第15話 粉砕仮面

 夏休みの課題というのは一見途方もない量であるかのように思えるかもしれないが、俺のように遊ぶ相手すらもあまりいないような人間にとっては苦ではない。


 もはや暇つぶし感覚で課題を片付けていくことで、半分以上の日数を残してその全てを終わらせた。


「あーあ、終わっちまったよ。人いるところに出かけたらおっぱいの妄想ばっかりだし……暇だな」


 俺が遊びに誘えるのは廉か赤崎ぐらいのものだが……廉は他にも多くの友達がいるし、赤崎は魔法少女で忙しい。

 一応俺も固有種ユニークの相手はしているが、そもそも通常怪人とは発生頻度が違いすぎる。


 その結果、家でただぼんやりとおっぱいの事を考えるだけの無気力変態男ができあがるのだ。


固有種ユニーク出ねえかなぁ、そしたらさっさとぶっ潰しておっぱい揉むのに……」


 我ながらクソみたいな思考回路だが、実害を出していないので許して欲しい。


「どっかで怪人出たとかねえかな……」


 俺はスマホを取り出し、怪人の出現情報などを調べていく。

 しかし、そう簡単に見つかるものではない。

 見つかるということは被害が出るということなので、見つからないに越したことはないのだが。


 仕方が無いので、魔法少女関連のサイトや投稿を漁っていく。


「お、マジか」


 しばらくネットサーフィンに興じていると、魔法少女ルビーについての話題が上がっているのを見かけた。


 見つけたのは『魔法少女ルビー、新技獲得で最強格の仲間入り!?』という見出しのニュースだった。


 もとよりたった一人で一つの街を担当するルビーは魔法少女の中でも優秀であるとされていたのだが、最近の怪人増加においても新技によって対応、被害を抑えているというのが評価されているようだ。


 コメント欄でもルビーの実力を評価するコメントが多くつけられており、自分のことでもないのについ口角が上がってしまう。

 尤も、最強説については否定の声が多かったが。


「げ、俺の事まで書いてあるじゃねえか」


 そして、ルビーの話題になると必ずセットで語られるのが俺の存在だ。

 街に出現した固有種ユニークを瞬殺して回る謎の怪人、粉砕仮面。

 これまでに何度も出現、魔法少女ルビーが駆けつけても倒されておらず、かと言ってルビーが殺されるといったこともない。

 目的不明の謎多き怪人、とされている。


「なんかこっちの方がマシな呼び名だな……」


 魔法少女たちの間ではおっぱい仮面と呼ばれている俺だが、揉む時は誰にも見られないように気をつけているため一般人にはおっぱいのイメージがない。

 故に、怪人を拳で粉砕する様子から名づけられたらしい。


「なんか、騙してるみたいな気になってきたな……」


 街のみんな、すまない!

 俺が怪人を粉砕するのは魔法少女のおっぱいの為なんだ!!

 ……なんか馬鹿らしくなってきた。


 それからもスマホを弄りながら時間を潰していたのだが、ついに怪人出現の情報が見つかった。


「場所は……トパーズとサファイアの所か。しかも固有種ユニーク


 あの二人は俺の知り合いだし、できるだけ力になりたい。

 それに四つ腕のことも心配だ。

 俺はスマホの画面を閉じ、怪人が出現したという場所へ向かった。






 現場に到着すると、そこに居たのは身体中から無数の針を生やした怪人。

 対するは漣先輩……魔法少女サファイアだった。


 どうやらトパーズは来ていないらしいが、サファイアは撃ち出される針を的確に弾き、互角に立ち回っていた。


「前回は気を失うまで傍観しちまったし、早めに到着出来てよかったな……」


 今回は既に変身を済ませてあるため、身バレの心配は無い。

 俺は躊躇うことなく、戦いの中へ飛び込んだ。


「やあ、顔を合わせるのは初めてだね。サファイアさん」

「オマエ、ナニモノダ」

「お前は……おっぱい仮面!?」


 突如現れた俺にそれぞれ反応を示す怪人とサファイア。

 はぁ、おっぱい仮面とかいうふざけた渾名どうにかなんねえかな……。


「君の言うおっぱい仮面で間違いないよ。巷では粉砕仮面って呼ばれてるみたいだけどね」

「そうか、お前が……この前は助けてもらったそうだな、感謝する」

「気にする事はない、勝手にやっているだけさ」


 でも俺身バレ防止の為に気を失うまで出ていかなかったんだよな……感謝で心が痛い。


「ヨクワカランガ、ジャマスルナラシネ!」


 針の怪人は無数の針を同時に発射し、俺を狙う。

 それを拳で逸らしつつ、地面を蹴って加速。

 一瞬にして針の怪人の懐に入る。


「何故俺が粉砕仮面と呼ばれているか、その身に教えてあげよう。【衝撃インパクト】」


 俺は針の隙間に拳を入れ、本体に触れたところで魔法を発動する。


「グワアアアァァァ!!」


 ゼロ距離で放たれた衝撃波が、怪人を粉砕した。


「ふぅ、こんなものかな」

「おっぱい仮面……凄まじい一撃だったぞ!」


 俺のもとへ駆け寄ってきたサファイアが、賞賛の言葉を告げる。


 サファイアのコスチュームは胸を隠すものがベースとなるレオタードしかなく、駆け寄る際の揺れに俺の目は釘付けになっていた。

 でも揉んだらおっぱい仮面呼びに文句言えなくなっちまう……クソッ、一体どうすれば……!


「じ、じゃあ俺は帰るから」

「まてぇい!!」


 不名誉な渾名をどうにかするべく俺が断腸の思いで帰ろうとすると、サファイアが腕を掴んで制止してきた。


「ルビーの胸を揉みまくり、トパーズの胸も揉み……私だけ揉まないとはどういうつもりだッ! やはりサイズか? 巨乳でなければ興味無いというのかッ!!」

「えっ、いやそんなことないです……おっぱいは全て等しく尊いものです」

「ならば揉め! 大きさが全てではないと証明するんだ!」


 え、なんで俺怒られてんの?

 もしかして胸の大きさ気にしてるのかな……でも別に平均ぐらいあるけどなぁ。


 結局勢いに押し負け、おっぱいを揉んでから帰ることに。

 サファイアは満足そうに腕を組み、頷いていた。


 非常によい形、揉みやすいサイズ感でございました。

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