第5話(逢桜の心境)
後ろをチラリと見ると、彼はまだにこやかにこちらを見ていた。それだけでどきどきしてしまう自分を抑えながら、歩を進める。
神木政成。私の大切な幼馴染である彼とは、小学生の頃に出会った。確か、両親の仲が良くて、それで一緒に遊び始めたんだったと思う。でも彼は、その頃から少し変わっていた。なんというか人生を達観してるというか、なんというか......。そんなんだから、一緒に遊んでいるはずなのにまさくんが私の面倒を見るということも多かったし、実際私は彼を年長者のように見ていた。
そんな彼に恋に落ちた――馬鹿正直にいうと恥ずかしいが――に落ちたのは、小学五年生の頃だ。
当時から容姿が良かった私は、男子にモテモテだった。それで当時そのクラスのリーダー格の女の子とちょっとしたトラブルになってしまい、私はクラスから孤立してしまったのだ。別に、よくある話だと思う。そのせいで、何週間かクラスは冷戦状態になった。
ただ、そこで彼が現れた。彼は……今でもどうやったのかよくわからないが、話し合いでクラスをまとめてしまったのだ。
そこからだ、私が彼を異性として見始めたのは。小学五年生から大学二年まで、実に九年。拗らせすぎだと自分でも思う。
「あーもう、なんとかならないかなぁ」
彼を諦める、なんて絶対にできない。だからこそ彼に、私を異性として意識してほしい。……現状では、彼は私を異性として意識してない節がある。皆にもてはやされるこの顔も、意中の相手に効果がないのでは意味がない。
「もっと頑張らないと……」
でも、その上で気になるのが彼の
そう思う根拠は、いくつかあった。
・まず、彼が趣味でやっていたwebを中学二年のある時を境にやらなくなったこと。当時の私は疑問に思わなかったが、今思えば少し変だ。当時の私はまだ彼が何を調べていたか知らなかったけど、それだけ彼は熱中していた。
・そしてその内容。兵器や軍事に関連することを資料をもとに調べていた。だが、その情報量というものがすごいのだ。とても私には覚えられないような量の資料を見て、それをたしあわせ、検証し、客観的に正しいと判断した部分を書き連ねていく……そんな芸当、私にはできない。
そして次に......
・美玲ちゃん、という存在。
まず前提として、美玲ちゃんと私は友達だし、私は親友だとすら思っている。でもその馴れ初めは、ちょっと変だ。いきなり一緒のアパートに越してきたと思ったら、親しげな様子で彼に紹介された。その後も、美玲ちゃんはまさくんと常に行動を共にすることが多いし、2人でこそこそ何かをしている節がある。十中八九、美玲ちゃんはまさくんの
ここまでくると、おそらく国関係のどこかの機関でスカウトされ働いているのではないか?と思う。一応政治学科の端くれである私には、思い当たる期間もいくつかあった。
……でも、それだけわかっていても、まさくんには聞けない。なぜなら、まさくんたちが言わないから。異性として意識されてはいなくとも、私とまさくんは深い絆で結ばれていると私は思ってるし、まさくんもそうだろう。それだけ重要なことで、言えるならまさくんは言っているはずだ。美玲ちゃんもそう。ならば、聞かない。
「それがきっと......できた幼馴染、だよね」
私はそう得心して、帰路についた。
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