8.連携戦線

交渉は、爆煙に呑まれた。




   ※ ※ ※ ※ ※




取り囲むだけで、恐れ入って出てきてくれるのを期待した。




こちらで把握している人質は、ミルファ、ソーガス、トーロ(厳密には人質とは違うが)だけだったが、逃げてきた連中の話からすると、人質を含めて、残りは十人もいないらしかった。


リーダーのオーリの他、白マントが三人。パーロとソロスは、うち二人は元騎士と言っていた、と語った。「最近来た癖に、大きな顔をしている。」と話していた。これは、恐らく、ナウウェルとピウファウムだろう。


もう一人、三人目のマントは、正体がわからないが、オーリは、「ノーン」と呼んでいた。「名無し」程度の意味らしい。オーリは以前からの知り合いらしいが、ほとんど話さないため、詳しい事は解らない。


白マント以外には、もう一人、ラッシル人の「パルド」(これも『連れ』程度の意味)という、年配の男性がいて、彼が資金を提供していたようだ、と話した。ミルファと言い争った相手のようだ。


トーロは、「客人」扱いされているようだが、ソーガスとミルファは、監禁されているらしい。ミルファは、パーロもソロスも、連れてこられた時に会っている。しかし、ソーガスは、誰も姿を見ていない。ノーンがソーガスということも有りうるが、三人目は水魔法らしく(擦り傷を回復している所を見たらしい)、ソーガスは風魔法だった。


風、と聞いて、別の不安もあっが、彼は魔法は不得意で、転送は使えないらしい。


転送魔法は癖があるので、風魔法使いでも、使えない、不得意だ、という者もいる。騎士は回復と攻撃は必須だが、転送魔法は必須ではないので、それ自体は珍しくはない。


オネストスは、ソーガスは死んだと思っていたらしく、生きて監禁されているかもしれないと聴いて、ほっとしていた。ミルファをさらったのが仮にピウファウムとすると、偶然顔見知りだったから、ついでにさらったとして、わざわざ連れて帰ってから殺したりはしない筈だ。


「ピウファウム達は、そこまでしないと思いますが、ソーガス隊長は、故郷の戦いの件で、カオスト公に拘りがあります。もし裏にカオスト公がいるなら、ピウファウムが頼んでも、協力はしないでしょう。それでリーダーと争いになれば、協力するぐらいなら殺せ、と言うのでは…と思いました。」


とオネストスは説明した。騎士らしいと見るべきか、しかし、カオストは一応は、王家から見れば、有力な身内には違いない。そこまで苛烈な物を抱えて、神聖騎士として、問題はないのだろうか。


「しかし、厄介ですね。カオスト公が絡んでいたとしても、今の所は、口実はエクストロス様でもイスタサラビナ姫でもなく、クラリサッシャ女王陛下の正式即位、でしょう。彼等が怪しい古代魔法を掲げているうちが捕まえ時ですね。」


ミザリウスは、珍しく政治的な意見を言った。グラナドは、


「まあな。だが、カオスト公が自分の名前を、廃墟の奴等に出してるとは思えない。シィスンにミルファを向かわせたのは彼の希望だから、無関係じゃなかろうが。


ただ、連中が、公爵の希望通り動いているようには、見えないな。


資金係を捕まえて、上手く吐くかせたい所だ。」


と返事をして、ミザリウスを送り出した。


約束した時間より、数時間早く行ったが、味方が大層に取り囲んでいたせいか、儀式の邪魔をするな、などとは言われず、ミザリウスは中に入る事が出来た。村の回りは畑にしていた名残で、意外に広々としていた。たが、本来の村の敷地は狭く、部隊は入れなかった。


ミザリウスには、フィールの他、護衛に土魔法の騎士を一人付け、小型の盗聴装置を持たせていた。エスカーか、昔、暗魔法を利用して作った物を見たことがある。これは探知魔法、つまり土魔法を利用して作った物で、昔の物より性能はいいようだが、使用者が土魔法を使えないと、精度が落ちるそうだ。(特にこっそり持ち込む程度の大きさの場合は。)


ミザリウスがリーダーに会うあたりまでは、何とか音が拾えていたが、急に雑音が勝ち、聞こえなくなった。


そして、一際高い雑音がした後、いきなり煙が吹き出した。


ミザリウスは、空中を舞って飛ばされてきた。正確には、爆発から身を守りながら、転送魔法を調整して自ら飛んできたのだ。勢いが付きすぎ、激突が危ぶまれたが、魔法官達が補助して、上手く着地させた。


彼はトーロとソーガス、後は小さな女の子を魔法で抱えてこんでいた。遅れて、白マントが二人、同様に飛んできた。


少女は、無傷だが意識は無く、痩せこけていた。狩人族でもコーデラ人でもなく、チューヤ人の容姿をしていた。この子の事は、聞いていなかったので、驚いたが、ミザリウスは、


「とにかく、衰弱しています。直ぐに手当てを。」


とだけ言った。彼女は直ぐに前線から下げた。


トーロは、右腕を怪我していた。浅いが、剣の傷のようだ。


「まだエムールが!」


と喚くだけなので、これも下げた。


ソーガスは、意識はしっかりしていたが、激しく咳き込んでい

た。彼も治療のため、下げた。


白マントは、ピウファウムだった。ナウウェルを抱えていた。ナウウェルは、気絶していた。ピウファウムも、怪我をしていて、ほどなく気絶した。騎士に渡して、拘束はせずに、下げた。


ミザリウスは、手短に説明した。


交渉の席には、オーリの他、マント二人とパルドがいた。ミザリウスが要求すると、オーリは、パルドに言い付けて、ミザリウス達を奥に通した。見せたら、直ぐに戻れ、と言っていた。「奥」(小屋のはずだが、妙に奥行きを感じさせた)には、妙に広い部屋があり、ミルファが「ケース」のような物に入られていた。こちらを見て、内側から壁を叩いた。トーロは、ケースの外にいた。拘束はされていなかった。


フィールが、ケースに駆け寄り、叩いた。すると、ガラスのような表面が、いきなり歪み(回転し?)、何時の間にかフィールが中に入ってしまった。入れ替わりに、中にいた(らしい)、痩せこけた子供が出てきた。護衛の騎士ヘレイスは、トーロに、どういう事だ、と言ったが、彼が答える前に、急に、さらに奥から、土のエレメントが、煙と共に溢れだした。


ソーガスが奥から転げて来た。彼は奥が手薄になったから、隙を見て、ミルファの入っているケースの「鍵」を「壊しに」行ったが、「煙」が上がったので、慌てて戻った、と言った。


言う端から、煙が増えたので、ミザリウスは脱出を図り、まずミルファとフィールを、と考えたが、たが、パルドとソーガスが異口同音に、


「暫くなら、中にいる方が安全だ。」


と言い、ミルファも頷いたので、まず、自分はトーロとパルド、少女を魔法で、ヘレイスはソーガスを土の盾で守りながら、出ようとした。だが、パルドは直前でミザリウスから離れ、逃げようとした。ソーガスは彼を捕まえようとしたが、ミザリウスにぶつかり、ちょうど転送魔法の効くタイミングだったので、出てしまった。


中にはミルファ、フィール、パルド、オーリが残っている事になる。ノーンもいたら残っているだろうが、交渉の場にも、ミルファのいた部屋にもいなかった。ソーガスが「鍵のある部屋」の話をしたから、別の部屋にいる可能性はある。パルドが逃げた方向からすると、奥に脱出経路があり、ノーンも共に逃げ出しているかもしれない。


黒幕に縁がありそうな二人がいなくなっていたら損失だが、それよりもミルファとフィールだ。


土のエレメントは、依然、水のようにうねりを挙げている。強弱関係のある二種類が、両立しているのは珍しいが、土と水、風で、氷壁を作る応用魔法はある。セレナイトの所で、暗魔法(あちらの幻惑術)による仲介をさんざん見た。エレメントを取っ払えば、攻略は易くなるはずだ。


ミザリウスは、まず、風で土を押さえるように提案したが、


「待って下さい。」


と、ソーガスの声に止められた。


「方法はわかりませんが、連中の使うエレメントは、『指向性』が強く、自分より弱い属性を取り込んで、自分を強化する、と言ってました。俺が何も解らんと思って、パルドがペラペラ喋ってました。


手違いがあって、実験用に溜め込んでいた、風と火が無くなってしまい、水と土だけ残った、『加減が効かない』から、方針を変える、とも。変えた方針についてはわかりませんが、土を先に押さえても、水を断たないと、勢いが収まらないとおもいます。



ソーガスは、オネストスに支えられ、まだ咳き込みながらやって来て、言った。


そこに、盗聴装置が唸った。ノイズは多いが、男性の声が聞こえる。


「ヘレイス!」


クロイテスが叫んだ。消え入りそうな声が、


《ミルファさん達は…無事です…中は…魔法力が…を分けて…》


と言った。音は小さく、ノイズが混ざるが、言葉つきはしっかりしていた。


ソーガスが、ヘイレスの名を叫び、クロイテスから装置を奪うように飛び付いた。だが、ちょうど魔力切れなのか、ノイズしか出なくなった。


ソーガスは、謝りながら咳き込んだ。魔法官が慌ててやってきて、オネストスに、


「休ませないと。」


と言い、ソーガスを取り上げて連れて行った。彼が去ると、グラナドは、少し考えてから


「やはり分散させよう。」


と言った。


「ソーガスの言うように、指向性があるなら、火を囮にして、残り少ない水を誘い出す。きれいに全部別れるかどうかだが、量の多い土は、こちらでより強い水を餌に、反対に引き付ける。そして、土の盾と、風の攻撃魔法で対決だ。


弱まった所に、転送魔法と物理攻撃の救出部隊を出す。ミザリウスが飛んできた時の様子から、火が無くなっているため、風は影響は受けない、と見た。ケースを破壊して二人を救出させる。オーリやパルドが歯向かってくるかもしれないが、この分なら、助けを求めてくる確率のほうが高い。


そして救出したら、様子を見て、一斉攻撃…と、一気に行きたいが、さっきの女の子の例もある。救出部隊の次は、慎重に行こう。」


最初の予定とは、多少変わったが、次点プランの一つだ。クロイテスは、直ぐに命令を伝達した。


グラナドはミザリウス達と共に、土対策に回る。俺とファイスも従おうとしたが、


「二人とも、クロイテスと一緒に、最終攻撃に回ってくれ。」


と言われた。


「最後は遠距離攻撃と行きたいが、救出部隊が遅れたら、突入になるだろう。遅れないようなら問題ないが、遅れたら時が問題だから。


エレメントが飛んだら、魔法耐性の高い者で決めたい。」


カッシーは、オネストスと共に囮部隊だ。狩人族は、グラナド達と、俺たちの背後についた。ハバンロとシェード、ラールは救出部隊に合流、レイーラは俺たちに付いた。




中の様子に不安はあるが、作戦は概ね上手くいった。水は全部ではないが分離し、火を追いかける。土のうねりは勢いを弱めた。


タイミングを見て、シェード達が突入しようとする、その直前までは。






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