第4話 屋上のあの人

◆赤崎優歌視点


 固有種ユニークが出たと連絡を受けた私は、急いで現場へ向かった。

 相手はパワー自慢の怪人らしく、近接戦闘で勝てるか少し不安もあった。

 しかし、到着した私の目に予想外の光景が飛び込んでくる。


「……先輩?」


 連絡にあった怪人と、いつもの怪人さん……籾杉先輩が戦っていた。

 もはや戦いにすらなっていない程一方的に、先輩が敵怪人を攻撃している。

 そうして、結局そのまま先輩が勝った。

 私が表に出ると、先輩が振り向いた。


「やあルビーちゃん、遅かったね」

「怪人さん……」

「ま、今日は疲れたから帰るよ。また会おうね」

「……まって!」


 気づけば、呼び止めていた。

 私は先輩に感謝したい。

 強敵が現れたとき、彼はいつも助けてくれた。

 今回もそう。初めて会った日も。


「そ、その……おっぱい、揉む?」


 言ってから後悔した。なんて馬鹿なことを言っているのだろうか。

 変態だと思われてしまったのではないだろうか。

 先輩は私の正体を知っているのに。


「いや、やめておくよ……」


 先輩は困ったような表情を浮かべてから、帰っていった。






 あれは去年の事だった。

 私は怪人との空中戦の末、近くの高校の屋上に不時着した。


「ふん、小娘ごときがこの私に勝てるはずがないのだ」

「くぅっ……」


 敵はそれまで私が戦った中で一番強かった。

 コスチュームのフリル部分が破損し、レオタードだけになってしまっている。

 魔力があれば修復できるが、飛行魔法の長時間使用によって私の魔力は枯渇寸前だった。


「もうよい、そのまま無様に死ね!」

「うぅ……あぁっ!」


 敵怪人が光弾を放つ。

 咄嗟に残り少ない魔力で障壁を張ったが、それで防ぎきれるはずもなかった。

 度重なるダメージと魔力の枯渇で限界を迎えた私は、制服姿で倒れ伏した。


 私はもう殺されるだろう。変身していなければただの中学生でしかない。

 そう覚悟していたのだが、いつまで経っても次の攻撃が来ない。


「お前、魔法少女ちゃんの貴重な神おっぱいをどうするつもりだ?」

「なんだ貴様、魔法少女の無様な敗北姿に気でも触れたか?」


 見れば、屋上の入口に一人の少年がいた。

 制服を着ているので間違いなくこの学校の生徒だろう。

 止めてあげたかったが、もう体が動きそうにない。今は辛うじて意識を保っている状態だ。


「なあ、俺は魔法少女のおっぱいが揉みたいよ」

「だからどうした!」


 おっぱい……?


「でもお前が殺したら揉めないってことだよな」

「だったらどうする? お前には何の力もないだろう」


 少年が進む。彼の視線は明らかに私の胸に突き刺さっていた。


「俺はおっぱいの為なら何でもやる。お前を殺さなきゃ揉めないなら殺す」

「ふん、馬鹿なガキが! 死ねぇい!!」


 怪人が尚も歩み寄る少年に光弾を放つ。

 ああ、私が負けたせいで彼は……。


「死ぬのはお前だ、雑魚が」

「貴様、怪人だっ……ッ!」


 最後まで言う前に、少年……仮面の怪人の拳によって敵は爆散した。

 そして彼はそのまま私のところへやってくる。

 おっぱい、揉まれるのかな……?


「……気を失ってんのか」


 彼は私をお姫様抱っこの要領で持ち上げると、しばらく立ち止まったのちに私をベンチに寝かせて去っていった。

 揉むかどうか迷ってたのかな……?






 翌年、私は彼のいる高校に進学した。

 どうしても彼にまた会いたいと思ったからだ。

 昼休みが始まると、一直線に屋上へ向かった。


 屋上の扉を開けると、奥の方のベンチに彼がいた。あれはあの時私が寝かされていたベンチだ。


「はじめまして! お隣、いいですか?」

「えっ……ああ、うん」


 彼は少し驚いたような表情をしたのち、承諾してくれた。

 驚くのも無理はない。彼は変身が解けた私を見たことがあるのだから。

 

「いつもここで食べてるんですか?」

「まあね、毎日ここで細々と食べてるよ。一人が落ち着くんだ」

「じゃあ、私もここで食べますね!」

「まあ、いいけど……俺が決めることじゃないし」


 彼が片手に持つパンを見て聞いてみたら、毎日いるというではないか。

 つまり屋上に行けば必ず会えるということである。


「そうだ、先輩のお名前教えてください! 私は赤崎優歌っていいます!」

「俺は籾杉志抱だ」


 私は彼の事をもっと知りたい。

 私を助けてくれた彼の、怪人じゃない本当の部分を。

 だから、彼の正体には気づいていないふりをする。

 この関係を壊さないために。

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