第26話 逆らえぬ宇宙の力
結論から言うと、俺は魔法少女のおっぱいを揉めなかった。
というのも家から距離があったために到着が遅くなり、怪人と交戦していたであろう魔法少女は既に敗北し、生身に戻されてしまっていたのだ。
さらには怪我もしており、急いで怪人を倒した俺は救急車を呼んだ。
俺は事情を聞かれたものの、ここに怪人が出現していたという情報もあってか深く追求されることはなく、たまたま通りかかっただけということで誤魔化すことが出来た。
「はぁ、揉みてえよ……」
帰り道、俺は一人呟く。
魔法少女というのは何故か知らないが例外なく美少女である。
今回助けた少女もそうだ。
そんな美少女の素晴らしきおっぱいを守ることができたのは嬉しいが、同時に揉めなかったことを残念に思う気持ちも確かにある。
それどころか、今の俺は後者の方が大きく感じてしまっていた。
「ダメだな……最近ズルズルいってる気がする」
これまでずっと我慢しつづけて来たはずの衝動。
どうにかこうにか、人間としての考えを優先してきたはずだった。
それが今はどうだ?
怪人化が進行してきているから仕方がないとか、そういう気持ちが生まれてしまっているのではないだろうか。
その甘えが、俺を人から怪人へと変えていくのではないだろうか。
「気を引き締めないとな……」
少なくとも、純粋な欲望だけで動くようなことは避けなければならない。
そう再認識しつつ、俺は帰宅のために路地裏で変身する。
ふと、俺は仮面や帽子を外してみた。
人間状態の見た目に変化が生じたことで、怪人状態の見た目が少し気になったのだ。
「……完全に俺だな」
スマホで確認してみると、その素顔は人間状態の時と全く同じだった。
違うのは髪と瞳の色が真っ赤なことぐらいか。
そこから俺の身に起きている変化が何を意味するのか、想像するのはあまりに容易だ。
「いっそもっと怪人らしけりゃ嫌悪感のひとつぐらい湧いただろうにな……」
溜め息をついてから、仮面と帽子を戻す。
そして家に向かって跳ぼうとした、その時だった。
「やっぱりあなただったのねぇ、おっぱい仮面さん」
「トパーズ、さん……」
突如後ろから声をかけられ、振り返る。
そこにいたのは、黄を基調としたコスチュームを身に纏う魔法少女、トパーズだった。
「救援要請があったから来たんだけどぉ、既に怪人は倒されたあと。でもエメちゃんは救急車で運ばれたみたいだし、どういうことかなぁって」
トパーズはゆっくりと歩み寄ってくる。
丈の短いジャケットを大きく押し上げるおっぱいが、一歩踏み出す度に揺れている。
エメちゃんというのは恐らくここらを担当する魔法少女、エメラルドのことだと思われる。
到着時には生身だったためわからなかったが、恐らく彼女がそうであったのだろう。
「そしたらここで急に探知魔法に反応があったから来てみたのよぉ」
「な、なるほどね……」
今まで俺が探知魔法にかかることはなかったのだが……仮面か帽子を外したのが原因なのか、それとも別の原因なのか。
俺が考えてわかることではないが。
「……戦わないのかい? 俺は怪人だよ」
俺のすぐ目の前で立ち止まったトパーズ。
武器であるガトリングすら持たないその姿に、疑問を投げかける。
「わたし、怪人を倒すために魔法少女やってるわけじゃないわよぉ?」
その答えとでも言うように、トパーズは自分のジャケットに手をかけ、そのまま脱ぎ捨てる。
レオタードに包まれた豊満なおっぱいに、視線が勝手に吸い寄せられてしまう。
「わたしはみんなを守りたいだけ。あなたが誰も傷つけてないのに、戦う理由なんてないもの。それに……」
さらに歩み寄ったトパーズ。
俺の手を取ると、そのまま自分の胸に押し当てた。
「エメちゃんを守ってくれたお礼、しなくちゃでしょう?」
途端に俺の思考は完全におっぱいに染まる。
思い悩む俺という存在が、あまりに小さく感じるほどの衝撃。
ああ、これが宇宙か……。
無意識のまま、俺は手を動かす。
ただひたすらに、その柔らかさで満たされていく。
「んっ……あなたが頑張ってるのは知ってるわ。怪人でありながら、欲に抗う人」
トパーズが、耳元で囁く。
「ルビーちゃん……優歌ちゃんもあなたに感謝してるわ、志抱くん」
「ッ……!」
瞬間、思考が現実に引き戻される。
半ば反射的に手を離し、飛び下がる。
俺の正体がバレている……?
いったいなぜ、どこでバレたんだ?
「……なんで分かったんですか」
「わたし、探知魔法は得意なのよぉ。キャンプの時に偶然……ね?」
あの時違う方向に回り込んだのがわかっていた、と。
やけにすんなり信じてくれたとは思っていたが、わかっていて見逃していたのか……。
「志抱くんには感謝してるし、そもそも戦っても勝てないし……大丈夫、秘密は守るわ」
「陽葵さん……」
「これからも優歌ちゃんのこと、よろしくね? もちろん、廉のことも」
トパーズはそう言い残すと、身動きが取れないでいる俺の前から立ち去った。
赤崎に俺のことがバレるリスクが限りなく高まってしまったが、俺には彼女の言葉を信じることしかできない。
突然の衝撃に、俺はしばらく立ち尽くしていた。
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