第12話

 「昨日、公安調査庁によりフクロウの会の全国の拠点に対して、一斉に捜査が行われました。これは、国内で誘拐未遂事件が起きた為だと発表されており、その因果関係を調べる為だとされています。フクロウ真理教崩壊後、大規模な拠点調査は初めてであり、フクロウの会は"公権力による宗教の弾圧だ"として強い非難を……」

 そこまでニュースキャスターが喋ったのをみて、俺はテレビを消した。朝ごはん代わりのドーナツパンを頬張りながら、出かける準備を進める。

 今日は、調査の第一次結果報告を聞くためにまた市ヶ谷に行かねばならない。幸い、今日は大学が全休なので逢桜への言い訳も必要なかった。

「あ、まさくん」

 しかし、出かけようと家を出た矢先逢桜にあってしまう。いつもならあってしまう、とはならないが、最近は任務で大学をさぼりがちなのもあって気まずい気がした。

「よ、よう」

 俺がぎこちなく挨拶を返すと、逢桜に爆笑で返される。どうやら向こうは気まずさというものを微塵も感じていないらしかった。

「なにその挨拶の仕方ぁー」

「そんな笑うことでもないだろ……」

「最近大学さぼってたから気まずいんだ?」

 すべてを見透かしたような顔で下からのぞき込まれ、逢桜の端正な顔が視界に映る。

 ……実際、長年幼馴染をやっているだけあって俺の思っていることが逢桜に筒抜けなことも多い。今回もそのパターンだ。

 俺は務めて普通の表情を作りながら答える。

「まぁ、大学さぼりすぎかなとは思ってる」

「そんな気にするならくればいいのに」

「いや、まぁやむにやまれぬ事情がな……」

「はぁ、まあいいけどさ。明日とかは来れるの?」

「えー、努力はします」

 何があるかわからない以上、あいまいに返すと露骨に呆れた顔をされる。

「ほんとうにさぁ……。まぁ、明日はちゃんと来てよ?」

「あぁ……、そのつもりだよ。今日は友達とか?」

「そうそう、渋谷だよ!」

「渋谷、何があるかあんましらないんだよなぁ、行かないし」

「まさくん中央線以外はあまり行かないもんね~」

「乗り換えめんどいんでな……」

 ちらりと隣を見る。おそらく美鈴は準備できてるが、ここで鉢合わせするのを避けようとしているのだろう。いったん中に戻るか……。

 そう考え口を開こうとすると、逢桜が先に

「もう先行くね!ばいばい」

 と言っていってしまった。彼女の性格なら駅まで一緒に行こうとしそうだが……。

「なんかあったのかな?」

 そんなことを考えていると、ドアの開く音。

 横を見れば美鈴が出てくるところだった。

「逢桜、もう行った?」

「あぁ、今行った」

「じゃあ行こう」

「……そうだな」

 逢桜に追いつかないために、少しゆっくりと遠回りをして歩きはじめる。

 オロスにフクロウが拠点を作成してることを知ってからまだ1週間。長い年月が過ぎたようにすら感じるほど、濃い日々を過ごしている。

 この毎日、新しい情報が常時入り上書きされ、悪い方向に進み続けていた。

 フクロウの動きがあまりにも早すぎて対応が全て後手に回っているのは、ただただ屈辱としかいうことができない。

 ……特に、美鈴は前回の明確な被害者で、フクロウに対し恨みつらみがある。

 だから、歩きながらもなんとなく美鈴にしゃべりかけることができなかった。

 追加して、前にかっこつけたことを言っておいて、何もできなかった自分に嫌気がさしているのもある。やはり最近のあれこれは、多少なりとも精神にくるものがあったらしい。

「今日、何か見つかると思う……?」

 そんないやな思考に陥っていると、先に美鈴が話しかけてくれた。

 その瞳は、何を抱えているのか。微表情すら操作することのできる美玲を俺が観察しようと、読み取ることはできない。

 なので、俺も務めて普通の声色で返す。

「まぁ、何かしら見つかる可能性は高いだろ。なんせ全部のにやってるんだから……というか、見つからなきゃ困る」

「見つからなかったら、どうなる……?」

「……さぁな、オロス政府とも協議してるみたいだしそっちから仕掛けることになるんじゃないか?」

「……オロス、料理も美味しいし行ってみたいね」

「お、おう……旅行じゃないぞ?」

 むしろ血みどろで旅行とは程遠いと思うんだが……。

 そんなふうに突っ込みながら、少し安堵する。とりあえず、今は感情を美玲の中で処理できているようだ。

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