第1話 灰色

「ようこそ異世界へ!勇者様!」

「…は?」

そんな言葉を聞いて俺と同じ言葉を発したものは何人いただろうか。


「異世界?何言ってんだよお前。なんだよドッキリか?」

「いえいえ!確かにここは異世界です!試しにほら!」

そういって先ほど王妃と呼ばれた女性は誰もいない壁に向かって手を向けた。

「炎の精霊よ!私の力を今こそ示せ!ファイアーボール!」


そうすると女性の手から火球が出て、少しばかりの爆風で女性の綺麗な金色の髪が揺れた。

「?!」

「これで信じていただけましたか?」

…これは信じるしかないのだろう。一応頬をつねってみたりしたが普通に痛かったからな。

にしてもこんなラノベやアニメなどでしか見たことない展開になるなんて。

はっきり言ってまだしっかりと状況を把握できていない。


「で、ここが異世界ということはわかったんだけどよ。俺たちに何の用なんだ?」

クラスメイトの何人かは状況をある程度理解し、この状況を楽しんでいるように感じられた。

「そのことについて今から話しますね―――」




「…なるほど。つまり、最近この世界で言う魔物というのが活発的になっているから異世界のものを召喚したと?」

「ええまあそういうことですね。普通、魔物は急に活発的になることはほとんどないのですよ。なので私たちは魔王が復活したと考えています」

「魔王が復活?」

「私たちは何度かこの召喚をしたことがあり、召喚した勇者によって一度は魔王は倒されたのですよ」

「それが復活したと?」

「その可能性が高いということです」


なんとなく状況はわかった。そして王妃様の話によると俺たちは勇者に分類されるようだ。うちのクラスは35人いるんだけど35人の勇者?

まあそんなことはいいとして…今一番気にすべきは―――

「というかだな、俺たちはお前みたいに魔法なんて使えないぞ」

そう、そこだ。剣技とかならなんとかなるだろうが、魔法がある以上魔法を扱える方が有利だろう。

「そこは心配なさらずに。勇者様方は召喚の際に"色"が付与されています」

「色?」


「勇者様方はその色の属性の魔法が扱えるようになっています。まあただ、魔物を倒してレベルを上げていただく必要がありますけれど」

この世界にはレベルもあるらしい。本当にゲームのような世界だな。

「レベルを上げないと魔法は使えないのか?」

「いえ、今の状態でも使うことはできます。しかしながらレベルと共にMPというものが上がっていくのと、レベルが上がったり倒した魔物によって使える魔法が増えたりもするのですよ」

「なるほどな」

「まあ最初にほぼ何も使えない状態で魔物狩りに行かせることはないのでご安心を。魔法書というものがあるのでそれで魔法を覚えていただきます」


魔法書まであるのか。ならそれで魔法を覚えた方が早いんじゃないか?

そういう疑問を抱いていると誰かが同じ質問をした。

「魔法書でいろんな魔法を覚えればいいんじゃないのか?」

「一応それは可能ではあるのですが…魔法書は一度使用してしまうと消えてしまうので貴重なものなのです。一人に一つ渡すだけでも大変なんですよ」


と、そういうことらしい。まあ、魔法が全部覚えれるなら苦労はしないもんな。

そこは自分の努力次第ということだろう。

「まあ、こんな感じで説明は終わりです!それじゃみなさんの色を調べましょうか」

そうして周りにフードを被った者たちが水晶玉を持ってきた。

「一人ずつこの水晶玉に触っていってください。これで色を調べます」


そうしてクラスメイトが一人ずつ水晶玉へと触れていく。

「お、あなたは赤色ですね。火の魔法を扱うことが出来ますよ」

どうやら赤色は火、青色は水、水色は氷、黄色は雷、緑色は風、茶色は土、白色は光と決まっているようだ。

水魔法は使えても氷魔法を使えないこともあるのか。

「ちなみにですが私は赤色と白色を持っているので、火と光の魔法を使用することが出来ますよ。それじゃ次の方どうぞ」


そうしてどんどん色が調べられていく。と、そこで―――

「おお!これはすごい!私と同じで二色を持っていますね!赤色と黄色なので火と雷の魔法を扱うことが出来ますよ!」

そう告げられたのはクラスで少しやんちゃな性格な『真島海斗』だった。

「お、やっぱりー?俺って才能あるからさあ。まあ当たりめえだよなあ」

そうして気分がよさげなまま真島は水晶玉の前から退き、調査が続行された。

「おお!また二色を持っている人が!これで4人目ですよ!」

どうやらうちのクラスには才能があるものが多いらしい。

少し真島が悔しそうにしているのが面白かった。


そうして着々と調査が進んでいると…

「な、ななななんと!三色ですか!私よりも多いですよ!色は水色、緑色、白色なので氷と風と光の魔法を扱えうことができますね」

そうして三色という才に恵まれたのは先日俺のことを心配してくれていた花沢絵里だった。少し遠くで真島がとてつもなく機嫌が悪そうに花沢さんを見つめていた。

「え、えっとそれってすごいの?」

「ええもちろんですとも!三色を扱えるものはこの国に一人いるかぐらいですからね!」

確かにそれはすごそうだ。きっと彼女はこれからこの国で英雄として称えられていくのだろう。


(まあ俺は少しでも平穏に暮らせるぐらいの力があればいいかな)

そう考えていると俺の番が回ってきた。

「次はあなたの番ですね風間さん」

そうして俺は水晶玉へと触れた。その瞬間、水晶玉が突然暗めの色へと変わっていった。

(あれ?さっきの説明でこんな色あるって言われてたっけ?)

「あ、えーっとこれ壊れてるんですかね?」

「…いいえ壊れてませんわ。あなたの色は灰色です」

「…は?」

本日何度目のは?だろう。なんだよ灰色って色は七色じゃなかったのか?


「えっとあの灰色って?」

「灰色の勇者は何の力も得ずにこちらへと召喚をされます。要するに無能です」

ガーン


そんな効果音が聞こえそうなぐらい俺は落ち込んだ。

「ぷははっ!風間のやつ灰色で無能だってよ!マジ笑えるぜ」

「で、でも戦う力がないということは風間くんはこの国で普通に暮らすことになるんですよね?」

そう聞いたのは花沢さんだった。

まあ無能で戦う力がないのであればそうなるだろうなと思っていた。しかし飛んできたのは予想外すぎる言葉だった。


「いいえ、灰色の無能勇者は処刑されます」

「 「は?」 」


処刑?なんで?なぜ俺が処刑されるんだ?無能だから?いやだとしても処刑する必要なんてないだろ。せめて労力にするなどできるだろう。なぜ処刑なのだ?

当然、考えても理由がわかるはずもなく。


「な、どうしてですか!処刑する必要性などないはずです!」

「灰色の勇者は足を引っ張るだけなのです。足を引っ張れば、他の勇者の妨げになり、他の勇者の怪我にもつながります」

「ならば戦いに行かせなければ―――」

「勇者の使命は戦うことなのですよ。この世界を守るために戦う必要がある。なので風間さん…いいえこの無能は処刑させていただきます。あなたたち、処刑道具を持って来なさい」

「 「はっ!」 」


あまりにも理不尽である。勝手にこちらに召喚しておいて使命を果たせないから死ねだと?そんなのあまりにもふざけている。

…いやでも、もういい気もしてきた。結局はどこの世界もクソってことだ。

それを俺は改めて実感している。もう生きる気力もなくなってきた。

いっそのことこのまま処刑されてしまおうか。


そうして母さんと父さんのところへ行けたのなら…ん?

少し待て。母さんと父さん…いやまさか…

俺の両親は交通事故で亡くなっている。しかしながらその交通事故には不可思議なことがあるのだ。

それは二人の遺体が見つかっていないということ。

事故現場には二人が乗っていたと思われる破損した車だけが残っていた。

もちろん俺は警察に探してもらうようにお願いした。しかし結果として両親は見つからなかった。


でも今の状況だとどうだ?もし俺たちと同じようにこの世界へと飛ばされたのだとしたら?あの不可思議な事件にも納得がいくのではないのだろうか。

いやしかし、召喚されたとしても別にこの世界に召喚されたとは限らない。

だからこそ別にこの王妃や王様を恨むのは間違っていて…


そう思っていると王妃が近寄ってきて耳打ちをしてきた。

「…そういえば結構前にあなたに似た風間と名乗る二人をこちらに召喚しましたね。実はあの二人も灰色の勇者だったのですよ」

「っ!」

その言葉で俺の疑いは確信へと変わった。こいつが犯人だ。両親をこちらの世界に召喚したのも。そして灰色の勇者になった二人の結末はわかりきっているだろう。

今から俺が歩む道だ。


「っこんのくそ王妃があああああああああああ!」

叫んでも何も変わらずフードを被った者たちに腕を拘束され処刑台へとセットされる。魔法があるって言うのにギロチンで殺すのかよ。趣味が悪いな。

花沢さんが遠くで講義をしているのがわかる。その周りはどうでもいい。みたいな感じだった。真島に関しては「いいぞー殺せー!」とか言っていた。


はあ、やっぱりどの世界もクソなんだ。

こんな世界もあんな世界もぶっ壊してやりたい。

…もしなれるなら破壊神にでもなってこの世界を滅ぼしてやりてえよ。

「それじゃあ今回は運がなかったということでね?私とて処刑するのは辛いのですが…ではさようなら」

その顔がとてつもなく下劣なものだったのは俺だけが知っている。

「覚えてろよクソ王妃。いつかお前を殺してこの世界を滅ぼしてやる…!」

「はんっ!できるわけがないでしょう?今からあなたは処刑されるのですから。殺しなさい」

「はっ!」


待ってろよクソ王妃。絶対にお前を殺しこの世界を滅ぼしてやる。

それまで俺は死んでも死んでやらねえからな。


そうしてギロチンの刃は風間誠の首を目掛けて落下した。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

どうも水無月です。実は私は別でラブコメ作品も書いており更新頻度があまり早くはありません。それでも頑張って続けていくつもりですのでよければこれからも見ていってください~

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