第23話 焦る魔法少女

◆赤崎優歌視点


 やばい、どうしよう。

 酒の怪人と戦った次の朝、私は部屋で一人焦っていた。


「わ、わたし、あんなこと言っちゃうなんて……!」


 酷く酔って頭もぼーっとしていた割に、私は昨晩あったことをしっかり覚えていた。

 怪人と戦っている途中で眠らされ、気づけば怪人の姿の先輩に抱き抱えられていて、それから恥ずかしいことを言って抱きついて。


 それだけでも大変なのだが、一番の問題はそれではない。

 怪人の姿をしていたにも関わらず先輩と呼んでしまっていたことである。


「どうしようどうしよう、あれで私が先輩の正体を知ってるってバレたら……」


 初めて話しかける時、正体を知らないフリをしておけば警戒されずに済むと思った。

 先輩も私に魔法少女関連の話はせず、あくまでも人間同士の関係を築く。

 初めは自分を助けてくれた人がどんな人か気になって話しかけたけど、今はそれだけじゃない。


 怪人として現れる先輩はあくまでも仲間ではないって言ってたし、実際私たち魔法少女のおっぱいを揉むために戦っていた。

 人間としての先輩は、いつも私のことを気にかけてくれる。


 先輩は、あくまでも人間同士という認識の上で私との関係を続けているんだと思う。

 だから私が先輩の秘密を知っているとなれば、その関係は呆気なく終わりを迎えることになってしまうだろう。


 私は先輩のことが好きだ。

 優しい人間としての先輩も、私を助けてくれた怪人としての先輩も、両方含めた一人の人間として。


 もし先輩が私の嘘に気づいたとしても変わらず優しく接してくれるというなら、私はこの秘密を明かしたっていいと思っている。


 でも、もしそうじゃなくて、秘密を明かすことで先輩から避けられてしまうとしたら。

 その不安が、どうしても拭えない。

 秘密を明かすのが怖いのだ。


「うぅ、バレてないといいけど……」


 私は不安な気持ちを抱えたまま、学校へと向かった。






 昼休み、おそるおそる屋上に向かうと既に先輩がいた。

 今の私はただの赤崎優歌。

 昨日のことは何も知らない体でいかなきゃ……!


「先輩、こんにちは!」

「お、おう、赤崎か」


 私が挨拶すると、先輩は少し気まずそうに返事をした。

 バレてないかな……?

 いつも通り先輩の隣に座ってみる。


「はい、先輩。今日も作ってきましたよ、お弁当」

「あ、ああ……」


 うーん、避けられるとかそういうのは無さそう。

 多分、酔った私の発言のせいで気まずいというだけなのだろう。

 ……思い出して恥ずかしくなってきちゃった。


 私は恥ずかしいのを誤魔化すように、持ってきた弁当を広げていく。


「えっと、今日は唐揚げです……はい、あーん」

「……おお、これうまいな」

「えへへ、喜んでもらえて嬉しいです」


 私のお弁当で喜んでくれる先輩。

 いつもと変わらぬその反応からして、昨日のことは大丈夫そうだ。

 安心感からか、自然と笑みが零れる。


「あの、先輩……今週末、ご飯食べに行きませんか?」

「ん、あー……え?」


 実はもし大丈夫だったらご飯に誘おうと思っていた。

 先輩とはもっともっと仲良くなりたい。

 そう思って言ってみたものの、先輩はぼーっとしていた様子。


「週末、ご飯行きませんか?」

「お、おう、いいぞ」


 前からよくぼーっとしている人だったけど、その頻度が少しずつ増えているように思う。


 先輩は怪人になってから一年以上経っているし、その影響が出ているというのは想像にかたくない。

 そもそも怪人になってからも人間として生活出来ているのが異常で、他にそういった怪人は出現していないのだ。


「先輩、大丈夫ですか……?」

「ああ、なんでもないぞ。心配させて悪いな」


 私が聞くと、先輩は少し申し訳なさそうに返す。


 本当は怪人のことを私に言えるわけないってわかってるのに。

 でも今の私はただの赤崎優歌だから。


 ……ああ、私はやっぱり悪い魔法少女だ。

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