番外編 エメラルドはお礼がしたい

 私、風上かざかみみどりは魔法少女エメラルドとして活動している。

 もう高校二年だし、魔法少女はそろそろキツいんじゃないかって思ったりもするけど……トパーズさんはハタチで頑張ってるし、自分ももうちょっと続けるつもりだ。


 そんな私は今、とある悩みを抱えている。


「あの時助けてもらったお礼、したいけど……」


 少し前にあった怪人の大量出現。

 大量の通常怪人を倒すのに魔力を使いすぎた私は、残った固有種ユニークに敗北した。

 一緒にこの街を担当しているアメジストは旅行で不在だったので、私は隣街の担当で親交のあるトパーズさんに救援要請をしていた。


 その後、病院へお見舞いに来てくれた陽葵さんにお礼をしようとしたところ、怪人を倒したのは別の人だったと言われた。問題はその人だ。


 怪人を倒す怪人、通称おっぱい仮面。

 ルビーちゃんのところによく現れるという話は聞いていたが、まさかここにも現れるとは思わなかった。

 もちろん助けてもらったのは事実なのでお礼をしたいが、陽葵さんによると彼へのお礼はおっぱいで行わなければならないらしい。


 正直言って嫌だ。

 知らない人、しかも怪人におっぱいを揉まれるなんて、想像もしたくない。

 しかし、命を救ってもらっておきながらお礼のひとつもしないというのは人としてどうかと思うし、魔法少女である以上そういう部分は疎かにしたくない。


 そんなわけで、陽葵さんに頼んでその人に会えるようにセッティングをしてもらった。

 ……なんで怪人と知り合いなのかはわからなかったけど。






 そしてついにやって来た約束の日。

 覚悟を決めた私は、ルビーちゃんが通っているという高校の屋上にやってきた。

 変身は既に済ませてある。


 私の魔法少女コスチュームは、緑のラインが入ったレオタードの上から深緑のローブを羽織ったものである。今回武器の長杖は出していない。

 ローブで体を隠すように丸くなって待っていると、屋上の入口が開いた。


「待たせたみたいですみません、こんにちは」

「あっ、はい、こんにちは……」


 やって来たのは赤髪赤眼のイケメン。

 派手な見た目とは裏腹に、優しげなオーラが溢れ出している。

 待って、超タイプなんですけど……!


「えっと、俺に話があるって聞いたんですけど」

「あっはい! その、助けてもらったお礼がしたくて……」

「ああ……まあ、そうですよね」


 何やら気まずそうな雰囲気の彼。

 私、何か変なこと言ったかな……?


「あれは……俺が勝手にやったことなので、気にしなくて大丈夫ですよ」


 この人、本当に怪人?

 普通にいい人すぎて、見た目が普通だったら怪人だなんて微塵も思えない。

 イケメンで強くて性格もいい……うん、好きです!


「でも、何もしないのは私の気が済まないんです。えっと、わ、私のおっぱい、揉んでもらっていいですよ……!」


 ローブの前面を開き、レオタードに包まれたおっぱいを見せる。

 流石に陽葵さんには及ばないが、それなりに大きい自信はある。

 ちょっと手で寄せてみたりして、アピールする。


 おっぱいで虜にして、優しいイケメン彼氏をゲットしてやるのだ!!


「あの、えっと……」


 しかし、どうにも彼の反応が悪い。

 おっぱいを好む怪人だと聞いてたんだけど……私じゃダメってことかな?

 なんか自信無くなってきちゃった……。


 微妙に自信を失っている私に、衝撃の言葉がかけられる。


「俺、彼女いるので……」

「あっ、はいっ、失礼いたしました……」


 やらかした……!

 彼女いる人におっぱいを見せつける変態みたいになってしまった!

 私は羞恥に耐えられなくなり、蹲ってローブの中に縮こまる。


「き、気持ちは受け取りますんで……」

「はい……」


 結局、念の為用意しておいた菓子折りを渡した。


 後で陽葵さんにこの事を言ったら「ごめんねぇ、忘れてたわぁ」と言われた。

 陽葵さんが恋愛のことを忘れるわけないので、確実に私へのイタズラである。

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