第20話

 このブリーフィング中、なんとなく周りの様子を見てみたが、皆この任務が伝えられたのは今日だったろうに何ら心配している気配がない。さすがの信頼と実績、といったところか。

 そんなブリーフィングをしつつ、中隊長が締めようとした矢先だった。

「……あと、知っているやつも多いと思うが、今回現地で内調の神木君が指揮を執ってくれる。神木くん、なんか一言くれ」

「えぇ……」

 とんでもない無茶振りが飛んできた。全然話す内容が思いつかないが、とりあえず前に立ち、皆の顔を見渡す。やはり見知った顔が多く、何人かは苦笑やにやりと笑みを返された。

 少し息を吸い、呼吸を整える。皆の士気に関わるので、言葉を慎重に選びつつ口を開いた。

「……僕は、皆さんが失敗するとはみじんも考えていません、因縁の相手です。大いに暴れてくださって結構です。皆さんがこの平穏を守る剣となることを、期待します」

 言い終わると、敬礼で返された。何これかっこいい……。

 少しかっこつけてしまったが、こういうのはかっこつけるくらいがちょうどいい。

 ふと、美鈴と目が合うとちょっと震えながら目をそらされる。

「ふふっ」

 やっぱり知ってる人がいると恥ずかしかった。


 装具やルートの確認等をしていると、あっという間に作戦開始時刻になる。

 それぞれヘリに搭乗していくのを横目に見つつ、俺と美鈴が板垣さんに続いてヘリに乗り込むと、すでにタービンが回り始めていた。今回のヘリはUH-60。かなりポピュラーなヘリなので、ゲームなどで見たことがある人もいるのではなかろうか。よく特殊部隊なんかで強襲する時に落とされるアレだ。

 ……いや、今回落とされたらたまったもんじゃないので勘弁願いたいが。

  エンジンが甲高い音をあげ、回転数が上がっていく。そしてある程度の回転数に達した時、独特の浮遊感とともに離陸した。

 ヘリはそのまま進路を新潟にとり、編隊を組んで飛行を始める。

 俺はコックピットのガラス越しにその方向を睨む。当然、そこには立川と空の景色が見えるだけで、それ以上のものはない。

 だが、俺の脳内には新潟にあるフクロウの拠点の建物が、現実感を持って描かれていた。

 俺のヘリに乗る部隊の担当は、正面入り口。1番目立つポジションだ。……さて、決着をつけるとしよう。


 ヘリというものは優秀で、立川から新潟まですぐ着くことができる。だから車なんかでいった際、なんらかの方法で察知される可能性があるが、ヘリはその可能性がない。相手が驚いている間に展開することができるのだ。

 眼下を見ると、もう新潟市内に入っているようだった。

 

「現着180前です」

 パイロットが残り3分で到着する旨を伝える。

 ここで身が引き締まる思いをする、なんてことはよくあるが、彼らはそうではない。もうとっくに覚悟を決めている彼らの精神は、こういったことでは動かない。

 もうとっくに準備はできているのだ。いまだに緊張しているのは俺くらいなものであろう。美玲も、どちらかといえば特選群側のマインドだ。

 三機のヘリが、低空で新潟の町をかけていく。

「建物を視認」

 パイロットが続けて報告し、ヘリは着陸体制を取り始めた。何人かの隊員が立ち上がり、俺も後に続く心構えをする。

 気が付くと、もうすでに地面まで残り数メートルのとこまで来ていた。

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