第8話 悩み
そろそろ一学期の終わりが迫り、学校では皆期末テストの勉強に追われていた。
少しの隙間時間にも勉強を詰め込むべく、教科書とにらめっこしている生徒も見える。
「で、お前はやんなくていいのかよ、ダッキー」
いらぬ妄想を防ぐために机に伏す俺に、背後から声がした。
ダッキーというのは俺のあだ名だ。志抱の抱からとっているらしい。
俺に声をかける人間は限られている。
顔を上げれば、俺の数少ない友人である
「家でやるからいい。学校は寝る場所だ」
「違うと思うが……まあいいや。それより赤崎ちゃんとはどうなのよ? んんー?」
無駄にイケメンな顔に腹立つ笑みを浮かべ、俺の肩をつついてくる。
このエセ陽キャ野郎は、どうやら俺と赤崎が恋愛関係にあると思っているらしいのだ。
「俺じゃ釣り合わねえよ、ただの友人だ」
「でも毎日弁当あーんしてもらってるんだろ?」
「……まあ、そうだけど」
「それでただの友人は無理あるぜ、流石に」
それは分かっている。
俺は赤崎のことを大事に思ってるし、赤崎だって俺の事を憎からず思ってくれてると思う。
傍から見れば友人以上の関係に見えることだってわかる。
「でもマジで付き合ってるとかじゃねえから」
「もったいねえなぁ、赤崎ちゃん可愛いじゃんか」
「……分かってるよそんな事は」
普段からおっぱいの事ばかり考えている俺だが、それを抜きにしても赤崎は可愛いと思うし、もし俺が怪人でなければあわよくば、などと考えることもある。
全ては俺が怪人なんかやってるのが悪いのだ。
「はぁ、せいぜい上手くやれよな」
「善処するよ」
「適当な返事だなぁ」
怪人であることを喋れない以上適当になるしかない。
次の授業の時間が迫り、廉は自分の席へ戻って行った。
昼休み、俺は屋上のベンチでこの前のことを考えていた。
あの時俺が防御だけを手伝っていればよかったのではないか、とか。
もっとうまく手加減すれば殺さずに済んだのではないか、とか。
なんならあそこでルビーにやられてしまえばよかったのではないか、とか。
これまでルビーの手伝いと称して行ってきたのは
俺は誰も殺してない、あれは人間ではないからと、そうやって自分の中の人間の部分を納得させていた。
しかし、俺はついに助かる見込みのある通常怪人を殺した。
俺がずっと彼女を騙し続けていることへの罪悪感が、初めて人を殺したことで大きく膨れ上がっていたのだ。
赤崎はしばらく来ていなかった。まだ落ち込んでいるのかもしれない。
「俺はどうしたらいいんだ……」
俯き、ついには口から弱音を漏らしてしまう。
そんな俺の頭に、柔らかな手が触れた。
「先輩、悩み事ですか?」
「あ、赤崎……」
「はい、赤崎ですよ。しばらく私が来なくて寂しかったですか?」
「ま、まあな……」
顔を上げると、優しく微笑む赤崎が、俺の頭に手を伸ばしていた。あとおっぱいが近い。
今は渦巻く欲望よりも、赤崎が近くに居ることへの安心感が勝っていた。
「それで、悩みってなんですか? 私でよければ聞きますよ」
「……俺は、大事な人をずっと騙してるんだ……」
気づけば、俺はポツリポツリと語り始めていた。
「俺はずっと、その人に負担をかけ続けてきた。自分の事情に巻き込んで、勝手に利用して……」
赤崎は何も言わない。
静かに俺の目を見据え、次の言葉を待っていた。
「それで、つい最近。ついに俺はその人の大切なものを壊してしまった」
赤崎は小さく頷く。
「それをお前のためだとか言って、資格もないくせに慰めるようなこと言って……なのに、そいつは俺に優しいんだ……! 俺は最低のクズなのに!」
言ってしまった。
赤崎にとっては他人の話だと思うだろうが、これは俺と赤崎……怪人と魔法少女の話である。
当人に、言ったのだ。
自分が傷つけて、それで勝手に傷ついて、それを相談した。
怪人になってしまった時点で死を選ぶべきだったという思いが、俺の中で肥大化していく。
おっぱいで例えるならそれはもう創作の世界の超巨大なおっぱいだ。
「だから俺、もう死にたくて……」
「そんな事言わないでください、先輩」
赤崎の手が俺の頬に触れる。
その表情は、変わらず優しい微笑みだった。
「先輩はクズなんかじゃないです。今こうやって悩んでいるのが、何よりの証拠ですよ」
「でも、俺はその人を傷つけてしまった……」
思わず零れ落ちる涙。
赤崎はそれを人差し指で拭う。
「先輩言ったじゃないですか。なくしたものは仕方ない、次なくさないようにするしかないんだって。先輩も、次頑張ればいいんです」
そう言って、赤崎は俺の頭を胸に抱いた。
……そうだった。
俺が自分で言ったことなのに、また嘘を重ねるところだった。
「それに、先輩が悲しそうだと私も悲しいです。だから元気出してください、ね?」
あんなに悲しませたのに、また繰り返すところだった。
赤崎の言葉が心に染みわたっていくようだ。
もう二度と悲しませないように頑張るしかない。そう思えた。
「ああ、そうだな。ありがとう、赤崎」
顔を上げた俺は、赤崎と共に微笑み合う。
ゼロ距離おっぱい、最高でした。
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