第17話

 武口さんを見送ると、美鈴がいやそうな顔をして口を開いた。

「……もしかしなくても、あれで移動、だよね?」

 かなり苦々しい表情だ。気持ちは俺にも分かるが……。

「もしかしなくても、そうだろうなぁ」

「私、あれほんとに苦手なんだけど……何とかならない?」

「まぁ、あきらめてくれ。俺はもうあきらめた」

「はぁ……」

 なぜ俺も美鈴もここまで嫌がっているのか。それはひとえに、移動手段にある。

 基本的に、俺も美鈴も存在自体がかなりの機密事項だ。なんせ、大学生で国家機関のエージェントをしているなんて、国民や他国から批難されかねない。その機密を担保するために、俺らが移動する際は普通の車で移動することができない。

「はぁ……」

 俺は防衛省の地下駐車場で待機していたそれを見て、ため息をつく。そこにあったのは、普通の二トントラック。自衛隊でよく使われる緑のあれでもない、一般でよく見かける銀色のトラックだ。

「どうも、お待ちしてました。後ろにスペースは作ってあるんで、乗ってください」

「あっはい」

 運転を担当してくれるのは、会議室でもたびたび見かける公安調査庁の人。

 今日は忙しいのでは?、と問うと、

「まぁ、私以外に運転する人探すのもめんどいでしょうし」

 と苦笑で返された。

 さて、後ろの荷台をあけ、段ボールが積み重なった奥のスペースに潜り込む……ご丁寧に、座椅子が用意されていた。このトラックはエアコンが付いているので、中の快適である。気温は、ね!

 窓もなく、座れるものも段ボールくらいしかないこのトラックが、もっぱらこういう時の移動手段であった。正直、立川ならまだ近くていいが、たまにもっと遠くまで行くとなると死にそうになるので勘弁してほしい。ちなみにトイレはない。狂ってる。

 何回か言っても、

「予算不足で……」

 といわれなかなか改善されない。なんかもっとほかに方法がある気がしてならないが、とりあえず機密保持のために致し方なく受け入れている。

 ちなみに、美鈴はこれに乗ると大体不機嫌だ。

 走り出した今も、端正な顔を歪めて不機嫌そうな顔を崩さない。運転する側も、乗る側もみんなつらいというね……。この空気もつらいっす。

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