むむむむ!
あ!なんか来た!
胴体の下からなんかこう、熱いエネルギーがズワーッと!!
これが魔力かな?
よぉし、じゃあこれを……角に注ぎ込む感じでっ!!
――うおおおりゃあああああああああっ!!!!!!
――そより、と草が揺れた。
『発動確認。それがあなたの魔法です』
……あれぇ?
なんで視界が横に。
『魔力枯渇確認。速やかに草を食べないと餓死します』
畜生ォ!!
さすがのボクも心が折れそうだよォ!!
今の絶対不発でしょ、不発!
草を……草を食べないと……
あああ……青臭ァい、とっても青臭い。
苦い……青汁って人間用に飲みやすく作ってあったんだなァ……青汁飲んだ記憶はないけど、概念はわかる……
『しっかり食べていますね、よいことです』
食べないと死ぬもんね!仕方ないもんね!
もぐもぐ、ごくん。
……そういえば大事な事聞いてなかった。
ねえねえ、あなたのお名前はなんて言うんです?
そしてボクの名前はなんでしょうか?
『私は……そういえば個体名がありませんね、今まで必要ではなかったので。そしてアナタの個体名は存じ上げません、私の所に来た時には既に脳がアレでしたので』
……名無しコンビかァ。
さすがにAさんBさんではちょっとなあ。
『αさんΩさんでは?』
ちょっと格好いいけどそっちはともかくこっちは名前負け過ぎるでしょ!
我兜芋虫ぞ???
ドラゴンスタートとかならそれでよかったんだけどさあ……
むむむ……とりあえずお互いに名前つけ合いません?
なんか、その方が上手くいきそうな感じがするんですよ!
想像だけど!
『なるほど……確かに、円滑な相互関係は呼称からとも言いますね』
でしょでしょ?
じゃあボクは……ううむ。
とりあえず草を食べながら考えよう……もぐもぐ、苦ァい。
『では私から』
早いですね!?
流石は神様的な存在!
『――あなたの個体名は、むっくんです』
……?
あれ、今ボクの耳じゃないけど耳的な器官がバグった?
『身体状態は正常ですよ、むっくん』
バグであってほしかった!!!!
むっくん?なにそれ!?
何にちなんだんですか!?
『芋虫の『む』を』
何故その部位をチョイスしたんですかァ!!
いや、別の所でも困るんですけども!!
ちょっと待って、待って!
再考!再考していただきたいんですけお!!
『……統合アーカイブに承認確認。個体名『むっくん』が確定しました』
ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
嘘でしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?!?
即断即決この野郎!!
『現実です』
ですよねえ!?
ああ、畜生……名実ともに畜生になってしまった……なんか、変なアーカイブに登録されちゃったし……
ボクはこの人生……否虫生が終わるその時まで『むっくん』なのか……
……まあ、しゃーない。
決まってしまったものはしゃーないな、もぐもぐ。
『魔力充填確認。素晴らしい立ち直りの早さですね』
それはどうもです。
ぷふう、満腹。
『それで、私の個体名なのですが』
あ、コレ結構期待してるな?
むむむ……むむむむ……ム!!
――じゃあトモさんで!
友達の『トモ』にちなみました!!
『……個体名、『トモ』確定。安直ですが、まあいいでしょう』
30秒くらい前の所業を振り返ってみてはいかがでしょうかね?
なかなか素敵な性格をしていらっしゃる……
まあ、ともかく。
これからはトモさんむっくんでいきましょうか!
色々わからないことだらけですけど、よろしくお願いします!
『はい、よろしくお願いします、むっくん。それで――敵対的な魔物が正面にいます』
嘘でしょ。
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