第29話 怪人を生む怪人

 グラウンドには異様な光景が広がっていた。

 ルビー、サファイア、トパーズの三人に対し、怪人は数えるのも面倒なほどに出現。

 逃げ遅れた生徒に緑色の光が当たると、そいつも怪人になってしまった。


「何がどうなってんだ……」


 今まで見たこともないほどの怪人の数、それに人を怪人化させる謎の光。

 魔法少女の三人はどうにか捌いているが、怪人が増え続ければジリ貧になってしまう。

 そうなれば魔力切れを起こし、敗北してしまうことも考えられるだろう。


「怪しいのはあの光、か」


 屋上から戦いを眺めつつ、謎の光について考えを巡らせていると、その光が俺にも放たれたのに気づいた。

 変身せずとも人間離れした身体能力によって、ギリギリのところで躱す。


「あぶねぇな……俺に効果あるのかは知らねえけど」


 怪人になる光を怪人に当てても意味は無いんじゃないかとは思うが、わざわざ当たってやることもない。


 しかしまあ、わざわざ俺に向けて放ってくれるとはな。

 おかげで出処が特定できた。

 学校の敷地外にある建物の屋上だ。

 見れば、俺と同じく完全な人型の固有種ユニークがそこに立ち、怪人化の光を放っている。


「さっさとあのクソ野郎をぶっ潰して終わらせるか」


 屋上のフェンスに向けて跳躍、空中で変身を行う。

 飛び降りながら壁を蹴り、怪人状態の全力でもって敵のもとへ跳んだ。


 突如現れた俺に少し驚いた様子の敵怪人。

 中肉中背、ボサボサ頭に眼鏡、白衣を纏った野暮ったい男だ。

 一言で言うならマッドサイエンティストといった風貌。


 ほとんど人間の姿をしているが、放っているのと同じ緑に光る目がこの男が人間でないことを示している。


「まさか、あんな所にいたとはね……人に擬態する怪人、おっぱい仮面」

「……俺をその名前で呼ぶな」

「似合っていると思うよ? おっぱいを揉むことが目的の君には」


 そいつは気味の悪い笑みを浮かべながら、光を放ち続ける。

 そして、なぜか俺の事を知っている。


 まあ、いずれにせよ殺すだけだ。

 今も赤崎たちは戦っている。

 このクソ野郎を殺すべく、俺は歩みを進める。


「僕を殺すのはやめたほうがいいよ? 最近の怪人増加は僕が引き起こしているのだから」


 最近魔法少女たちを悩ませる怪人の大量発生。

 その黒幕は自分であると、そいつは言った。

 俺の事を知っているのは、生み出した怪人との戦いを見ていたからということだろう。


「……だったら尚のこと殺すべきだな」

「君は怪人増加の恩恵を受けているのに、かい?」


 その言葉に、思わず立ち止まった。

 怪人増加によって魔法少女を手伝う頻度も増し、そのお陰でおっぱいを揉めていたのは事実だ。

 日に日に強くなる欲望を、それで誤魔化してきた。


「僕が怪人を生み出すことで、君は魔法少女のおっぱいを揉める。利害が一致しているじゃないか。……ああ、今彼女たちを殺したら成立しないな」


 白衣の怪人は、光を放つ手を止める。


「仕方ないから僕は一旦退く。これで彼女たちが負けることはなくなったし、君は怪人増加の恩恵を受け続けられる。どうだい、win-winだろう?」


 白衣の怪人は両手を挙げ、やれやれといった様子で首を振る。

 確かにそれが、俺の欲を満たす上で最も効率のいい答えなのだろう。

 怪人としては、多分それが正解なのだろう。


 だが、俺はこいつを見逃してやるつもりなどない。

 再び歩みを進める。


「お前は何も分かってねえよ。【魔刃】」

「待て! そ、そんなことをッ……!」


 魔力の刃を見て、命乞いをする怪人。

 最後まで言う前に、その首を斬り落とした。


「ここに来たのは人間の俺の意思だよ、クソ野郎」


 赤崎を守りたい。

 その思いが、確かに俺の中にある。


 そりゃあおっぱいは揉みたいし、口実になるから怪人が出たらいいなんて思う時もあった。

 でもそんな理由で野放しにしたら、いつまでたっても赤崎が苦しむだけだ。


 体が怪人になっていくのはもう止められないかもしれない。

 それでも、心だけは人間でありたいと思う。


 ……そうじゃなきゃ、赤崎に合わせる顔がない。

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