第18話 市原黄介。
新卒達の配属先が気になった市原黄汰は、トレーニング店舗からの帰り道、折角なので激戦区に寄ろうとしたところ、交差点で信号無視をしてきた宅配イーツの自転車と接触事故を起こしてしまった。
信号無視に歩道を爆走と宅配イーツ側が全面的に悪く、市原黄汰は病院に搬送されてレントゲン検査をしたりする事になる。
左側を強く打った事で、数日は歩行困難になってしまった市原黄汰。
本人は平気だと言っても病院は許してくれず、迎えを呼ぶように言ってくる。
だが、元妻は連絡先すら残さずに離婚。
息子の黄介は今は大学生で遠方で話にならない。
それでもさっさと帰りたい市原黄汰は、息子の元に電話をして事情を話したが、息子には息子の生活があるので、今すぐそっちに帰るのは難しいと言われてしまう。
警察の調書も澄んでいて、とりあえず病院から出られれば、後はどうにでもなる思いで、病院から一番近い激戦区に電話をして迎えを頼んだら、電話に出たのは店長だが、迎えにきたのは広島紫だった。
広島紫は真っ青な顔で病院に駆け込んでくると「市原さん!」と声を張ってしまう。
「あらら、広島さんだ。店長くんが出てくれたから、パートさんか店長くんかと思ったら、広島さんだったんだね。ごめんね」
「そんなのはいいんです!身体は平気ですか?」
「打ち身が酷くて2、3日は腫れるみたい。仕事休めって言われちゃったよ」
市原黄汰はテンション高く笑って、「警察の人も帰ったし、お迎え来たから帰ります」と看護師に伝えて帰ろうとする。
痛々しく歩く姿に思わず手を貸す広島紫に、「大丈夫。あ、でもできたら鞄持ってくれるかな?」と言って、鞄を預けた市原黄汰は、マイペースに駅まで歩き、電車に乗ると「本部に連絡したら、直帰していいって言われたから帰るんだ。広島さんは?」と聞く。
「今日はクローズです。市原さんを送ったら店に帰ります」
「あらら、悪い事しちゃったね」
「店は私達が指導してるから、社員0人も不可能ではありません」
「頼もしいねぇ」
市原黄汰自身は気づいていないが、痛々しい見た目、頬にも傷を負い、大きなガーゼをされていれば電車の中では席を譲られてしまう。
「立つの大変だから」と断る市原黄汰に、「手伝いますから、お礼を言って座ってください」と広島紫が注意をして座らせる。
町屋に着いたのはすぐで、「タクシー呼びますか?」と広島紫が聞いても、「広島さんが乗りたければ呼ぼうか?」しか言わない市原黄汰。
ここで鞄の中のスマートフォンを見ると着信がきていて、「しまった。なんか来てる。本部かな?」と言ってスマートフォンを見た市原黄汰は、「おお、黄介。バイトを休んできてくれたのか」と呟くと、「お店の人に送ってもらって町屋駅」と続けてスマートフォンを鞄に戻して歩き始める。
「市原さん?」
「息子の黄介に身元引受を頼んだら、急すぎて断られたんだ。でもバイトを休んで来てくれたみたい。そろそろ日暮里で、何処に行けばいいかって入ってたから、もう町屋駅って送っておいたんだ」
そんな会話をした訳だが、市原黄汰はひとつ勘違いをしていた。
今ちょうど着信があった訳ではなく、着信は10分以上前で、その時に「そろそろ日暮里駅」なので、市原黄汰が返した時には日暮里駅で返信を待っている。
そしてそれを見た市原黄介は家を目指す。
怪我人の市原黄汰と健康体の市原黄介。
移動速度も段違い。
よって家に着く少し前に、「父さん!」と背後から声がかかる。
「え?」と振り返る市原黄汰は、「おお、黄介。元気そうだねえ」と言ってニコニコとする。
広島紫は慌てて会釈をしながら市原黄介を見てみると、顔の作りは市原黄汰に似ているが、輪郭や細かな部分は似ていない。
多分、その辺りは元妻に似ているのだと思えた。
「元気そうだねえって…、父さんはボロボロだよ」
そう言って呆れた市原黄介は、横の広島紫にお辞儀をする。
市原黄汰の「もう家だから、行こう」と言った言葉に、市原黄介は「父さん?職場の人をこれ以上付き合わせたら良くないって。俺が荷物を持つよ」と注意をして、広島紫が持つ鞄を持とうとする。
「おお、黄介が大人になった」と喜ぶ市原黄汰は、広島紫を見て「広島さん、黄介がきた事は予定外です。予定通りならウチまで送って貰ってます。店長くんには私から言いますから、ウチに上がっていきますか?」と聞くと、広島紫は深く頷いて「はい」と返事をした。
パワハラにも見える、セクハラにも見える。
上司と部下、年上と年下とも違う空気感に、市原黄介は気持ちが悪かった。
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