第18話
合計一時間半ほどの苦行を終え、後ろの扉が開かれる。どうやら格納庫に直接入ったようで、見ると、数機のヘリと、整列した隊員の姿があった。人払いされているのか、特選軍の隊員以外はおらず皆一様に真っ黒な戦闘服に、同じく黒い防弾プレートキャリアを装備している。今重は持っていないが、任務の特性上一般の隊員が持つ89式などの銃でなく、M4やHK416を使用することが多い。また、それ以外の装備もやたらごてごてしていて、顔つきも相まってパッと見るだけで精鋭なのが見て取れた。
「敬礼!」
ひときわいかつい男性が号令をかけると、一斉に敬礼が行われる。俺も軽く敬礼を返しつつ、その男性に話しかける。
「お疲れ様です。板垣さん」
美玲も目礼で彼に挨拶する。
「いやぁ、二人とも久しいね」
板垣太地さん。彼は名誉ある特選群第一中隊の中隊長だ。つまり、今回襲撃任務を担当するのは第一中隊ということになる。
「早速始めよう」
板垣さんに連れられ、格納庫の一角へ。そこには、ホワイトボードやモニターなどが設置され、簡単な作戦会議ができるようになっていた。早速俺はモニターにPCを接続し、立ち上げる。
「今回はヘリで行くことになってるんですか?」
「あぁ、俺はそう聞いてる」
俺は聞いてないけどな……!まぁ妥当だと思うけど。
「目立ちますけど、移動手段として優秀ですからね……一応、今回の建物の見取り図です。建設途中で放棄されたようですが、中の区画までは作られたようなのでこのまんまと考えていいでしょう」
「ふむ、助かる……周りの地形は出せるか?」
そのまま画面を切り替え、建物の周りの地形を表示する。
「地形ですが、周りに建物はありません。少し市街地から離れた奥まった場所にあります。正面なら着陸できそうな場所があります。あとは裏口と屋上に1機づつ用意して3方向から制圧するのが良さげだと思います」
「ふむ、それが良さそうだな」
「今回の作戦目標は、第一にVX15の確保です。教団信者の生死は問いません。武装等は自由に使用してください」
「大盤振る舞いだな……ブツがどこにあるのかはわかっているのか?」
「そうですね……今までの通信履歴から推察するに、第一候補は地下一階にあるこの角部屋でしょう。他の部屋であったとしても、保管の関係から地下の可能性が高いと思います」
「ふむ、じゃあメインは地下か」
「……後は、部屋の大きさからして二階部分のここやそこは幹部で使われている可能性が高いでしょう。一応余裕があったら考えるべきかと」
「ふむ、教団幹部の確保はできればしたいもんな」
「できれば、でいいです。……あくまでも、主目的は別ですから」
「わかった……奴らの武装は分かるか?」
「これも通信記録ベースですが、AK74などの自動小銃、トカレフやマカロフなどの拳銃も保有しているようです。ただ、信者がまともに訓練したとは思えないので、練度は高くないでしょう」
「それはそうだろうな……やはり1番の問題はVX15、か」
「そうですね……拠点制圧の際に使用される可能性は考えるべきです。防毒マスクや戦闘衣も、対応したものが望ましいでしょう」
「そうだな、一応それ用の防具は用意してる。お前らお二人さんの分も、な」
「助かります」
「もし持ってたら、拘束せずに射殺だな?」
「ええ……一度散布されたら、処理が難しいですし、揮発性が高いので周辺の建物に被害が及ぶ可能性があります。使用前に止めてください」
VX15の厄介なところは、揮発性が高いところ。液体からすぐに機体に変わるため、一度揮発されたら対処が難しいのだ。また、気体なので周辺地域に被害が及ぶ可能性も高い。容器から出されるのは絶対阻止だ。そのためなら、射殺も致し方なしだろう。
「よし、あとはこっちで突入ルートを考える。その間、向こうに着替えがあるから、格納庫の更衣室で着替えてきてくれ」
そう言うと、板垣さんは何人かを連れて検討に入った。
やはりこういった突入ルートを考え出すのは、現場の隊員の方がいい。彼もそれを理解しているから、俺に問うようなことはしなかった。
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