第22話 アル中怪人

 夜の十時を回った頃、風呂上がりにスマホを弄っていたところ怪人出現の情報が目に入った。


「こんな時間にまで出るのかよ……」


 しかもどうやら固有種ユニークの怪人であるらしい。

 こんな時間に強敵と戦っていては、赤崎の負担が大きくなりすぎてしまう。


「しゃあねえ、準備して出るか……」


 流石に寝巻きで外に出るわけにもいかず、適当なシャツとズボンに着替えてから家を出た。


 今回の現場は駅近くの飲み屋街。

 変身して走っていたところ、酷いアルコールの臭いが鼻についた。


「なんだこりゃ、そこら中酒くせぇ……」


 強烈なアルコール臭に仮面の奥で顔を顰めつつも進むと、ついに現場が見えてくる。

 どうやら既に戦闘が始まっているようだった。

 ルビーの正面に立っているのは、酒瓶を片手に持った太った酔っ払いの怪人だ。


「ぅ……やぁっ!」

「おぉ〜っとぉ!? 危ないねぇ〜君ィ」


 ルビーが魔法弾を放つも、ふらつくような動きで躱されてしまう。

 その際に瓶から酒が飛び散り、アルコール臭を撒き散らす。


「攻撃が……当たら、ない……」

「うぅ〜ん? そろそろ効いてきたかなぁ〜??」


 なおも攻撃を仕掛けようとするルビーだったが、足元がおぼつかず、ついには地面に倒れ込んでしまう。


「まずいな……【衝撃インパクト】ッ!」

「ふべぁっ! なんだァ〜?」


 倒れたルビーを攻撃されないよう、遠くから衝撃波で牽制する。

 敵はそれで乱入者の存在に気づいたようで、俺のいる方へ視線を向けた。


「なあお前、この世で最も素晴らしいものが何か分かるか?」

「あぁ? んなもん酒に決まってんだろォ〜?」

「違う。魔法少女のおっぱいだ」


 俺は歩きながら問うが、返ってくるのは予想通りの答え。

 やはりこのような酒カス怪人如きには理解できないか……まあそんなことはどうでもいいが。


「そして今お前が攻撃することによって魔法少女おっぱいが失われる危険に晒されている」

「何言ってんだテメェはよぉ!?」


 重要なのは俺がコイツをぶち殺すための理由作りだ。

 俺は魔法少女の仲間ではなく、魔法少女のおっぱいを守るために戦う。

 怪人、籾杉志抱はそういう奴なんだ。


「俺にとってお前は異物、ただのゴミだということだ」


 超高速の踏み込みから、全力の拳を繰り出す。

 もはやふらつく暇すら与えずに炸裂した拳が、敵怪人を粉砕した。


「ぶぎょおぉぉッ!!」


 粉砕したのはいいが、それによって周囲に酒が撒き散らされる。

 強烈なアルコール臭が、さらに充満してしまう。


「きったねぇ! しかも臭ぇ……!」


 俺は咄嗟にマントで身を守ったが、そのマントは酒まみれになり駄目になってしまった。

 俺はマントを脱ぎ捨てると、倒れているルビーのもとへ駆け寄った。


「変身解除されてねえなら無事だな……ひとまずここを離脱するか」

「んぅ……」


 ルビーの顔は赤く火照っており、アルコールで酔わされてしまったものと思われる。

 この空間にいるべきではないと判断した俺は、ルビーを抱き抱えてその場を離脱した。






 赤崎の家を詳しく知らない俺は、ひとまずある程度の方向だけ定めて走り、赤崎の家からそう遠くないであろう公園に到着した。


「いつもならこのまま寝かせて帰るとこだけど……酔わされた状態だと心配だな」

「ん、ぅん……?」


 俺がどうしたものかと考えていると、抱き抱えていたルビーが目を覚ました。

 しかしその目はとろんとしており、かなり酔っていることがわかる。


「あれぇ、せんぱぁい……? こんな夜おそくにどうしたんですかぁ……?」

「ッ……勘違いしてるみたいだね、ルビーちゃん。俺は君の先輩じゃないよ」

「うーん? せんぱい、どうしちゃったんですかぁ?」


 これ、バレてはいない……んだよな?

 多分酔いが酷くて認識が曖昧なんだと思うけど。

 ひとまず酔いが多少なりとも覚めるのを待つしか無さそうだ。


「ルビーちゃん、君は酒の怪人に酔わされてしまっているんだ」

「じゃあ、せんぱいが助けてくれたんだぁ……」


 一応説明を試みてみるが、ルビーはうっとりした様子のまま、おかしな認識をしてしまっている。

 しかもなまじ事実であるが故にちょっと怖い。


「んぅ、せんぱい、しゅきぃ……」

「お、おい……!?」


 ルビーは俺の首に腕を回すと、そのまま抱きついてきた。

 俺の胸にルビーのおっぱいが押しつけられ、その感触をこれでもかと伝えてくる。


「これ、どうすんだよ……」


 人間の方が好かれてて、怪人の方はおっぱいを押しつけられる……なんて都合のいい状態……!

 でもちょっとアルコール臭がするのは残念。


 それから少しして再び眠ってしまったルビー。

 とりあえずベンチに寝かせてしばらく物陰で見守ったのち、再び目覚めたのを確認した俺はそそくさと帰宅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る