番外編 おっぱい・オア・トリート

 ハロウィンの季節がやってきた。


 もはやどんな意味をもった行事かなど気にする人間はおらず、仮装して街中を遊び歩くイベントとして定着してしまったこのイベント。

 今までの俺にとっては全くの無縁だったのだが、今年は優歌と一緒に出かけることに。


 目的地は隣の隣にある街。

 魔法少女エメラルドが担当している地域である。

 ここは周辺地域の中心的な役割をもっており、首都圏ほどのものではないにしろそれなりの人間が集まっている。


「うげえ、人多いな……」

「は、はぐれないように気をつけましょう!」


 駅前の広場は多くの人でごった返しており、ハロウィンの仮装をしている人も少なくない。


 優歌はその様子を見るなり俺の腕に抱きついた。

 なるほど、人が多いとそれを理由におっぱいを堪能できるわけか……素晴らしいな。


「志抱さんはこういうの初めてですか?」

「あぁうん、別に人混みが無理って訳じゃないんだけど……特に行きたいとも思ってなかったからな」


 そもそも一緒に行くような相手もいなかったし、怪人になってからはおっぱいが気になりすぎて人混みを避けてたし。


 まあ、優歌のおっぱいに触れることで俗世より解脱せし今の俺ならばそんなものは全く問題ない。

 おっぱいの境地に辿り着いた俺は無敵だ。

 今はただ、腕に触れるおっぱいの感触を嗜むだけでいい。


「優歌はこういうの行くタイプだったんだな」

「あー、それは……実のところ、こういうイベントには怪人がつきものなので……」


 少し言い淀んだ優歌は、俺の耳に口を近づけて囁く。

 なるほど、つまりこのお出かけは魔法少女としての活動を兼ねているというわけだ。

 怪人が出てもなおこうしてイベントが開催されているのは、ひとえに魔法少女たちの頑張りがあってこそということなのだろう。


「……もしかしてその手伝いのために誘った?」

「えっ、あっ、いえ! 別にそういう意図があったわけじゃないですよ!? こ、これはあくまでデートです!」


 俺の問いに、慌てたように手をブンブンと振りながら否定する優歌。

 こういうちょっとした反応ひとつとっても可愛いやつだなぁ。


「冗談は置いといて、そろそろ適当にぶらつくかね」

「むぅ、からかうなんて酷いですよぉ……」


 優歌は不満げにしながらも俺の腕に再び抱きつき、そのまま二人で喧騒の中へと歩みいった。






 しばらく歩いていると、突如人の流れが激しくなってきた。

 まるで何かから逃げるかのように、一方向へ大勢が移動している。


「……こりゃ怪人が出たか?」

「かもしれませんね」


 しばらく人の流れに逆らうように進むと、やはり怪人が出現していた。

 カボチャ頭に黒タイツのマッチョ……なんだあの変態は。


 怪人のキモさに驚きつつもさらに接近すると、二人の魔法少女が対峙しているのが見えた。

 緑のローブを身につけている方は会ったことがある。あれは魔法少女エメラルドだ。

 となるともう一人は魔法少女アメジストということか。

 紫のライン入りレオタードの上から、セーラー服の露出を大きくしたようなコスチュームを身にまとっている。おっぱいは普通サイズ。


 見たところ戦況は互角といったところ。

 わざわざ俺が出なくとも大丈夫そうではあるが、どうしたもんかね。


「どうする? 加勢した方がいいか?」

「私は行きますけど……志抱さんは様子見でお願いします」

「了解、無理はすんなよ」


 俺が訊くと、優歌は少しだけ考える素振りを見せてから答えた。

 多分エメラルドは俺と会うの気まずいだろうし、俺としてもその方がいいと思う。

 それに俺はあくまでも怪人だしな。


 変身して怪人の方へ向かう優歌を見送りつつ、地面を蹴って近くのビルに登った。


「エメラルドさん、アメジストさん! お手伝いしますよ!」

「ルビーちゃん! ありがとう、助かる!」

「こいつ超硬くってさ、ウチらじゃ攻撃力不足って感じだったんだよねぇ」

「ああん、また魔法少女かよ! お前も菓子をよこさねえとぶっ殺しちまうぞ!!」


 え、あいつ暴れてる理由菓子なの?

 ……ああ、ハロウィンだからってハメ外しすぎてハロウィン過激派怪人になってしまったってことか。

 しかも菓子との交換条件が殺すって…………ん?


「おい、とんでもねえことに気づいちまったぞ……!」


 お菓子をくれないと殺してくる怪人がいるなら、お菓子をくれないとおっぱいを揉んでくる怪人がいてもいいのではないか?

 なんならおっぱいの方が優しいだろ普通に。

 今日はハロウィンなんだから、今夜限りのおっぱい・オア・トリート怪人になってもいいんじゃねえか?

 しかもちょうど三人も魔法少女がいる……素晴らしき魔法少女おっぱいがあんなにも。


 いや、しかし俺は優歌一筋と決めたのだからそんなことをしていてはいけない……!

 ……でもハロウィンだし? そういうイベント故に致し方ないっていうか?

 いやでもやっぱりそういうのは……うーん、でもなぁ……。


 結論。俺は欲に負けた。

 ハロウィンおっぱい怪人作戦、決行である。


「よし、そうと決めたら即行動! カボチャ野郎は瞬殺じゃい!」


 俺のおっぱいへの探究心は止まらない。

 全力で壁を蹴った俺はそのまま空中で回転しつつ、戦闘中のカボチャ頭の脳天にかかと落としをお見舞いした。


「お、おっぱい仮面さん!?」

「え、この人がエメちの気になっ……むぐぅっ!」


 突然現れた俺に驚いた様子のエメラルドとアメジスト。

 アメジストが何か言おうとしたが、慌てた様子のエメラルドが口を押さえてしまった。

 俺がどうしたのかは知らないが、そんな事より今は重要なことがある。


「おっぱい・オア・トリート! お菓子をくれないとおっぱい揉んじゃうぞっ!!」


 決まった……!

 これでハロウィンおっぱい怪人と化した俺と魔法少女の戦いが始まり、そして俺が勝利してトリプル魔法少女おっぱいを……


「……志抱さん、浮気ですか?」


 恐ろしく冷たい声がした。

 声のした方へ恐る恐る振り返ると、にっこり笑顔のルビーが。しかし目は全く笑っていない。


 そして俺の思考が正常に戻っていく。

 やべえやべえ最悪だどうしよう、優歌に振られたら俺死んじまうよマジで。

 ……かくなる上は土下座を行うしかねえッ!


「本当に申し訳ありませんでしたッ!!」


 結局、優歌は非日常感に煽られて怪人の衝動が暴走してしまったという俺の弁明を受け入れてくれた。


 後日、おっぱいが足りてないのかなぁ? なんて言いながらいつもより長めに揉ませてくれたのでなんだか得した気分です。

 ……いや、マジで反省はしてるんだけどもね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法少女のおっぱいを揉みたすぎて怪人になってしまった あぽろ @Mak3804

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ