番外編 おっぱい仮面と呼ばれる者

 休日、家で一人でスマホを弄っていた時のこと。

 怪人が出現したという情報が目に入った。


固有種ユニークか……」


 どうやら通常怪人ではないらしい。

 最近は固有種ユニークの出現率もだいぶ落ちていたし、結構久しぶりに見た。


「ま、さっさと潰してやるかね」


 別に今のルビーなら大抵の怪人には負けないだろうが、どうせ俺の方が暇だ。

 移動も俺の方が速いし、適当に片付けるとしよう。


 窓を開けて跳び、着地する前に変身を済ませる。

 この方法、着替えの手間が省けるので家にいるときは便利である。






 現場に到着したが、ルビーが来ている様子はない。

 逃げ惑う人々や、物陰からスマホで撮影する人がいるのが目に入る。


「俺も人払いできりゃ楽なんだけどな……」


 人払いなどしたところでおっぱいを揉むのに何も関係ない。

 故に、俺は人払いの魔法を扱うことが出来ないのだ。


 仕方がないのでそのまま怪人のもとへ降下。

 そこにいたのは身体にぴったりとフィットするスーツを身に纏った金髪の女。

 体のラインが浮き出たそれは、胸にある大きな膨らみを強調しているように見える。


 女怪人が俺の方へ振り返った際に、その大きな胸が揺れた。

 紫色に光る目が、この女が怪人であることを示している。


「でけぇな……」

「あら? 貴方、もしかして私のおっぱいに興味あるのかしら?」


 もちろんある。なぜならおっぱいがものすごくすごい。

 見せつけるように胸を張る女怪人の胸に、視線が吸い寄せられていく。


 揉みてえな……いや、優歌が悲しむからダメだ。

 どうにか欲を振り払うも、その巨乳から視線が外れない。


「ふふ、素直ねえ?」


 女怪人が歩み寄ってくるが、俺の意識は歩くたびに揺れるおっぱいから離れない。

 間合いに入っても、俺は攻撃を仕掛けることができずにいた。


 そしてついに、その胸が俺の身体に当たるほどにまで接近した。


「ッ……お前の目的は、なんだ」


 全力でおっぱいから意識を逸らしつつ、質問を絞り出す。

 なお、それでも俺の意識はほとんどおっぱいに吸い込まれており、とてもではないが攻撃をできる状態にない。


 そんな様子に満足げに笑みを浮かべながら、女怪人は饒舌に喋り出した。


「私は怪人になってこの巨乳を手に入れた! このおっぱいで、巨乳こそが正義だと世に示す! そして巨乳だけの世界を作る! そのために、貧乳の女どもを皆殺しにするのよ!!」

「…………は?」


 一瞬にして、思考がクリアになる。

 何を言っているんだこのクソ女は。

 湧き上がる強烈な怒りが、俺の意識を塗り替える。


 俺は女怪人の顔面を掴んで投げ飛ばす。

 大して力を入れていなかったので首が取れたりすることもなく、数メートル飛んで転がった。


「お前、おっぱいのために怪人になった癖にそんな馬鹿みてなこと言いやがって」


 巨乳こそが正義? 貧乳は皆殺し?

 何も分かっていないド素人が……。


「いいか、ド素人。おっぱいってのはな、ひとりひとりが持つ個性だ……神が与えた宝なんだよ」


 上半身だけを起こした怪人へ、一歩ずつ歩み寄る。


「大きいとか小さいとか、そんな物差しで測れるモノじゃねえ……」


 拳を握り、ありったけの力を込める。


「小さいおっぱいも最高だろうがぁぁあああああああ!!!!」


 魔法など必要ない。

 おっぱいを愛するこの想いがあれば十分だ。


 俺の全力の拳が、女怪人を粉々に打ち砕いた。

 その体が、黒いモヤとなって消えていく。


「おっぱいの素晴らしさについて勉強してから出直しやがれ、クソが」


 吐き捨てて、その場を去る。

 ……その様を、物陰の人々が撮影していた。






 後日、俺はベッドの上で悶えていた。

 理由は明白。

 俺の魂の叫びが、一般人に聞かれていたからである。


「ああ、終わった……」


 粉砕仮面、おっぱい好きの変態。

 スマホを眺めていたら、そんな投稿がされているのを見つけてしまった。

 コメントでは『ただの変態で草』『魔法少女のおっぱいが目的で助けてたのかwwww』『これもうおっぱい仮面でいいだろw』などと言いたい放題。

 しかも事実なので反論の余地がない。


 結局、一般人の間でもおっぱい仮面と呼ばれることになってしまったのだった。

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