第2話 女神様と真実

「―――はっ!」

俺が目を覚ましたのは何もない真っ白な世界だった。

「なんだここは…?」

俺は、クソ王妃に処刑を言い渡され、ギロチンが落ちてくる寸前に目を閉じた。

「俺は死んだのか…?」

そんな質問に答えるものはいない―――


「いえ、死んでいませんよ」

「うわっ?!」

居た。普通にめっちゃびっくりしたんだけど。

「…お前は誰だ?」

「私は女神さまですよ」

「ふむなるほど俺は死んだんだな」

「だから死んでないって言ってるじゃないですか!!」


いや普通に考えて女神を名乗るやつの前にいるなら俺は死んでるだろうが。

そんなことを考えていると女神様(仮)がまた口を開く。

「あなたの首にギロチンが落ちる前にこちらへ転移させました」

「転移?」

「はい。あなたは目を瞑っていたので気が付かなかったかと」

「はあ…」

そうして今俺と会話をしているのはフードを被った銀髪の女性だ。

女神様だとかなんとか言っているが信じていいのか怪しすぎるぞ。


「にしても女神様(笑)とやらが俺なんかに何か用で?」

「女神様のあとになにかついていた気もしなくはないですがまあいいでしょう。用も何もあなたを助けただけですよ」

「…なぜ俺を助けたんだ?」

「それはあなたの力が必要だからです」

俺の力?俺は王妃に力がなさ過ぎて無能だと言われたんだが。まず女神様が力を必要とするってなんだ?

「あなたには真相を話しましょう」

そうして女神とやらは事の真実を話し始めた。


「まずあなたは弱くなんてないんですよ」

「弱くない?ならなんで俺は処刑されたんだ?」

「危険だからですよ」

「危険?」

危険ってなんだよ。力が暴走して王国が潰れるとか?うわ恐ろしいな。


「あの王国…クダネス王国は自分たちの国以外を滅ぼそうとしています」

「滅ぼす?なんでだ」

「世界を我が物にするためでしょう。そしてその裏には王国ではないなにかが関与しているように思うのです」

「なんでそんなことがわかるんだ?」

「でなければ女神を封じ込めたりはしないでしょうね」

「へー女神が封印ねえ…えっ、お前封印されてんの?」

「あら、やっと女神と認めてくださりましたね。ええ封印されてますよ」

「ええ…」

女神ってすごい存在じゃないの?封印とかされちゃっていいの?


「…ちなみにどういった経緯で?」

「普通に紅茶飲んでたら急に封印されましたね」

「…」

こいつ女神って言うより駄目神じゃねえか?なんでそんな簡単に封印されてるの?

「ちなみにその術者は王妃です。だからあなたには王妃を倒していただきたいのです」

「あんたの力じゃ無理なのか?封印されているとはいえ女神ほどの力ならなんとでもなるだろ」

「この封印は神への専用封印なので相当の力が制限されているのですよ。あの王妃ってなかなかに強いんですよね…私の力の一端じゃ倒すことはできません」

「へえーそうなのか。でも俺は無能って言われたぞ?」

「それは王妃の嘘ですよ。灰色の勇者は他の色の勇者に比べて飛びぬけて強い力を持っています」


どうやら王妃の言っていたことは嘘で、灰色の勇者は無能なんかじゃないらしい。

「さっきも言いましたがクダネス王国は悪事を働くつもりです。それがこれから強くなっていくあなたにバレたらどうなるでしょうか」

「まあ、止めるわな」

「そういうことです。他の勇者だけなら王国全勢力でなんとかなるのです」

それほどに灰色の勇者は特別らしい。


「…だから灰色の勇者は強いのですよ。あなたの両親もそうでした」

「っ!やっぱりそうだったんだな…」

「あの二人は魔法を作ることが得意だったんです。しかしながら、その魔法を行使するほどの魔力を持ち合わせていなく、ある深くにある迷宮で亡くなられました…」

「そうか…」

もしかしたら生きているんじゃないか。もう一度会えるんじゃないかという期待をしていた。でもそれは叶わなかった。


「あの二人を私は守ることができませんでした。これは私の責任です」

そうして女神は頭を下げる。俺には黙ることしかできなかった。


そうしてそのまま沈黙してしまい少しの時間が経った。

その沈黙を破ったのは俺だった。

「…俺たちの利害は一致しているんだよな」

俺はあの王妃をぶっ殺してやりたい。女神はあの王妃を倒し、封印から解放され世界を救いたい。どちらも王妃を倒すことで解決されることだ。


「…そうですね。あなたの力はあの二人をも越すものだと感じています。だからこそあなたにお願いしたいのです」

「そうか…わかった」

「…協力してくださるのですね」

「ああ。どうせあんたが居なければ俺は死んでたんだ。それぐらいの恩返しはするさ…それに」

「それに?」

「多分だけど一度は両親のことも同じように助けてくれたんだろ?だからその感謝してる」

そう俺が言うと女神は驚いたような表情になっていたがすぐにさっきの表情へと戻る。


「…そうですか。ではこれからお願いしますね誠さん」

「そうだな…」

「ではとりあえず例のとある迷宮の下層へと行ってもらいます」

「そうだな…うん?今なんて?」

「え?だから迷宮の下層へと送ると…」

「なんで…?」

「今の状態ではまだまだ強さが足りません。あなたには力をつけてもらう必要があるのですよ」

「はあ?力のない俺に下層の魔物に敵うはずがないだろ?」

「大丈夫です。あなたが持つ固有スキルはそんな状況でも下層の魔物に勝てるほどに特別なものです。それに一体倒せばレベルは相当上がるはずですからきっと大丈夫です」

「きっとかよ!心配すぎるわ!」


こんな調子で大丈夫だろうか…下手すればおそらく俺は死ぬぞ。

迷宮の下層となればそこら辺にいるゴブリンやウルフなどの魔物とは格が違うに決まっている。まあこの世界にゴブリンやウルフが居るのかは知らないけど。

「まあいい、せっかく覚悟を決めたんだ。やってやるさ」

「その意気込みですよ。それではあなたを迷宮の下層に送りますね」

「早速かよ…まあいいか」

「あなたはこれから苦労するでしょう。それでも絶対にあきらめないでください。この私とまた再開できることを祈っています」

「そうかい。それじゃあな女神。いつか俺がお前を助けた時には報酬をもらうからな」

「ええ、なんでも願いが叶う秘宝をお渡ししますよ」

「そんなのあるのかよ?!」

「ありますとも、まあ今の状態だと取り出すこともできないんですけどね」

「そりゃ残念だな」

「ええ本当にそうです…まあでもきっと大丈夫ですね、あなたが助け出してくれるはずですから」

「そうだな」


そうして転送の魔法が発動されて俺の体が光に包まれていく。

これから大変な日々になる。まず迷宮から出ないといけないな。

そうして最終的には女神を助け出して元の世界に帰ってやる。

待ってろよクソ王妃。お前だけは絶対に殺してやるからな。


そんなことを考えていると転送が完了した。周りには岩などがあるだけの空間。

女神はいない。誰もいない。俺一人。それ以外にいるのは魔物ぐらいだろうな。

今の俺は相当どん底にいるだろう。けどそれでもかまわない。底辺なら底辺らしくやることがあるだろう。


「さあ始めようか下剋上を」

そうして俺の大変な日々は始まりを告げたのだった。


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灰の勇者の下剋上 水無月桜 @minatuki_sakura

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