第23話

 板垣さんに連れられ、銃座の奥にあった部屋に入る。

 ……そこには、一見すると何もない。

 だが、隊員が立っているその先……入り口から入って3列目の棚の下に、木箱のようなものが2つ置かれている。

 俺は木箱をゆっくりと開け、その中を確認する。中身は、特殊な容器に入れられた無色透明な液体。間違いない、これだ。

 俺は中にある容器の数を数えていく。幸い、ここに運び込まれてからVX15は一度も動かされていないようだった。

 そのまま箱を戻して、隊員に指示し運び出してもらう。

「おい、神木」

「なんです?」

 そのまま部屋から出て隊員についていこうとすると、板垣さんに呼び止められた。

「ちょっと来てくれ」

「?」

 不思議に思いつつも、板垣さんについていく。

 その先には、先ほど美玲が殺した敵の遺体。かなり損壊していて、顔の部分がわかりにくくなっているものもある。

 先ほどは美玲とのやりとりに集中して気が付かなかったが、よくよくその遺体をみると、それは違和感だらけだった。

「……なるほど」

 その遺体には、テロ組織らしからぬ装備だった。

 プレートキャリアを装着し、武装も近代化された西側の銃器……G36だ。さまざまなアタッチメントで補強され、ヘルメットには暗視装置まで取り付けられている。彼らは明らかに、フクロウでも、また財政難のオロスでもない。比較的損壊がましな遺体が被っていた覆面を外すと、それを取り外すとアジア系の顔。

 その時、全てが点と線で繋がった気がした。

 フクロウがオロスに拠点を作り、易々とVX15をこの国に持ち込んできたこと。それを超短期間で全てやってしまったこと。

「全部、彼らが仕掛けてたってわけですね……」

「……」

 華共人民共和国。日本の南西方面に位置する隣国で、オロスに継ぐ2番目に大きな領土を保有する大国。近年急速に近代化し、軍拡を進め、周辺諸国へ圧力を高めている、現在の国際関係における悩みの種。

 彼らのやり方は狡猾かつ悪辣で、被人道的な行為も平気でし、去年は戦争をせずに隣国にあった小国を併呑した。

 当然、国際社会は避難したが、彼の国が世界の産業上でも重要な位置を占めているため、強く出ることもできない。

 何度も言うが、極めて狡猾でずる賢い奴らだ。当然、直接的な証拠は何も出てこないだろう。彼らの装備だって、西側のものだし、隊員がアジア系の顔、ということぐらいしかわからない。

 今思ったのだって単なる直感だ。……周りの全員が思い、一致するような直観、だが。

 我が国は、彼の国と南方諸島の領有権をめぐり、争っている。彼らが華共の特殊部隊だ、と言うことを突き止めたいがそうはいくまい。おそらく、データ上において彼らは完全に存在を抹消されている。"存在しない人間"を向こうにいくら問い詰めたところで、無駄なこと。

「はぁ……」

 頭が痛くなる。

 彼らは、正確に言えば彼らの政府は、目的のためならば手段を択ばない。

 自身の目的ならば、人を殺すことを正当化し、またそれが正しいと思っている。

 

 ……命を奪った贖罪の気持は、当事者にしかわからない。

 たとえ敵だとしてもぬぐい切ることができない、どこかに逃げないとつぶされそうになる気持ち。精神論でごまかすのは簡単だが、俺はそれを真正面から受け止めたかった。

 ……人を殺し殺されることを前提として成り立つこの世界の平和に、人はいったいどんな理想を描いて、どんな世界を描けばいいのだろうか。

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