第3話 七条家

 4月11日 19:29 七条宅 北口


「ただいま〜」


「お帰りなさいませ、お嬢様」


「うん、ただいま!」


 北口では三島さんが迎えてくれた。

 三島さんはこの家に仕える執事。

 元海軍少佐で、お父様の副官だった。


 今日もお父様とお母様は居ない。

 お母様は第一機動艦隊司令。

 お父様が第一潜水艦隊司令。

 2人共中将である。


「お風呂になさいますか? それともお食事になさいますか?」


「お風呂にするよ」


「分かりました。 どうぞこちらへ」


 三島さんに連れられて浴室へ向かう。

 脱衣所で服を脱いで、タオルを持って浴室に入る。


 浴室は広く、湯船と呼ばれる物はジャグジーである。

 洗い場は3つあり、家族3人同時に入る事も可能。


「〜♪」


 鼻歌を歌いながら身体を洗う。

 私の髪は長く、腰まで伸びている。

 だから、洗うのに時間が掛かるのだ。

 まぁ、お風呂の時間は楽しいから良いんだけどね。

 それに、この髪気に入ってるし。


「……やっぱり、ココ、1人で入るんちょっと寂しいなぁ」


 この広い浴室、1人で入るのはやっぱり寂しい。

 かと言って、メイドさんに一緒に入って貰うのは何か違う。


「やっぱり彩華と一緒がええなぁ……」


 毎日、彩華と一緒に入りたい。

 あぁ、何であの時『一緒に住まない?』って言わなかったのかな、私。


 彩華は丁度、3月に今の親になった。

 その時、新しい親を探すのを手伝ったのだ。

 今、少しだけ後悔している。


 今の親、3月の時点じゃ、普通の親だったんだけど、4月に入った途端にお金が無くなった。

 これは養父の働いていた会社が倒産した為である。


 身体を洗い終えたら、ジャグジーに入る。

 庭の景色を眺めながらリラックス。


「暖かい……」


 ジャグジーは丁度良い温度に保たれていた。

 熱くも無く、ぬるくも無く。

 正に適温、身体が暖まる。


 40分程ジャグジーに浸かった。

 流石に晩御飯の事もあるので、お風呂を後にする。


 脱衣所で髪を乾かす。

 流石にドライヤーで全部乾かすとなると途方も無い時間が掛かるので、ある程度乾かしたら後は自然乾燥に任せる。


「お嬢様、ご夕食の用意が出来ました」


 私が丁度髪を乾かし終えた頃、丁度晩御飯の用意が出来た様だ。

 メイド長の私市きさいちさんが呼びに来てくれた。

 私市さんの後ろを歩きながら、ダイニングへ向かう。


 ダイニングは3種類ある。

 1つは宴会用、1つは家族用、そしてもう1つは1〜2人用。

 今日も3つ目の部屋を使う。

 最も使用頻度が高い部屋である。


「本日のメインは春の山菜を使用した天ぷらでございます」


 私に料理の説明をするのは料理長の豊岡さん。

 シェフは10人程働いており、その10人をまとめてるのがこの豊岡さんだ。


「左から順に蕗の薹ふきのとう、たらの芽、うど、こごみでございます。 お味噌汁には春キャベツと新玉葱を使用しております」


 美味しそうな天ぷらが綺麗に皿の上に並べられている。

 お味噌汁もまた、同じく。


「ご飯は筍を使用しました、炊き込みご飯です」


「おぉ〜!」


 豊岡さん達は毎日、私の為に朝昼晩とご飯を作ってくれる。

 学校がある日の弁当もシェフ達が作ってくれるのだ。

 ……1週間位、サボっても良いのにね。

 私だって、人並みには料理が出来る。


「副菜は菜の花とキャベツのお浸しです」


 それにしても、どれも美味しそうだ。

 少し口を緩めたら唾液が垂れてきそうな程。


「いただきます」


 まずはお味噌汁から飲む。

 あぁ、美味しい……。

 めっちゃ出汁が効いてる……。


 お味噌汁の次は炊き込みご飯を食べる。

 筍の食感とご飯の相性はバッチリ。


 そして、メインディッシュたる天ぷらを食べる。

 揚げたての天ぷら特有のサクッとした食感。

 蕗の薹はモチモチしており、対してタラの芽はサクサク。

 うどはシャキシャキしており、若干の苦さがあるが、これがまた良い。

 こごみは苦さの他に甘みがあり、独特な美味しさがあった。


 ここまで全て美味しかったので、当然お浸しも美味しかった。

 天ぷらの箸休めとして最適である。


「美味しい、美味しいよ豊岡さん」


「お口に合って何よりです」


 美味しい晩御飯を食べ終えたら、自分の部屋へ向かう。

 私の部屋は2階にあるから、階段を上って2階へ。

 鞄は三島さんが部屋に届けてくれた。


「特に宿題は無かった……、うん、無かった」


 取り敢えずテレビを点ける。

 時刻は21時を回っており、ドラマの時間となっていた。


「うーん、興味無いや」


 特に興味のあるドラマは無いのでチャンネルを変える。

 しかし、特に興味のある番組はなかったので、テレビを消した。

 そして、スマホを手に取りYouTubeを起動。

 適当に動画を見る。


「あ、この猫可愛い」


 可愛い猫ちゃんの動画が流れて来た。

 とても可愛い、大変癒される。

 猫ちゃんの動画で癒されていると、彩華からdiscordのDMの通知が届いた。


[橘花ちゃん、またお金せがまれちゃった]


[OK、いくら?]


[30万円だって]


[OK、明日持ってくね]


[ありがとう]


 私は度々、彩華……、と言うより、その親にお金をせがまれる。

 本来ならば断固拒否ではあるのだが、出さなければ彩華がどうなるか分からない。

 だから、仕方無くお金を払っている。

 まぁ、私の財布に影響は全く無いから良いんだけど……。

 それにしても、このお金は何処へ消えるのやら。


「はぁ、30万円か」


 ベッドから立ち上がり、金庫へ手を伸ばす。

 ここに私の一般貯金が貯め込まれている。


「後22万円か」


 金庫にあったのは52万円。

 30万円あげるから、残り22万円。

 また銀行から下ろしてこないと。


 この金庫の中には常に最低50万円は置いておく事にしている。

 急にお金が必要になった時、銀行に行かなくて済む様にね。


「封筒封筒」


 流石に30万円を財布に入れるとえげつない事になるので、しっかり封筒に入れる。

 封筒は銀行に行った時に貰った物の余りだ。


「良し、忘れない様にしないと」


 そう言えば、最近求められる金額が大きくなってる様な。

 流石に50万を超えたら言おうかな。

 彩華が住んでる所、家も土地も私の物だし。


 ……ってか、高校生に土地渡すってどうなのよ。

 しかも、1つや2つじゃなくて、京都市の2割。

 最初、この事をお父様から告げられた時、私はとにかく驚愕した。

 いきなり、京都市の土地の2割を自分に渡すと言って、驚かない人は居ない。

 流石に拒否したのだが、既に登記簿は書き換えられていた。

 そして、諦めて土地と建物を受け取ったのだ。


「あ、大阪への行き方調べとこ」


 再度スマホを手に取り、今度は大阪までの行き方を調べる。

 乗換案内アプリで”七条から梅田“と入力。

 案内はすぐに出た。

 私はこの画面をスクリーンショットして保存する。

 いつでも見れる様にね。


「あぁ、暇になっちゃった」


 特にやりたいゲームも無いし、組み立てたい模型も無い。

 あぁ、どうした物かと思案していると、その暇を簡単に打破する通知が届いた。


[橘花ちゃん、大阪で服買おうよ]


 彩華からのショッピングの誘いである。

 断る理由なんてないので、当然承諾の通知を送った。


[嬉しい! ありがとう!]


[彩華にピッタリなお店があるから、一緒に行こう]


[分かった。 行こう行こう]


 彩華の文面から、彩華は気分が高揚している事が読み取れる。

 彩華にピッタリなお店は、三島さんと服を買いに行った時に見つけた。

 彩華と大阪に来た時、絶対に行こうと決めていたのだ。


「ふふふっ、楽しみ!」


 楽しみがまた1つ増えた。

 ミュージカルも当然楽しみだけど、彩華とショッピングするのも楽しみ。

 絶対彩華に似合う服を見つけておいた。

 あぁ、楽しみだなぁ。


 そんな事を考えているうちに、私はいつの間にか眠ってしまっていた。

 起きたらもう朝5時!

 あぁ、スマホ充電しないと……。

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