3.花嫁の行方

俺達は、カロフと協力し、レパルドとメリーラを助けに行くことになった。




置き手紙を参考までに見せて貰ったが、本当に「娘は貰う。」としか、書いていなかった。字も子供の字のようで、このため、家人はいたずらと思い、放置した。その前の日から、メリーラは、妹のイマーラと共に、村からゴージュに住む姉のタマーラの家に行っていたからだ。


翌日の昼には戻る、と言っていたが、戻ってこなかった。夕方にはタマーラが、手伝いに実家に泊まるために戻ることになっていたので、一緒に帰る事にしたんだろう、と、これもあまり心配しなかった。だが、夕方、タマーラは一人で、角馬で戻ってきた。そして、「妹達は昼には出た。のんびり景色を見ながら歩いて帰る、と言ったから、誰かに送らせる、と言ったら、じゃ、途中、村に向かう知り合いがいたら、乗せてもらう、と言ってたわ。あの時間帯なら、それもありかな、と、強く止めなかった。」と言った。


彼等のアルク村は、村とはいえ、ゴージュに近い、開けた場所にある。街道も整備されていて、真っ暗になる前なら、女性だけても、歩いて帰ることも出来た。


探しに出た両親は、街道を少し林に入ったところで、窪みに落ちて、泥だらけになって、一人で泣いているイマーラを見つけた。足を挫いていた。


彼女は、「男の人が数人で、メリーラを担ぎ上げて拐っていった。止めようとしたら、突き飛ばされた。顔は見ていないが、メリーラが、『その声、ケイヴィンね!』と叫んでいたのが聞こえた。」と言った。


両親は、花婿の一家に連絡したが、二人が以前、交際があったため、「話し合い」は大揉めに揉めた。


タマーラは、妹を弁護した。


「ケイヴィンが街を出る、と決めた時、メリーラには何の相談も無かったらしいの。それで喧嘩になって、別れた、と聞いてる。


彼はメリーラには待っててくれるか、着いてきてくれるかを期待してたらしいんだけど、当時は、お父さんもお母さんも、交際に反対してたでしょ。『真面目に将来をを考えているならいいが。』と言ってた時に、それだから。


メリーラは花作りが天職、みたいな子だから、街を出る出ないは、別れるきっかけに過ぎなくて、もともて、合わなかったのよ。今さら、着いていくなんて、あり得ないわ。」


しかし、花婿のラルフは、


「自分との結婚を、『財産目当て』と噂する人がいて、それをすごく気にしていた。結婚したら、暫く、ゴージュかセインスに住まないか、と言った事がある。そんな事は気にするな、と言ったら、その話はそれきりだった。


でも、自由な暮らしがしたくなって、そう言ったのかもしれない。」


と、「弱気」だった。


さらにそこで揉めている時に、リロイが、レパルドを連れて戻ってきた。


二人とも、この騒動は知らなかった。リロイは、職場に来ていた、と、宛名だけの封筒を持っていたが、宛名がラルフになっていたので、街の誰かからのお祝いの手紙と思い、至急と但し書きがあったにも関わらず、封は切らずに持ってきた。


それには、ケイヴィンの署名と、金額、一人で村(レミ村といい、アルクとは街道を挟んだ反対側の、小山の向こうにあった)持ってこい、だけが書いてあった。字体は、下手ではないが、くにゃくにゃとした癖字で、先の手紙と同じだった。


ラルフは自分が行く、と言ったが、レパルドに止められた。


彼は、体は丈夫でも、剣や魔法の心得は無かった。レパルドが言うには、ケイヴィンはそれを見越していて、恐らく、一騎討ちで勝負して、メリーラの前でラルフに勝ちたいに違いない。たぶん、メリーラは、ケイヴィンの言うことを聞くのを拒否している。金額は、両家の経済状態と、こういう場合の相場としては低すぎる。だから、身代金はその口実だろう。


レパルドは、だから、自分が行く、と申し出た。「牧師さんに話して、教会で待っててくれ。メリーラの様子によっては、医者が先になるとは思うけど。」と言い残して。


そして、約束の時刻をかなり過ぎて、レパルドもメリーラも、戻ってこない。


カロフは、道すがら語った。


「金額は、あいつなら、クエスト二回分で、余裕で稼げる程度だ。そんな程度で、こういうことをやらかすとは思えない。財産の件で引っ掛かっていたなら、正面から申し入れれば、もっと多額の金が手に入る。それに、レパルド自身、それに拘っている様子は、今まで見せた事がない。


メリーラは、綺麗な子だが、レパルドの好みじゃない。年が近かったから、子供の頃は仲が良かったが、年頃になると、ダイウスさんが厳しい人で、男子はすべて遠ざける勢いだったから、接点がほぼ無かった。」


俺達は途中で二つに分かれ、俺とグラナド、カロフは正面から、残りはリロイの案内で、裏から攻めるべく、山がちの道を上っていた。


「レパルドは、軽そうに見えて、そういうところは真面目だったからな。で、ケイヴィンっ て奴はどんなだ?仲は良かったのか?」


とグラナドが尋ねた。


「俺が知るぎりは、良くも悪くもない。民間聖職者の息子、なんて、ここらじゃ、『お坊っちゃま』扱いだし、それでなくても、街と村じゃ、年が近くても、遊び友達にはならない。レパルドからケイヴィンの話は、ほとんど聞いたことはない。


ただ、彼等が七つ八つの時かな、ゴージュには、古式剣術の有名な師範が隠居していて、子供限定で、あれこれ武術の基礎を教えていた。猫も杓子もそこに通っていた。ケイヴィンは、確か、一年ほどで辞めてる。


ご両親は、彼を聖職者にしたかったようで、武術より勉強させたかった。それで成績が下がったから辞めさせたんだが、その時に、レパルドが、『強いのに、もったいないね』と噂はしていた。」


「で、結局は古式剣術だけか?魔法は?」


「魔法は使えたと思うが、属性までは解らん。父親の牧師さんは、水魔法だった。奥さんが風魔法で、二人とも、教師もしていた。俺は奥さんに教わってた。レパルドは、牧師さんに教わった。ケイヴィンが水か風なら、親に習うだろうが、教室で彼を見た覚えがない。火と土は、セインスにいい先生がいたから、そっちに通ってたかもな。なら、火か土だ。


武術は、確か、コーデラ剣術も少しやってたはずだが。俺が街を出る少し前に、確か道場に、体験で来てた。そうだ、リロイが、格闘技を習いに行ってて、そこにも体験で来てたとか。タマーラが、『どうせ根性ないのに。』と言ってた。今、思い出した。」


「根性はともかく、聖職者志望にしては、妙な選択だな。騎士でも目指してたのか?」


「成りたがってはいたらしいが…確か、牧師さんか、そういう話を。しかし、騎士は、基本、子供の頃に、スカウトだろ。」


「そうとも限らん。」


「それにしてもだ、17、8位で、まだ『成りたい』だけじゃ、無理だろ。」


二人は、よくしゃべる。俺は、黙って、聞いていた。思いがけず親しげな二人に割り込みにくかったのもあるが、話を聞きながら、ケイヴィンの性格を推理していた。


悪く解釈して、根気のない、行き当たりばったり、努力の嫌いな人物に思えた。その癖、親の言いなりで、主体性がない。それが楽だからだろう。常に「広門」を模索して生きるタイプだ。メリーラの件でも、それは見てとれる。


たが、反面、そういうタイプは、犯罪による苦労も避けたがる。クーデター帰りと言うのは怪しい、と、俺は考えていた。


やがて山道が終わり、問題の村の入り口が見えた。




火柱と共に。






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