番外編 漣蒼依の失恋
現実とは実に非情なものだ。
私は今、それをまざまざと見せつけられている。
私の初恋相手、おっぱい仮面。
その正体は後輩の籾杉志抱だった。
彼が変身を解いた時、消えゆく仮面と共に私の恋も散った。
ルビーが彼を先輩と呼んだ時に、嫌な予感はしていた。
彼女がそう呼び慕う人間は一人しかいないからだ。
目の前で抱き合う二人を、ただ呆然と眺めていることしかできなかった。
私は両親から大きな期待をかけられて生きてきた。
私も家族のことは好きだし、日頃お世話になっている分その期待に応えたかった。
幸い私は勉強と運動の両方に才能があったらしく、常に成績トップを維持し続けることができている。
別に現状が嫌というわけではない。
しかし、一人の少女として、まるで物語の世界のような恋への憧れも確かにあったのだ。
中学二年で魔法少女に目覚めてから約四年間、そんな夢を見ながら怪人と戦う日々を過ごしてきた。
私はモテないわけではなかったが、それでも劇的な恋を求め続けた。
そんなある日のことだった。
強敵に敗北した私の前に、颯爽と現れて敵を吹き飛ばすヒーローが現れたのだ。
しかし間の悪いことに私は気を失ってしまっており、その話を後から聞かされた。
必ず会って話をしたい、私はそう思った。
すると、それから少し経ったあとで私は彼に出会うのだ。
トパーズの不在でジリ貧に陥っていた私のもとにやって来た彼は、たったの一撃で敵怪人を倒してしまった。
まさに運命だと、そう思った。
彼はおっぱいを揉むことを目的とする怪人であると聞いていた。
ルビーやトパーズのような大きな胸を持たない私では彼を満足させられないのではないかと不安になっていたが、それは杞憂だった。
全てのおっぱいは等しく素晴らしいのだと、彼は言った。
それからというもの、私は彼に会うためにピンチに陥ってみたりしながら再会を待っていた。
しかし彼が現れるのは決まってルビーのところだった。
そこで私は、優歌とその恋人である籾杉の二人に相談をもちかけた。
二人は恋愛関係を否定していたが、あんなの誰がどう見たってカップルでしかない。
しかし、今思えばそれはあまりに滑稽な行為だった。
既にデキているカップルに、その片割れとの恋愛について相談しているのだ。
そんなもの、適当に流されるのがオチである。
だが、当時は彼の言う運命をもう一度信じようと思ったものだ。
そして、それから少しの時を経た今この瞬間、ピンチの場面で現れた彼への淡い期待が、塵となって崩れ去ったのである。
「最初から、負けると決まっていたんだな……」
私がスタートラインに立つ頃に、彼らは既にゴール前にいたのだ。
運命なんて存在しない。
そこにあるのは、残酷な現実だけだった。
驚きと悲しみで、思考がフリーズした。
抱き合う二人を後目に、屋上をあとにする。
「うっ、うぅっ……」
自然と、涙が溢れだしてきた。
恋した人を奪われた。
恋人でもなければ、先に好きだったわけでもない。
それなのに、私の心はこんなにも悲しみに満たされていた。
ただ一人、誰の掌の上でもない場所で踊っていただけの私。
あまりに滑稽で、どこまでも惨めな私。
そんな私が…………なんだか、悪くない。
今まで成功続きの人生だった。
大きな挫折など、味わったことがなかった。
そんな私が今、こんなにも惨めに泣いている。
「うぅ…………ふっ、ふへっ」
思わず気持ちの悪い笑みが零れる。
胸を刺すこの痛みが、とても気持ちのいいものであるように思えてきた。
もっと刺激が欲しい。もっと苦しみたい。
恋に敗れるこの感覚を、もっと味わいたいと思った。
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一瞬で失恋した蒼依さんが可哀想だったので、とりあえずちゃちゃっと書いてみました。
自分の座右の銘は「可哀想は可愛い」です。
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