第25話 変わりゆく自分

 最近、どうにも体の調子がおかしい。

 体調が悪いとかそういうのではない。

 むしろ、身体が軽すぎるのだ。

 体育祭の練習では、皆本気ではないとはいえ軽くぶっちぎりでゴールしてしまった。


「なんか目の色まで変わってきてんな……」


 帰宅後、洗面所で鏡を見る俺の瞳の色は、もとの黒から少し赤みがかった色に変わってきていた。

 十中八九これも怪人化の影響だろう。


 怪人になってから一年以上経ち、徐々に人間状態の時にも変化が出てきているのは分かっていた。

 しかし、今回のような目に見える変化というのはこれまでにないものであり、まるで自分が人間から離れていくような感覚を覚えた。

 ……いや、実際離れているのだろう。

 思考がもっていかれる事も以前より明らかに多くなっており、俺の中に残る人間性が食い潰されていくように感じている。


 今ぐらいならどうにか誤魔化しきれるだろうが、これ以上酷くなるようだと誤魔化しきれなくなってしまう可能性が高い。

 見た目が明らかに変わってしまえば誰の目から見てもわかるし、衝動に飲まれて手を出せば人として終わる。


「とは言っても、対策のしようもないしとりあえず放置かな……」


 衝動を抑えるために魔法少女のおっぱいを揉んでいるが、それも怪人が出た時のみ。

 これ以上ペースを上げることができない以上当然ながら限界は来る。


 どうしても誤魔化しきれなくなってきたらまたその時に考えるとしよう。

 俺は洗面所を離れ、自室に戻った。






 自室でスマホを弄っていると、廉からメッセージが送られてきた。

 内容は週末に遊ばないかという誘いだ。

 普段なら基本断らないのだが、週末は赤崎との予定があるので行けないという旨の返信をする。


「こいつ……」


 間を置かず廉から送られてきたのはウザい笑顔のスタンプ。

 メッセージ上でもウザいとは流石である。

 とはいえもう一年以上の付き合いで割と慣れてしまった。

 俺はスタンプを適当にスルーし、アプリを閉じる。


 それからまたスマホを弄っていると、怪人出現の情報を見つけた。

 敵は固有種ユニークと通常怪人複数。

 ここまでの大量発生だと、魔法少女は確実に苦戦を強いられることになるだろう。


「ちょうどよかったな、これでおっぱいが揉める……」


 場所はルビーやトパーズ、サファイアの管轄ではなかったが、ちょうど揉みたい気分だったこともあり、向かうことに。


「……我ながらひどい動機だよな」


 これまでは曲がりなりにも知り合いの魔法少女たちが忙しいのを緩和してやりたいとか、そういう気持ちを持ってやってきた。

 だが、今回に関しては特にそういった感情があるわけでもない。

 ただ、おっぱいを揉みたくて仕方がないから向かうのだ。


「ヤバそうだから行く……ってのは理由としては弱いな」


 いくら俺が動く理由を取り繕おうとしても、浮かぶのは明らかな嘘ばかり。

 もはやただの欲望を元に動く自分が、酷く醜く見える。


 そんなことを考えながら、俺は変身することなく窓から飛び降りた。

 これで普通に着地できてしまう自分が本当に人間を名乗れるのか、俺には自信がなかった。

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