第13話

 そのまま、他愛もない話をしながら会議室へ。

 会議室に入ると、やはり皆俺らと同じような浮かない顔をしている。

 いつも大体笑って流す武口さんも、今日ばかりは神妙な顔だ。

 そのままいつの通りプレートのある席に着席。すぐに会議が始まった。

 まずは、公安調査庁からの調査報告が行われる。

「えー、まずは我々からというお話だったと思いますが、結果から申し上げますと、VX15に関するもの、オロスの関与を示す証拠等は何も見つかりませんでした」

 ざわり、と会議室が騒がしくなる。

「我々が踏み入れた時には、おそらく証拠となるもの全てを破棄していたと考えられます。……いくつかの端末で記録媒体が新品に変えられてました。以上のことから、我々内部にフクロウに協力する者がいる可能性が高いと結論づけ、現在内偵を進めている最中です、それについては近日中にまた追って報告します、以上です」

 担当の人が席につくと、尚更会議室の中が騒がしくなる。

「静かに……神木、次はお前の報告だ」

 武口さんがそれを一蹴し、ひとまず俺の方へバトンを渡す。

 俺もこの雰囲気に流されぬよう、話し始める。

「はい。先日、衛生画像による調査を再度行っていたところ――」

「……以上より、すでに国内にVX15が持ち込まれている可能性が非常に高いです。洋上でランデブーしていた漁船に関する情報はまだ詳細不明ですが、新たなことが分かり次第報告します」

「うむ、ご苦労」

 今度は、誰かが何かを言う前に武口さんが先回りする。だが……会議室の空気はまるでお通夜で、誰もが言葉を発そうとも思っていないようだった。

「みんな、今のを聞いてもらった通りフクロウは相当のところまで来ている……国内だけで収めたかったが、見ての通りそういきそうもない。昨日神木の報告をうけ、そのまま内閣にオロスへの協力要請を求めたところ、それがオロスに受諾された。これから、オロスの担当と対応を協議する……神木、後でお前も一緒に来てくれ」

「了解しました」

「それから、全国の警察で緊急警戒が敷かれることになった。特に都市部や地下鉄を中心に、警戒を強化する。……みなの憂鬱な気持ちはわかる。先手を取られ続け、あまつさえ仲間内で情報が洩れていると来た。だが、ここで腐ってはならん。我々の使命はなんだ!この国の平穏を守り、守護することだ!諸君ら一人一人が、日本国民の平和な生活を背負っていることを忘れるな。それぞれができることを最大限行え。以上」

「了解!」

 武口さんの檄により、室内の陰鬱な空気が払拭され、皆の瞳にまた光が宿り、続々と仕事に取り掛かる。

「俺はフクロウに関連する協力者をもう一度あたる」

「じゃあ俺は裏切り者候補を探そう」

「じゃあ俺は構成員を……


 空気が変わり、皆のやる気が引き出されたのが目に見えてわかる。人って単純だなぁ、と思いつつも、それを引き出した武口さんには尊敬の念を抱かざるを得ない。

 「……流石、武口さんだね」

 やはり美玲も同じことを思っていたようだ。

「そうだな、やはりあの人の言葉には力強さがある……俺は同じことを言えてもここまでにはならんだろうな」

「私は多分、できる、かな?」

「演技を使えば、だろ」

「もちろん」

 演技じゃ心こもってないから届かないだろ……と思ったが、こいつの演技は心のこもっていない言葉も、いかにもそれらしく聞こえる。美玲が檄を飛ばし、男たちが雄叫びを上げて士気が上がる姿が容易に想像できた。……普段の美玲の姿を知っていると違和感しかないが。

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