第10話 キャンプ

 夕暮れの山の中。

 俺は今、テントの杭を打っている。

 ここは隣の街にあるキャンプ場。

 友達のいない俺のために、という理由で廉がキャンプに誘ってきたのだ。


 ムカつく物言いだが、数少ない友人の誘いを断る理由も特になかったため、参加することにした。


「おー、手際いいなダッキー」

「まあこれぐらいなら大したことねえよ」


 バーベキューの用意をしていた廉が、俺に声をかけてきた。


「いやぁー、基本暇してて競合相手がいないハイスペック人間を誘える権利、役立つなぁ」

「お前それ半分悪口だろ……」


 怪人になってからというもの、変身をしていない状態でも明らかに身体のスペックが上昇している。


「てかよかったのかよ、俺なんか誘って」

「気にすることねえって、二人とも優しいぜ!」

「いや優しいかどうかじゃなくてだな……」


 今回のキャンプ、参加者が他にもいる。

 廉の姉の川野かわの陽葵ひまりと、ウチの学校の生徒会長、さざなみ蒼依あおいである。


「てかお前、会長と面識あったのかよ」

「家が近所でな、姉ちゃんと俺とアオっちとでよく遊んでたわけよ」

「へえ、あの真面目そうな会長がねぇ……」


 ふと向こうを見れば、茶髪にウェーブのゆるふわオーラ全開の美女と、黒髪ロングの真面目オーラ全開の美少女が談笑している。

 前者が川野陽葵、後者が漣蒼依である。


 陽葵さんとは、廉の家に行くことがあったので多少面識がある。

 母性の塊のような彼女と煽りカス野郎の廉ではあまりに似ておらず、はじめは血縁関係を疑ったものである。

 俺や廉の三歳年上で、現在大学二年。

 ちなみにおっぱいは超でかい。大宇宙だ。


 会長は常に圧倒的成績トップ、さらに剣道部で全国まで行ったという文武両道の極みみたいな人であり、とてもではないが廉のような奴と遊んでいる姿が想像できない。

 おっぱいは普通。何事も丁度よさが大事だよね、うん。


「昔は三人の中で一番やんちゃだったんだぞ、あの人」

「えぇ、マジかよ……」

「それに俺だけ男だと肩身狭いじゃんか!」

「あー、それはそうだな」


 あの会長がやんちゃしている姿がどうやっても浮かばなかったが、こんなところでいちいち嘘をつくような奴でもないのでそうだったのだろう。


 そんなことを話しているうちに設営が完了したので、少し早いが夕食にすることになった。






「今日は来てくれてありがとうねぇ、志抱くん」

「いえいえ、そんな」

「わたし廉のお友達は志抱くんしか会ったことないから、ほかの人だったらどうしようって思ってたのよぉ」


 肉を焼きつつ、陽葵さんが俺に話しかける。

 見た目の雰囲気通り、喋りの方もふんわりしている人だ。


「はい、これ焼けたからどーぞ」

「あぁどうも、ありがとうございます」

「どういたしまして」


 焼けた肉を俺の皿に乗せたかと思えば、既に次の肉が焼き始められている。

 雰囲気に反して、実のところかなり手際がいい。

 てかおっぱいでけえ……っと、いかんいかん。

 また思考がおっぱいに飲み込まれるところだった。


「今日のキャンプ、陽葵さんが企画したって聞きましたけど」

「そうよぉ、たまにはお外でのんびりするのもいいかなーって」

「そうですね、俺も夏休み入ってからずっと引きこもってたんで、いい気分転換になってます」


 実際のところは怪人を倒しに外出しているが、それ以外の目的で外出していなかったのでノーカンだろう。

 こうやって外でゆっくりするというのも、なかなかいいものである。


「てかそっちの二人、ずっと食べてますね……」

「二人とも、お肉ばっかり食べすぎちゃダメよぉ?」


 俺が反対を向けば、肉で頬をパンパンに膨らませた廉と会長が目に入った。

 ここまでずっと、廉と会長は一言も発することなく肉を焼きまくり、全て自分で食べている。

 てか会長もそっち側かよ……俺の中の完璧人間のイメージが一瞬にして崩れていく。


「ダッキーも早く食え! アオっちに全てを奪われてからじゃ遅いぞ……!」

「おひ、わらひらういひんふぉうふぃふぁいいいうあ!」

「会長、飲み込んでから喋りましょう……」


 競うように肉を食いまくる廉と会長。

 よもや廉と同レベルかそれ以下とは思いもしなかった。

 大丈夫かな……ウチの学校は盛大な人選ミスをしているのではないかと不安になってきた。


「んぐっ、んん……籾杉、折角羽を伸ばしに来ているんだ。役職ではなく名前で呼ぶといい」


 確かにプライベートで会長ってのもちょっとおかしいか。

 それに会長の威厳なんてあったもんじゃないしな……。


「じゃあ漣先輩って呼ばせてもらいます」

「んむっ」


 会長もとい漣先輩は、再び肉を口に放り込んでから頷く。

 やっぱダメだこの人……おっぱいの事を考えるのを脳が忘れるほどの衝撃だった。

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