第28話 体育祭
ついに、この日がやってきた。
二学期開始直後から準備が進められていた、体育祭である。
校長や真面目モードの漣先輩による挨拶を終え、競技が開始されていた。
「おいダッキー、そろそろ並びに行った方がいいんじゃね?」
「ん? あー、もう次か……」
俺の出場する二年の短距離走は、午前中の割と早い時間に行われる。
顔を伏せていたところ廉に声をかけられた俺は、小走りで入場門の方へ向かった。
「これ、流石に手を抜かないとヤバいな……」
向かいながら、身体の具合を確かめる。
最近の俺は、もはや一般男子高校生の域を軽く超える身体能力を得てしまっていた。
別にそれほど筋肉がついているわけでもないのに、ありえない程のパワーが出せてしまう。
朝鏡で顔を確認したが、瞳の赤が少し濃くなっているような気がした。
入場の際、赤崎が手を振っているのが見えた。
俺はバレないようにこっそりと手を振り返し、指示された場所に並ぶ。
流石に手は抜くが、下位に沈む気はさらさらない。
廉の言う通りになるのは癪だが、赤崎にいいところを見せたいという気持ちは確かにあった。
「練習で勝ったからって調子に乗るなよ」
「ん? あー、うん」
俺の相手の……やべ、名前が思い出せん。
彼は何部だったっけ……わからん。
鉢巻は青だからB組か。
何かしらの部活をしている、B組のなんとかかんとか君が絡んできた。
絡まれたこと自体はどうでも良かったが、同学年の名前すらわからない自分にちょっとショックを受けた。
結局、俺は一位でゴールした。
二位はさっき絡んできたなんちゃら君。
意外と頑張っていたので抜かれる直前に加速してやった。
今も恨めしげな視線を感じるが、別に不正した訳でもないのでお門違いというものである。
自分たちの応援席に戻ると、テンションの高いクラスメイト達が俺を出迎えた。
「籾杉すげえな! 陸上部に勝つなんて」
「しかも余裕あったよな!」
「ま、俺のダッキーにかかればこんなもんよ」
俺は別にお前のじゃないぞ、廉。
というかうんたら君は陸上部だったのか……ひとつ知識が増えたな。
その後、午前中に俺の出番はなく、ぼーっと競技を眺めていたら昼休みになった。
ああ、でも一年がダンスをやるとわかった時だけは、赤崎が踊るさまをしっかりとこの目に焼きつけた。
走らずともこのように素晴らしいおっぱいが拝めるとは……新たな気づきである。
体育祭でも変わらず、俺は屋上までやってきた。
ここに慣れすぎて、他の場所ではなんだか落ち着かないのだ。
「ふぅ、なんか疲れたな……」
体力面では全く問題ないが、ずっと人の多いところにいると精神的に少し疲れる。
ベンチに座りパンを取り出していると、屋上の扉が開いた。
「あ、先輩。やっぱりここにいたんですね」
「ああ、ここが一番落ち着くからな」
やって来たのは赤崎。
ベンチまで駆け寄ると、俺の隣に座って弁当を広げていく。
要するに、いつも通りである。
「先輩、かっこよかったですよ」
「おう、ありがとな。赤崎も、ダンスよかったぞ」
「えへへ、ありがとうございます」
それはもう非常に良かったですよ、おっぱいとかおっぱいとかおっぱいとかおっぱいとか……あとおっぱいとか。
赤崎はお世辞にも運動神経が良いとは言えない。
魔法少女の時のスピードは完全に魔力由来のものである。
まあ、たどたどしいダンスもそれはそれで可愛げがあっていいと思うけど。
「はい先輩、今日のおかずです」
「おお、焼き魚か」
「それじゃあ、あーん……」
弁当を開き終えた赤崎が、いつものように俺におかずを差し出したその時。
グラウンドの方から、大きな音が聞こえた。
悲鳴や怒号も鳴り響き、下ではパニック状態に陥っているようだ。
……怪人が出たな、これは。
「っ……!」
赤崎は急いで屋上を出ていった。
すぐそこで怪人が出たからか、誤魔化す余裕も無かったようだ。
「まったく、タイミングってのがあるだろうが」
折角のあーんを邪魔するとは、ふざけやがって。
タイミングの悪い怪人に心の中で文句を言いつつ、いつでも変身して跳べるよう準備をした。
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