第14話
そんな話をしていると、武口さんがこちらへやってくる。
「神木、美玲、行くぞ」
「……私も?」
「そうだ。神木のサポートをしてやってくれ。もうこのあとすぐ始まるからな」
「ずいぶんと急ピッチですね」
この話をして、まだ24時間も経っていない。それで内閣に話をつけ、オロス政府とも話をつけてしまったのか。
「あぁ……と言っても俺の力というより、内閣がことの重大性に焦っているという感じだろうな。向こうさんも放置してる兵器が勝手に使われてると聞いて目の色変えたみたいだ」
「今まで動きなんてなかったのに、一週間でこれ、ですからねぇ……」
「あぁ、といっても、やつらはもっと前から動いていたのだろうがな……」
自責するようにしみじみとつぶやく武口さん。やはり、立場的にも俺の比較にならないほどの重責が彼に乗っかっているのだろう。精神的にも、肩書的にも。
部屋に移動する。こういった気密性の高い会議にはよく使われる部屋で、机とモニターがあるだけの簡素な部屋だ。
今回使うオンラインツールを確認すると、すでに向こうの担当者は入室していた。カメラで映し出された理知的な男、見覚えのある男だ。向こうの連邦保安庁……俺と同業の人間。それも、局長である。まさか局長が出てくるとは、今回のことは相当重大に扱っているらしかった。
ちなみに、普通に俺と逢桜は顔を出せないのでオブザーバーとして参加し、メインで武口さんが話しだす。……正直、向こうの局長と対等に話せるほど勉術にたけていないので、大助かりだ。美鈴とともに、おとなしく聞き役に徹する。
――
会議は時折紛糾しながらも、一時間ほどで終了した。
「ふぃ〜」
少し疲れたので、自然とため息が出る。
「正成、疲れた、の?」
「……まぁな、英語の会話を聞き続けるのはつらいわ」
「……でも、英語ネイティブレベルだよね?」
「まぁ、母国語にはない疲れっつーもんがあるんだよ……美鈴はその辺、平気そうだな」
「うーん、私は感じたことがないかも……」
「うらやましい」
そんな会話をしていると、武口さんがこちらに話しかけてくる。
「お疲れさん、なかなかいい会議だったな」
「……そうですね、正直、あそこまで乗り気なのは正直予想してませんでした」
最も驚いたのは、向こうの担当者が拠点をつぶすことに積極的だったことだ。向こうとしても、ここまで分の悪い証拠を出されたら誠実に対応してほうが貸を作れるということなのだろう。
局長によると、明日までには準備が整って、明後日までには制圧が可能らしい。……というか、制圧のためにBTR(歩兵戦闘車、でかい機関銃と装甲が付いてる)使うって聞いたときは、苦笑いするしかなかった。不穏分子は絶対につぶすという熱意を感じる。
「まぁ、向こうさんも今回のことで貸しを作りたいんだろう……拠点で得た情報はこちらにすぐよこしてくれるようだから、その資料は神木に任せる。あとは……そうだな、この件は我々と総理にしか共有しない。そこは気をつけておいてくれ」
「了解です」
「了解」
「よし、じゃあ俺はもう行く。何かあったらまた呼んでくれ」
「少し待ってください……お伝えしたいことが」
「何だ?」
「裏切者について、です。少し怪しい人物がいます……美鈴、一瞬外してもらえるか?」
俺は美鈴に一瞬目配せをする。
「ん、わかった」
美鈴が出ていったところを見届け、俺はまた口を開く。
「俺の考えでは――じゃないか、と」
「……俺も、そう考えて公安に指示を出した。やはり神木もそう思ったか」
「ええ、やはりおかしいんですよ……。そもそも、俺の周りのことがやつらに筒抜けすぎです。やはり見ていると、俺を中心に情報がわたっているように見える。それに……あの会議室の中に裏切る人がいるとは、とても」
「同感だ、あの会議室にいるやつらはみな愛国ばかばかりだ。裏切るようなやつはおらん」
「……そうなると、もはや候補は一つしかないかと」
「うむ、それについてもすぐに結果が出る。それまでは耐えてくれ」
「了解しました」
「うむ、あとは大丈夫だな?桜田を待たせてる。あいつ、怒ると怖いんだよな……あいつを外させる必要、あったのか?」
「事案が事案ですから……無駄なショックを受けてほしくない。ショック受けて隠されても、俺はそれがわかりませんしね」
「女心がわからん奴め」
「いや、あんたもわからないでしょう」
あいつの演技を見敗れるやつがこの世界にいるのか、だいぶ疑わしい。案の定、がははと笑い、
「まぁ、わからんだろうな」
と返される。
「ほら、やっぱり」
「……でも、一緒にいるお前じゃなきゃ気づけないことは確実にある。ちゃんとそこは気づくんだぞ?」
「……精進します」
女心は俺にはわからんので、相当精進しなきゃいかんだろうが。……感情ってムズイ。
「じゃあ、俺は行く」
「あ、はい。お疲れ様です」
見送ると、入れ違いで美鈴が入室してきた。
「ねぇ……」
開口一番、少し思いつめたような声音だ。
「何だ?」
「私たち、どうすればよかったんだろうね」
「今回のことか?なら、まだ何も終わってなんか――」
ない。と言おうとすると、美鈴に声をさえぎられた。
「……今回のことも、前回のことも」
「……前回なんて、子供だっただろ。俺もお前も。気にすることじゃない」
「そうだけど……もっと何かができたんじゃないいかって。
そういわれて、気が付く。こいつもある程度察しているのだ。考えてみば、頭のいいこいつが気が付かないわけもない。
「美鈴、前回の件は子供だった。今回の件は我々の察知能力の上をフクロウがいった、あるのはその事実だけだ」
「そして、まだテロは起こっていない。まだ後悔するときじゃない、今は全力でテロを阻止することにリソースを使うべき時だ、それ以外のことを考える暇なんてないさ」
「……そう、だね」
そういうと、まだ腑に落ちていないが、納得はしたようだ。
美鈴の気持はよくわかるが、後悔するときは今じゃない……後悔とは、すべてが終わったときに改めてするものだ。だから、今はこの道を進むしかない。そこに何が待っていようとも、乗り越えることができると信じて。
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