第6話 ショッピングモール
普段休日には基本的に外出しない俺だが、今日は珍しく最寄りの駅へやって来ていた。デカブツと戦ったところである。
別にターミナルという訳でもないがそこまで小さくもない、そこそこの駅で俺はスマホに目を落とす。
「怪人が増加中、ねえ……」
どうやらこの街以外でも怪人の発生件数が増加しているらしい。
中には魔法少女が敗北し、殺されてしまったというニュースもあった。
貴き魔法少女おっぱいが失われていく、それはなんとも痛ましいことだ。もちろん命も、ね。
「赤崎だけでも守ってやらねえと……」
「何からですか、先輩?」
「うおっ! 赤崎か……びっくりしたぜ」
独り言をブツブツと呟いていると、シャツにショートパンツ姿の赤崎がいた。
制服のときよりも、活発そうな印象を受ける。
「それで、私を守ってくれるって聞こえた気がするんですけど……」
「あぁいや、怪人が増えてるらしいからな。もし出たらその時はってことだ」
俺がそう言うと、赤崎はおっぱいのように柔らかく微笑む……思考が引っ張られてひでえ比喩になったが、一応最上級だ。
「そう思ってくれて嬉しいです。でも、先輩も逃げなきゃダメですよ? 怪人は魔法少女が倒しますから」
「お、おう、そうだな……」
ああ、眩しいなぁ。
でも俺よりによって毎回胸揉む怪人だからなぁ。
「ま、とりあえず行こうか」
「はい!」
今日は赤崎から買い物に誘われていた。
最初は断ろうかと思ったのだが、よく授業を途中で抜けることや毎日のように屋上に入り浸ることが原因で友達が少ないらしく、涙目で懇願されたので断り切れず了承したのである。
「ところで買い物って何買いに行くんだ?」
「水着です」
「……は?」
電車に揺られながら、そういえば何買うか聞いてなかったなと思った俺が聞くと、予想外の返答が返ってきた。
赤崎はさも当然かのような表情をしているが、全く意味がわからない。
「お前なぁ、そういうのは俺みたいなのと買いに行くもんじゃねえだろうよ……」
「え? 先輩と海かプール行く用の水着ですよ?」
「いや、それでもだろ……」
これ俺がおかしいのか?
変態怪人だから無駄に意識してしまっているとかそういう類か?
……いやそれはないだろ、俺は正常なはず。
俺が微妙な表情をしていると、赤崎は不安げに見つめてくる。
「えっと、嫌でしたか……?」
「嫌じゃねえけど……」
「じゃあ問題ないですね!」
「お、おう……」
結局勢いで流されてしまった。
そして、さほど離れてもいないショッピングモールにはすぐに到着した。
当然のことだが、休日のショッピングモールは人が多い。
俺がそんな場所に踏み入ればどうなるか、想像に難くないことである。
おっぱい揉みてえ……てか今すれ違った人、魔法少女のレオタード似合いそうだな。もみもみもみもみ……。
「先輩? 大丈夫ですか?」
「えあっ、おっ、いや、大丈夫だ……」
店内に入ってからというもの、視線を彷徨わせながらソワソワしていれば、そりゃあ気になるだろう。
怪人なんかやってる時点で自分の感性がおかしくなっているのは諦めているが、俺と一緒にいるせいで赤崎まで変な奴だと思われないかだけが心配だ……。
そこで、開き直って今度は赤崎をジロジロ見つめてみる。
うーん揉みたいな、揉みたい。赤崎の魔法少女おっぱい揉みたい。揉みたい揉みたい揉みたい揉みたい……。
「せ、先輩!? 私がどうかしましたか?」
「ひょえぇい! な、ななな、なんでもないぞ!?」
赤崎に視線を固定したままぼーっとしてしまっていた。
そのせいで変な声が出てしまう。
気づけば、赤崎のくりっとした双眸が俺の方に向けられていた。
危ねえ……危うく欲に飲み込まれるところだった。
ここで揉み始めたら間違いなく終わる。俺の社会的地位も、赤崎との関係も。
それにあんまり心配かけらんねえよな。
「もしかして体調とか悪いですか? 休憩します?」
「いや、大丈夫。 ちょっと気が狂ってただけだ」
「大丈夫じゃなくないですか!?」
はい、大丈夫じゃないです。あなたのおっぱいで意識が飛びかけました。
なんて言えるわけがない。怪人がどうとか以前に人としてヤバい。
いつものように誤魔化すしかない。
「大丈夫だから、ほら行くぞ」
「うーん、先輩がそう言うならいいですけど……」
赤崎はどうにも腑に落ちない様子だったが、一応引き下がってくれた。
こんなことで迷惑をかけては赤崎に申し訳ない。
瞳の焦点を合わせず虚無を見つめることで、俺は放心状態で歩く変態にクラスチェンジする。結局不審者である。
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