第十五章

 日曜日の朝、とは言ってもほとんど正午に近い十一時のブランチを私は友達の千秋としていた。秋と冬で季節的にも近いけど名前は千秋の方が圧倒的に女の子らしかった。彼女とは高校からの友人だ。あのふたり以外でこんなに仲良いのは千秋くらいで、前になんかの会話の時に「雪穂好きだよ」って言われた事ある。まさか、千秋レズだったのと思ったが、別に友達としての好きだよ、よくあるでしょ、百合的な。と言われたのだが、百合なら意味合いがレズ寄りじゃないかなと思う。「パスタ嫌いだっけ?」

 「え」

 千秋に言われて驚く。

 「だって全然食べてないよ? あの日?」

 「いや、まだだけど。てか、私結構軽いから平気だよ」

 「いいなぁ、てかそれじゃないなら恋?」

 「恋かもね」

 「はっ!?」


 千秋は食べているパスタのフォークを落としそうになった。

 その表情に私はしまったと思った。彼女の表情は驚きからイタズラを思い付いた猫のようにニヤリと笑って頬杖を突く。ニヤニヤしながら彼女は、

 「誰が好きなの? ほらほら、言っちゃいなよ」

 と楽しそうに訊くのだ。

 「いや、好きな人居ないから」

 「女子はそうやって好きな人居るもんだよ」

 「そう言うあんたは好きな人居るの?」

 「居るよ?」

 居るんだ。

 そう言って彼女はフォークで私を指さした。こらこら、人を食器で指さすんじゃありません。

 「お前」

 「はぁ、また友達としてでしょ?」

 「んにゃ、マジ恋」

 「はいはい、てか食べよ、このあと買い物でしょって、ほわぁ!?」


 急に変な声出したのは千秋に胸を揉まれたからだ。

 「何するの!?」

 「だからマジ恋だって」

 「だとしても胸を揉むな!!」

 「なんなら信用するん? キスとかはハードル高いでしょ?」

 「うっ」

 何でコイツ付き合い短いのにこんなに私の事知って居るんだ?

 「てかさぁ、他に好きな人居るとかマジでムカつくんだよね。その子ヒバリでしょ? あの子絶対、夏樹君以外好きじゃないよ? だからさ」

 そう言って千秋は私の肩に手を乗せた。

 「私にしとけ? な?」

 そう言う千秋に私の心は揺れていた。



 △


 「おはよう、雪穂」

 ヒバリが夏樹と一緒に歩いている。私は少し動揺しながらも挨拶を返した。

 「あ、うん、おはよう」

 「どうしたの? 元気ないけど」

 「ううん、何でもないよヒバリ」

 「どうせ、雪穂の事だから食い過ぎだろ?」

 そういつもの軽口を言うのは夏樹だ。でも、今日は何だろう言い返す元気もない。

 「あ、うん、そうかもね」

 「……おい、マジで大丈夫かおまえ?」

 さすがに心配になったのか夏樹は私の肩に触れようとするのを誰かが遮るように間に入った。

 「大丈夫? 雪穂?」

 心配そうに声を掛ける千秋は私の背中をさする。そして、ヒバリたちを無視するように「今日は学校休んだら?」と言うのだが、そこまで体調が悪くはないので断った。

 「大丈夫だよ、千秋。ありがとう」

 「そう? 無理しないでね」

 そう言って千秋は雪穂を気遣うように歩くのだが一度もヒバリたちの方を見なかった。

 後に残されたヒバリと夏樹は唖然としていた。

 「何だアイツ?」

 「なんか無視されていたね」

 「感じ悪!! あームカつく!!」

 夏樹は素直に感情を出して頭を掻く。

 「てか、僕らも遅れるよ、行こう」

 そう言って夏樹の手を引こうとしたのだけど、逆に夏樹は僕の手を引く。なんだか疑うように僕に小声で言う。

 「あの女、何か怪しくね?」

 「何が?」

 「なんか、なんつーのかな勘だけど……」



 アイツ、ユキの事好きなんじゃね?



 「え?」

 僕はふたつの意味で驚いた。

 あの子が雪穂の事好きだって言う事と一緒に夏樹がユキなんて昔の名前で呼ぶときは滅多に無い。だから、きっと夏樹の中で雪穂はきっとただの親友って感じじゃないんだと思う。

 ほとんど生まれた時から一緒に居るんだ。家族以上の関係だっておかしくない。

 「ちと、探るか。ヒバリ付き合え」

 「え、え? え!?」

 何をするのか分からず僕は夏樹に引かれて行った。

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