9.爆裂の戦闘
シェードとラール、ハバンロ、ケロルは、数名の魔法官、騎士と共に突入し、ミルファ達を救出する予定だった。これに直前でソーガスが加わった。
この突入前に、一度、ヘレイスから連絡があった。彼は魔力が回復したら、優先して盗聴器に使用しているようだった。途切れ途切れだが、ミルファとフィールは、ケースから出られないが、無傷である、パルドとオーリは不明、逃げたかもしれない、と言うことだ。
救出部隊が行くから、無理はするな、とクロイテスは伝えた。
それを聞いたソーガスが、まだ回復しきっていない中、無理に同行を申し出た。
「ケースの使用目的は、エレメントの加工らしいですが、その機能は、今は破損していて、檻代わりにしか使えなくなった、と言っているのを聞きました。
鍵は、別の部屋に機械があり、それで開閉します。鍵、というより、魔法力をガラスの表面に微量に流して、硬化や軟化を調整する仕組みらしいです。その機械を壊せば、開く筈です。
私は、ピウファウム達と知り合いと言うこともあり、最初は仲間誘われました。その時に中を一通り見て、軽く説明も聞いたので、案内もできます。」
田舎の廃墟の見かけからしたら、内部は案内を要するほどのスペースはない。だか、ミザリウスの話からも、見かけのわりに、妙に奥行きがあるようで、気にはなっていた。また、聞いた檻の仕様が、複合体の時に、実験場で人質を閉じ込めていた、ガラスケースに似ているのも、懸念事項だ。
ソーガスの申し出は受け入れられた。オネストスは、自分が付き添うと言ったが、これは却下された。
部隊の構成は少し変え、最初に、ラールとソーガス、魔法官二名が入った。通信が一度、鮮明になり、ヘレイスが、鍵はクリアし、ミルファ達は解放したが、鍵を解除した魔法官と、ソーガスが奥から出てこれなくなった、と言った。引き換えに、「扉」が閉まってしまった、そうだ。
第二段、シェード、ハバンロ、ケロル、攻撃力のある騎士二名が突入しようとした時だ。
通信の向こう側で、叫び声がし、激しい音が聞こえた。後は雑音。通信は切れた。
その途端に、土のうねりは復活し、煙の中、ハバンロとケロルが吹き飛ばされてきた。シェード達を入れるために盾になったようだ。
グラナド側から、女性魔法官の、甲高い叫び声がした。グラナドが、うねりの中心に魔法を放っていた。ユリアヌスは倒れていて、ミザリウスは、何とか立っていたが、狩人族の男性に支えられていた。叫びを上げたらしい女性は、傍らで、膝から崩れている。
囮部隊は、カッシー、オネストス、コロルが含まれるはずだが、煙で霞んで、見えない。
うねりは、グラナドの魔法で勢いを削がれたが、建物を半壊させ、地面に太い引っ掻き傷を、幾つもつけていた。火ではなく、土と水のため、爆発には至らなかったようだが、おおよその者は初めて見るだろう、エレメントの「暴走」だ。
突入した建物は、地上に出ている部分が吹き飛んでいたが、その下に、広い入り口を開けている。地下に何か作ったらしい。近づいて見ないとはっきりしないが、昨日今日の間に合わせにしては、出来すぎた隠蔽だ。
グラナドが、魔法で、土の大きな盾を作り始めた。俺達の側では、リスリーヌ達が、聖魔法で防御している。このためか、全体のダメージは、状況から判断されるより、少なく済んでいるようだ。
クロイテスの部下の、探知魔法担当の騎士が、エレメントは土と水で、両者の量が微細に入れ替わり、うねりを形成している、それは変わらないが、どうもさっきまでとは、様子が違う、と言った。
しかし、土と水であれば、次の突入も、転送の使える風魔法中心にする、という方針は変わらない。
だが、それを試みた次の部隊が、慌てて転送魔法で取って返した。転送を使った騎士は、消耗し、倒れんばかりだ。運ばれたのは回復の得意な水の魔法官と、狩人族の風魔法使い二名だったが、魔法官はややぐったりしていたが、騎士よりはダメージは少ない。狩人族二人は、気絶していた。
リスリーヌが、ガスのようだ、神官に任せて、と引き取り、直ぐに浄化を指示した。
魔法官は、薄い霧が入り口から出て、三人とも吸い込んだ、と言った。
クロイテスが、
「状態異常のガスか。鍵の防犯装置かもしれないが。」
と言った。
「殿下の側は、土のエレメントみたいですが。」
アードが言った。父のジーリの率いる主力はグラナド側にいて、俺達の側には、彼が、若手(ほぼ少年)を率いていた。率いる、とは言っても、彼もまだ少年の身、実際は付き添いの大男ゾーイが指導していた。彼は、狩人族の少年少女を伝令にして、各方面と連絡を取っていた。グラナド側から、その伝令が戻り、
「最初と異なり、今度は、風を取り込もうとしている。」
と伝えた。
属性の強弱関係からすると、今までの指向は、より弱いものを取り込む方向だった。だが、今は、より強いものへと、矛先を切り替えている。
「土に対向するなら風ですが、状態異常があるなら、水でないといけませんね。
火を取り込む前に、なんとかしませんと。」
リスリーヌが、クロイテスにそう言った。
背後で、小声の会話が聞こえる。
「もとはと言えば、トーロとかいう奴の…」
「今、言っても、しかたないだろ。元騎士も関わってるんだ。」
トーロは、対した役目は果たしていないはずだが、街の噂を思い出した。ゲイターに到着した騎士たちの耳に、半端に入ったようだ。
「飛び込もう。俺とファイスなら、影響も少ない。」
俺は言った。もともと最終手段として想定されていた手だ。今は、それが最適だ。転送、もとい風が活かして使えない上、ガスがあるなら、水魔法の俺と、暗魔法のファイスが適当だ。
(地下室(おそらく)を作った者が誰だが解らないが、「このワールドにいてはならない者」がいた場合も想定すれば。)
ファイスは、無言で呼応する。その時、
「私も行こう。」
と、クロイテスが、静かに言った。ライオノスは、
「団長、貴方が、自ら。」
と言いかけた。俺も、
「指揮をする者に、何かあったら。」
と言った。だが、クロイテスは、ライオノスに、後の事を指示し、俺に向かって言った。
「ガスが、麻痺か混乱か、あるいは睡眠かは解らないが、毒ではないようだ。
私も水だ。いずれも耐性がある。君や殿下ほどではないが。
今、あれに負けないと、確実にわかっている者は、いない。だが、私なら、可能性はある。」
実際、若手中心の騎士団の部隊は、ここまでで予想外に疲弊していた。高いレベルで耐えられるのは、クロイテス以外にいないだろう。救出を第一に考えるなら、彼に同行して貰うのは心強いことは確かだ。
「それじゃ、行こう。」
俺は、ファイスとクロイテスを、交互に見て、剣を構え直した。
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