第15話

 次の日、俺は久しぶりに大学に来ていた。久しぶり、というのは少々語弊があって実際は数日ぶりに来ただけなのが、なんとなく大学の雰囲気がひどく懐かしく感じる。

「よう、まさ」

「やぁ、ひさびさだな、根木」

「お前、相変わらず急にさぼるよなぁ、おかげで最近逢桜の機嫌が……」

 「ねっぎー?」

 悪い、と続けようとしたんだろうが、あいにくそれは逢桜のジト目で妨げられた。

「逢桜、寂しかったんだ……」

「いや、寂しくなんてなかったから!ほんとほんと……いや、美鈴ちゃんに会えなかったのはもちろん寂しかったよ?」

 慌てて否定しようとするが、美鈴が少し悲しそうな表情をため、慌てて撤回する。

「あまり逢桜をからかうんじゃない……」

「あ、気づいた?」

 美鈴が小さいいたずらがばれた子供のような顔をする。

「気づいたも何も、わかりやすすぎだわ」

「そうかな……?」

「そうだよ」

 すると逢桜はからかわれていたことに気づいたのか、さらにむきになってしまい、そのあと家まで口をきかせてくれなかった。

 ……俺はばたんとドアを閉め、鍵をかける。いつものように靴を脱ぎ、手を洗って椅子に座った。

 PCのチャットを開くと、武口さんから明日は市ヶ谷に来るよう要請が来ていた。

 仕事と仕事の合間にこういった日常が挟み込まれると、やはり日常が特別なもので、いかに簡単に壊れてしまうのかを実感する。

 もし、やつらがVX15でテロを起こしていたら、犠牲になったのは俺の友人たちかもしれないのだ。そしたら、俺は何を思い、何をするのだろう。

 ……思考の沼にはまりそうになった意識を引きとどめ、別のアプリを開いて情報を確認していく。

 やはり、今日も落ち着けそうになかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る