第12話 おっぱい仮面

「あれは、魔法少女サファイアと魔法少女トパーズ……?」


 全ての魔法少女コスチュームに共通するイメージカラー入りのレオタードに、腰周りや肘から先を覆う防具と青白く輝く剣を装備する青のポニーテールの少女、サファイア。

 丈の短いジャケットに巨大なガトリングガン、それから弾薬を腰のベルトに装備する金髪の女性、トパーズ。

 この街を担当する二人組の魔法少女で間違いない。

 トパーズは少女というよりお姉さんといった感じだが。


 対するは四つ腕の怪人。

 まるで悪魔のような形相で二人を睨むそいつからは、濃密な強者のオーラが滲み出ている。


「サファイアちゃん、いくわよぉ」

「ああ、援護は任せた!」


 トパーズが銃を構え、サファイアが敵めがけて疾駆する。

 サファイアのスピードはルビーほどではないが、それでも魔法少女の中で上位に入るだろう。


「食らえ! はあっ!」


 サファイアが繰り出した攻撃に対し、四つ腕はそのうちの一本で応じる。

 見かけに寄らずかなりのスピードがあり、俺が以前倒したデカブツなどとは比べ物にならない。


「くっ、守りが堅い……!」


 サファイアの斬撃は全て腕一本で防がれ、その腕には傷一つ付いていない。


「フン、この程度か」

「ちっ……!」


 二本目の腕がサファイアを狙う。

 攻撃を弾かれて体勢を崩したサファイアは回避行動がとれない。


「させないわよぉ!」


 が、その腕がサファイアをとらえる前に、トパーズの放った無数の魔法弾がそれを弾いた。


「命拾いしたな、魔法少女。だが次はないぞ?」

「言ってなさい、最後に勝つのは私たちよ!」


 近距離特化のサファイアと遠距離特化のトパーズ。

 二人は息の合ったコンビネーションで攻撃を繰り出していく。

 トパーズがサファイアの隙を埋め、サファイアがトパーズへの接近を防ぐ。

 反撃の隙を与えない連続攻撃は、敵怪人を追い詰めたかに思えた。


「で、もう終わりか?」

「ぐうっ……!」

「サファイアちゃん!」


 サファイアの剣を受け止め、そのまま後ろへはじき返す怪人。

 吹き飛ばされたサファイアを、トパーズが辛うじて受け止めた。


「そんな貧弱な攻撃では俺を傷つけることすらできんぞ」

「馬鹿な……!」

「私たちの攻撃が通じない……?」


 怪人の身体には傷一つついていない。

 サファイアの斬撃も、トパーズの射撃も、そのどちらも全く通用していなかったのだ。


 どうやらかなりの強敵らしい。

 俺の後ろでは、廉がまだ寝息を立てている。


「一応いつでも出れるようにしておくか……」


 最悪俺が変身して出るつもりだが、俺が怪人であるとバレるリスクが拭いきれない。

 テントの反対側からこっそり抜け出した俺は、近くの木陰に身を隠した。


「さて、次はこちらからいくぞ!」

「ぐ……あぁっ!」


 その間に、ついに攻撃に転じる怪人。

 その拳をガードしたサファイアだが、威力を殺しきれずに吹き飛ばされ、近くの木に打ちつけられる。


「サファイアちゃん!?」

「余所見してる暇なんざねえぞぉ!」

「きゃあああっ!!」


 高速で迫る怪人のスピードについていけないトパーズは、抵抗すらできずに攻撃を受け、テントのすぐ近くに転がされた。


「ぐっ、これほどとは……」

「応援を、呼ばないと……」


 どうにか立ち上がった二人は、他の魔法少女に救援要請を出す。

 そして、それまでの時間を稼ぐべく、必死の抵抗を試みる。


「わざわざ獲物を増やしてくれるとは、サービス精神旺盛じゃねえか! お前ら魔法少女は全員、俺がいたぶって殺してやるよォ!!」


 怪人が最初に狙ったのはサファイアだった。

 どうにか構えをとったサファイアへ、四本の腕を使った連続攻撃が叩き込まれる。


「がっ、くっ、ぐぅッ……」

「オラオラどうした! そんなもんかよォ!!」

「ぐわあぁぁあぁぁああっ!!」


 怒涛の連打をどうにか防いでいたサファイアだったが、それも長くはもたなかった。

 怪人はトパーズの攻撃を全て無視し、ガードが解けたサファイアに殴打を浴びせていった。


 吹き飛ばされ、再び木に叩きつけられたサファイアは気を失い、その変身が解除される。

 その正体は黒髪ロングの少女、漣先輩であった。


「……っ、まずい!」


 生身で攻撃を受ければひとたまりもない。

 それに、サファイアが漣先輩ならトパーズは……!


「オラァ! 死ねぇ!!」

「蒼依ちゃんッ!」


 とどめを刺そうと拳を振りかぶる怪人の目の前に、トパーズが割って入る。

 そして無慈悲な一撃がトパーズに直撃……することはなかった。


「な、馬鹿な……!」


 四つ腕怪人の腕が、半ばから切断される。


「悪いけど、これ以上はさせないよ」

「なんだお前は!!」

「あなたはまさか、おっぱい仮面……?」


 おっぱい仮面……!?

 俺が思わず振り返ると、トパーズが驚いたような表情で俺を見ていた。


「それ、俺の事……?」

「ええ、ルビーちゃんから聞いたのよぉ。強敵を代わりに倒して、それからおっぱいを揉んで帰っていく怪人がいるって。それからわたしたちの間ではそう呼ばせてもらってるわ」


 なんて酷い呼び名……!

 いやでもまあおっぱい揉みまくる仮面の怪人だし妥当か。


「よくもやってくれたな!」

「あー、お前邪魔。とりあえず死ね」

「があぁぁぁああぁぁぁああッ!!!!」


 話の邪魔しやがって、このクソ怪人。

 怪人の身体を粉砕するべく、全力の拳を打ち込む。

 しかし奴の身体の耐久力はすさまじく、砕け散ることなくどこかへ飛んで行った。

 向き直ると、トパーズがさらに驚いた顔をしていた。


「おっぱい仮面さんは強いのねぇ……」

「え、ええ、まあそれなりには……それよりすまなかった。本当はもっと早く助けることもできたんだけど、躊躇ってしまった」

「んーん、助けてくれただけで感謝してるわ。あなたがいなかったら二人とも死んでしまっていたかもしれないもの。蒼依も怪我はなさそうだし、気にしないで」


 そう言って優しく微笑むトパーズの変身が解ける。

 ただでさえ消費の激しいガトリングを撃ちまくり、さらに怪人の攻撃を受けていたために魔力が切れたのだろう。

 魔法少女トパーズの正体は、やはり陽葵さんだった。

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