第3話 せめてもの手伝い

 休日、俺が家でぼーっとしていると、突如轟音が鳴り響いた。

 俺はすぐにスマホを取り出しSNSを開き、検索。どうやらすぐ近くで怪人が発生して暴れているようだ。


「しかも固有種ユニークかよ……」


 投稿された動画には、肥大化した腕を振り回して街を破壊する怪人の姿が映されていた。

 場所は赤崎の家より俺の家の方がかなり近い。

 俺はすぐに着替えて家を飛び出した。






 家から出て駅の方角へ進むと、駅前で暴れる巨体の怪人が目に入った。


「さて、いっちょお手伝いといきますか」


 一旦路地裏に隠れた俺は、周囲に人がいないか確認してから変身し、怪人の前に躍り出た。


「やあ、筋肉ダルマくん。随分と楽しそうだね」

「あぁ? なんだテメェは」

「ルビーちゃんはちょっと忙しいみたいでね、代わりにお前をブチ殺しにきてやったのさ」

「テメェ、魔法少女の仲間か! 丁度いい、壊し甲斐のある奴を探してたんだ」


 そういうと、デカブツはその図体に似合わぬスピードでタックルを仕掛けてきた。

 あれに轢かれればタダでは済まないだろう……普通なら。

 俺は突っ込んでくる巨体に対して肘を入れる。


「ぐっぼぉああぁぁあ!!」

「壊れるのはお前だよ、雑魚」


 俺の体は怪人としても異常なほど強い。一歩踏み込むだけでデカブツの突進による衝撃を全て殺し、逆に吹き飛ばす。

 胸部を大きく凹ませて吹っ飛ぶデカブツに対し、それを上回るスピードで跳躍した俺の蹴りが刺さる。


「がはぁッ!」

「耐久力だけ無駄に高いね、お前」


 俺は空中でひたすら攻撃を続ける。

 殴って蹴って殴って蹴って殴って蹴って、ひたすらに怪人の体を破壊しつくしていく。

 そして、渾身の蹴りで地面に叩きつけた。


「がァッ……テメェ、絶対に許さねえ!」

「まだそこまで動けるのか……ゴキブリみたいな奴だな」


 しかし、デカブツはすぐに起き上がり、戦闘態勢をとった。

 どうやら打撃にはかなりの耐性があるらしい。

 魔法を使うと魔法少女に気づかれるのであまりやりたくなかったが、仕方ない。

 どうせモタモタしていたらルビーがやってくる。それではわざわざ出張った意味がない。


「おらぁ! 死ねやぁ!!」


 今度は拳を振りかぶって突撃してくるデカブツ。相変わらず単調な野郎だな……まあその方が好都合だけど。

 俺はデカブツに向かって手を伸ばし、魔法を使用する。


「【衝撃インパクト】」


 瞬間、不可視の衝撃波がデカブツを襲う。

 いつもはおっぱいを揉むときに弱く撃って刺激したりするのに使っているが、本気で使えば体をバラバラに破壊するほどの威力を誇る。

 そしてそれは高い耐久力を誇るデカブツでさえも例外ではない。


「ぐぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 真正面から衝撃波を受け、自慢の肉体はバラバラに散らばった。


「ふう、こんなもんかね」

「て、テメェ、ゆる、さねぇ……! 魔法少女を、破壊、してやる、つもり、だったのによぉ!!」


 が、その肉片が一か所に集まり、再び肉体を構成する。

 すぐに元の形に戻ったデカブツにダメージらしいダメージは残っていないようだ。

 まさかあれでも死なないとは恐れいった。が、それよりも。


「へっ、これでテメェの手札は割れたぜ?」

「お前、今何て言った?」

「テメェの手札……」

「違う、その前」

「あ? ああ、魔法少女を破壊してやるのさ、俺の破壊衝動が満たされるまでボコボコにし……ごぶぉえッ!」


 言い終わる前に渾身の蹴りが刺さる。

 魔法少女を、破壊? この世界の至宝と言っても過言ではないあの究極のおっぱいを、破壊? こいつは何を言っている?

 ……ああやべぇ、思考が怪人に寄って来てるな。あんまり周りに被害出したら赤崎が悲しんじまう。深呼吸、深呼吸……。


「おいクソ野郎、一つだけいいことを教えてやるよ」


 努めて冷静に。


「おっぱいを乱暴に揉むのはご法度だ、痛いだけらしいからな」


 おっぱいに揉まされるな。


「今日は俺が特別に見せてやる」


 俺は自分の意思で揉む!


「悪いお手本ってヤツをなァ!!」


 俺は倒れたデカブツの胸部に腕を突っ込む。

 そしてそのまま【衝撃インパクト】を発動。先程よりも高出力で放たれた一撃が、デカブツの体を粉々に吹き飛ばす。

 より細かく砕かれた体から、結晶のようなものが転げ落ちる。


「ま、再生系の定番だよな……てか汚ねえな」


 俺はそれを思い切り踏みつぶした。






 それからほどなくして、魔法少女ルビーがやってきた。

 思ったより遅かったが……俺が戦ってたから利用したか?

 とりあえず身バレ防止のキャラを取り繕う。

 ああ、心が洗われる。あの美しい天上のおっぱい……揉みてえなぁ。


「やあルビーちゃん、遅かったね」

「怪人さん……」

「ま、今日は疲れたから帰るよ。また会おうね」

「……まって!」


 本当は揉みたい気持ちを全力で抑えながら踵を返す。ここでやったら手伝いの意味がない。

 そう思ったのだが、ルビーは俺を呼び止めた。


「そ、その……おっぱい、揉む?」


 振り返ると、自らの胸を持ち上げながら不安げな瞳で俺を見るルビーが視界に写った。俺に感謝を伝える方法がそれしかないとか思ってるんじゃなかろうか? おおむねその通りである。胸だけに。

 というかやばい。理性がイカれそうだ。揉みたい。それはもうとてつもなく揉みたい。

 本人から提案されているのだから揉んでしまえばいいのではないか? そんな思考が俺の脳内を駆け巡る。


「いや、やめておくよ……」


 しかし、俺は湧き上がる衝動を必死に抑え、今度こそ帰路についた。

 本当は揉みたいけど、ここで揉んだら心まで完全に怪人になってしまうような気がしたのだ。揉みたいけど。

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